贈与と返礼、小さな体験から

 最近、通勤途中の電車とバスの車内で他の乗客から席を譲ってもらうことがありました。私は高齢者と呼ばれる年齢ではありませんし、車内で立っていることに特に苦痛を感じているわけではありません。少し複雑な気持ちになりましたが、お礼の言葉は伝えました。
 座席を譲るのはささやかな行為ですが、一種の贈与であると言えます。贈与を受けるとやはり何かしら返礼をしなければという思いが湧いてきます。ただ、その思いも日々の生活の中で薄れつつありました。
 そして昨日、図書館からの帰りのバスで自宅近くの停留所で降りたところ、私のすぐ後で降車しようとしていたのはベビーカーを押している女性でした。これはありがたい機会と、ベビーカーをバスから降ろすお手伝いができました。そして、今日は別の公共図書館で秋のイベントが行われていました。会場には古本の寄付を受けつけるコーナーがありました。以前から蔵書の整理を少しずつ続けていましたので、これもよい機会なので何冊かの本を受け取っていただきました。たまたま知らない人からの贈与を受けて、たまたまの機会にまた別の知らない人に返礼するという体験ができたように思います。
 現代に生きる私たちは商品経済、市場経済にすっかり身を浸してしまっています。お金(貨幣)を媒介としたやりとりがあまりにも日常的になっています。それでも、知らない人びととの間で贈与と返礼のサイクルをつくっていけば、また違った生存のための風景が見えてくるのではと思いました。

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