性風俗業従事者への差別について考えること

 性風俗業者は新型コロナ対策の持続化給付金・家賃支援給付金の支給対象から除外されました。これを違法不当として提訴した事業者に対して裁判所は一審、二審ともに敗訴を言い渡しました。先日の二審判決では「納税者である国民の理解を得るのが困難」として除外を肯定しました。性風俗従事者に対する人びとの偏見、差別意識を是認して、それを根拠として経済的支援からの除外を正当化した判決です。性風俗業は支援するに値しない職業であると公権力があらためて宣言したということです。
 一定の職業(皮革加工、屠畜、刑務、警察)に従事する人びとが被差別民とされてきた歴史がこの国にもあります。そして、職業と関連付けられた差別意識を公権力も容認しているのが21世紀のこの国の現実なのです。
 この問題をめぐっては、当事者に対して「そんな仕事」という言葉を発してしまう私たちの意識がどのようにしてかたちづくられたのかを掘り下げる必要があるでしょう。そして、「そんな仕事」と言われた当事者が感じるであろう自尊感情の傷つき、恥辱感に想像力をはたらかせたいと思います。
 性風俗業には知的障害がある方や精神疾患が長引いている方が数多く就業しています。現代の日本ではサービス・小売業の低賃金の職種でも細かいマニュアルを覚えることや、かなりの作業速度を求められることが多いです。また、精神疾患があると、精神状態や体調が不安定、朝起きがむずかしい、対人関係にストレスを感じやすいといった特性のために職業選択の幅がせばめられてしまいます。障害や病気というハンディを負った女性が就労困難や生活苦に追いつめられ、性風俗業を生存のよりどころとしなければならないという現実があります。そうした私たちの社会のあり方も問われるべきではないでしょうか。
 さまざまな差別意識がどのような帰結をもたらしうるのか考えてみるのは大切だと思います。無自覚な差別意識に根ざしたふるまいが時には被害者の命をおびやかし、さらには命を奪ってしまうこともあります。20世紀のナチス政権下のドイツでユダヤ人、ロマ、障害者などが大量虐殺されたのはその例です。現代の日本でも、野宿生活をしている人びとが暴行の被害を受ける事件が頻発しており、被害者が死亡するケースもあります。2019年、台風19号接近時に東京都台東区が避難所への野宿生活者の受け入れを拒否したことが問題となりました。例えば大きな火災が起きたとき性風俗業の店舗の消火・救助が後回しにされることはさすがにないとは信じたいですが。


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