人間には芸術が必要なので

 窓越しに見える最後の一枚の葉が風に散るとき、自分の命も終わる。重症の肺炎に苦しみ、生きることをあきらめていた女性を救ったのは芸術の力でした。子どもの頃に読んだ、オー・ヘンリーの短編小説「最後の一葉」は今も心に残っています。
 テレビアニメ化されて多くの人びとに知られている「フランダースの犬」(ウィーダ)。その最後の場面で、主人公の少年ネロはあこがれていたルーベンスの絵画を見ることができて、愛犬のパトラッシュとともに短い人生を終えました。
 キリスト教の教会や修道院では初期の頃から儀礼の場で聖歌が歌われていました。日本では、禁教の時代、歌オラショと呼ばれる聖歌が弾圧を逃れるためひそかに口伝によって歌い継がれました。
 かつては、三味線を弾き、歌を歌いながら各地を巡って生きのびていた視覚障害の女性たちがいました。瞽女(ごぜ)と呼ばれた人びとです。

 COVID-19が流行する中で、美術館、映画館、劇場などが閉じられ、音楽の演奏会などが休止となっています。美術、音楽、演劇、映画などを「不要不急」として安易に切り捨ててしまってよいものでしょうか。今、多くの人びとが精神的健康を悪化させていることが伝えられています。人間が長い歴史にわたって、芸術を創造し享受してきたことの意味を考え直したいものだと思います。


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