桜咲き初め浜離宮に渡る夜風 2023年3月16日<反田恭平プロデュース JNO Presents リサイタルシリーズ ヴァイオリン 東亮汰の世界2023 ①浜離宮
(トップ画像は公演プログラムから)
2023年3月14日、東京にソメイヨシノの開花宣言が出されたその日に、推しである務川慧悟さんが久しぶりのツィートを投稿した。
開花宣言と久々の推しツィート。
春の訪れを実感させる2つのニュースに、務川ファンは歓喜! ようやく季節が動き始めた。
ご帰国後の務川さんは、16日と21日にヴァイオリニスト東亮汰さんらとの四重奏公演、19日には進藤実優さんとの2台ピアノ公演を控えている。これまでなんとなく気持ちがモヤモヤして塞ぎがちだった皆さんも、ここはひとつテンション上げていきましょう!
というわけで16日に行われた<反田恭平プロデュース JNO Presents リサイタルシリーズ ヴァイオリン 東亮汰の世界2023>を素人目線、自分本位にレポートします。
公演プログラムはこちら。
なかなかハードなプログラムじゃないですか! 予習必須、しかも結構時間かかるやつ。ぶっちゃけ知らない曲が多いのだが、こうして初めての曲を知り、生で聴けるということが非常に楽しいし、予習の段階から既にコンサートは始まっているのだと実感する。
しかしこういう選曲をする東さんと共演者の皆さん、プロデュースする反田社長が素敵だなあと思うのだ。東さんのパッションが伝わってくるのと同時に、こういう選曲をしても集客できる、聴衆を楽しませることができるという社長のファンへの信頼感。
はい、一生懸命予習しますよ(笑)。
早速東さんが16日公演のリハをアップしてくれた!
そしていよいよ3月16日(木)当日。浜離宮朝日ホールにやって来ました。
ここにくると思い出しますねえ。昨年末の務川慧悟氏、怒涛のラヴェル4公演。あの熱気溢れる親密な日々。いやあ濃厚だったなあ。
今日はまた装いを変えて、デュオと四重奏、楽しみです。
会場は女性客多めでほぼ満席。この日は大変暖かかったので春物コートやジャケットの方が多い。やや身軽になった心地よさもあってか、なんとなく明るい雰囲気が漂っている。春ですねえ。
さて開幕時刻となり、お二人がご登場。
東さんは黒の詰襟型のマオカラースーツ、胸元には青いチーフ(青のオーケストラ!)、務川さんは黒のスーツに黒シャツ。
一礼ののちに演奏が開始された。
⑴ドビュッシー: ヴァイオリン・ソナタ ト短調
3楽章から成るヴァイオリン・ソナタ。この作品を書いた1916年頃、ドビュッシーはガンの闘病中だったそう。しかし作品への熱意は高く、最終楽章は6回も書き直しをしたのだとか。ドビュッシー最後の作品。
1916年と書くと意外と現代に近いという感じしますね(昭和の人間だからね笑)。この曲もあまり調性や拍を感じさせないというか、ドビュッシーってやっぱり20世紀音楽の作曲家だよねという思いを強くするというか。いや慣れないこと言ってしまった(笑)。
この曲について、務川さんは以前ツィートをしている。
ちょっと抜き出してみる。
現代的な印象を持つこの曲だが、そう言われてみると全体的にハイテンションな感じだ。〈現実と夢の境界〉、この世と別世界を行き来する音楽が想起される。
東さんの呼吸音が非常に聞こえてくる。
息を止め、次の瞬間気持ちを乗せた音とともに深い呼吸音が発せられる。その一音を出すために、どれだけ魂が込められているか。
音楽家達のそうした呼吸音を聴くたびにいつも、彼ら彼女らは命を削ってその音に賭けているのだと思い知る。
東さんのオケ中での演奏は何度か聴いたことはあるが、ソロ演奏は実は初めてお聴きする。いつもにこやかな東さんとは異なる表情からも、演奏への真摯な思いが伝わってくる。
寄り添うというか、共に歩み時に挑むような務川さんのピアノ。まろやかで、会場にすっと溶け込んでいく音色に、ああまた務川さんのピアノを浜離宮で聴けているという心地になる。
第2楽章の問いかけるようなヴァイオリンのフレーズがとても好きなのだが、うまく説明できないのが残念(笑)。タイミングやテンションの急激な上げ下げなど、トリッキーな曲にも関わらずお二人の息はバッチリ。鮮やかな幕開けだった。
拍手を受けお二人は一旦退場した。
さて次の曲と思ったら、東さんがお一人でマイクを持ってご登場。
⑵トーク
最初のトーク! その後もトークが数回入ったところを見ると、東さんは話し好きな方なのかな。真面目なお話しぶりを見るに、もっと伝えたい、伝えなければという思いが強かったのかも。
まずはプログラム選定について、この公演の成立過程から東さんが説明してくれた。
●東さん「最初に決まったのがピアニストの務川慧悟さんとの共演でした。務川さんといえば、フランス音楽に造詣が深いということから、フランスものを中心としたプログラムを作ることにしました。
まずフランクのヴァイオリン・ソナタを演奏することを決め、その前に15分くらいのフランスのものということでドビュッシーを入れました。後半は四重奏でフォーレを選び、また15分くらいの作品をということで、マーラーを入れました。
ドビュッシー、フォーレはフランスですし、フランクは出身はベルギー圏になりますが、主な活躍の場はフランスでした。マーラーはフランスではないですが、近い時代の作曲家ということで、うまく揃えることができたと思います。
前半のドビュッシーとフランクはともに彼らが晩年に書いた作品です。それに対し後半は、マーラーが16歳の時、フォーレも20代前半の時に作った曲であり、初期の頃の作品になっています。前半は完成された作品、後半は若々しい作品をお楽しみいただければと思います」
ここで東さん「せっかくなので、トークに務川さんも入っていただきましょうか」
おおっ! もちろん会場からは拍手が起きる。
務川さんが姿を現し、拍手はますます盛り上がる。
「いや、思ったより1人で話しているなーと思って(笑)。ご機嫌で裏でトークを楽しんでいたんだけど」と務川さん。
●東さん「ところで開演前に<今日は空調を強くしています>というアナウンスがあったんですけど、今日は花粉が多いんですかね。実は僕は花粉症で薬を飲んでいるんですよ。会場にもきっと花粉症の方がたくさんいらっしゃると思いますが、どうぞ気にせずくしゃみしてくださいね。でも僕は演奏中にくしゃみしたら大変だから、出ないといいんですけど(笑)」
●務川さん「僕も花粉症がひどいんですよ。3日前にパリから帰国したんだが、パリにいるときは全然症状無かったのに、帰国した途端もう大変で。僕も本番中にくしゃみしたら、ごめんなさい」会場笑。
話題は次に演奏するフランクのヴァイオリン・ソナタについて
●東さん「この曲のヴァイオリン・パートは難しいのですが、ピアノも難しいと聞きます」
●務川さん「難しいといえば難しいけど、そうかな? でもこの曲、僕はもう10年くらい弾いているから。まあ、ちょっと難しい。えへへ」
●東さん「フランクは傑作をいくつも残していますが、このヴァイオリン・ソナタは、まさにヴァイオリニスト憧れの曲なんです」
●務川さん「いい曲だよね」
●東さん「はい。僕はこの曲に取り組んで1年くらいなので、もう10年弾いているという務川さん、お手柔らかにお願いします(笑)」
⑶フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調 M.8
夜風にあたるために庭に出る。微かな月明かりに照らされた庭の暗いそこここに、春の生命が蠢いている。気配が濃厚に伝わってくる。その中にふっと紛れ込む懐かしさ。とうに消え去ったはずの、あるいはかつて知っていたが今はもう存在しないはずの旧知のものがなぜか漂う不思議……切なさと愛しさの香る出だしだ。ピアノで現れる第2主題もとても魅惑的。東さんのビブラートかかった音色が細く切々と響く。
それを支えるピアノ。さすが10年弾いていたからというわけでもないが、どうやら務川さんはほとんど楽譜に目をやっていないように見える。もう暗譜でもきっと弾けるのだろうな。和声が展開するときなどに見せる感じ入ったような表情や、音楽に合わせて大きくなる動きなど、いつもの務川さんの様子が嬉しい。また髪が伸びてきたのか、今回は左手で前髪を横に流す仕草が演奏中も多く見られた。もうどんどんやってください(笑)。
白熱の第2楽章はまるで嵐と凪。丁々発止のヴァイオリンとピアノのやり取りは手に汗握った。
白眉は第3楽章。東さんが決然とした表情で打ち出す音色に圧倒される。あるいは細く長く保持される弱音。耳を澄ませるほどの微かな調べだが、確実に心に響いてくる。寄り添うピアノ。この不安定で荒々しくもある世界の中で、こんなに美しく導いてくれる音があるだろうか。愛とか、絆という言葉が浮かび、思わず涙ぐんでしまった。
そして有名な第4楽章のフレーズ。ヴァイオリンが朗々と高らかに歌い上げる。一緒に盛り上がり、駆け上がり、下りてくるピアノはまさに一体。
生の喜びを歌うお二人の演奏に大きく包まれた時間だった。
大きな拍手はやがて止み、ここで休憩タイム!
デュオや室内楽演奏では、私の場合、あまり推しのピアノだけに集中して聴くというのができない。他の弦やそれぞれの絡みの方に気が向いてしまう。
だけど面白いことにオケ相手の協奏曲だと、逆にピアノだけにモロ集中して聴けるから不思議。これはなんなんでしょうね。
後半はマーラーとフォーレ、さらにアンコールが演奏された。
が、この記事はここまで。後半プロは、奈良公演についての記事で紹介したいと思います。すみません、自分ルールで(笑)。
というわけで「②奈良」編に続く。
②奈良編はこちら
☆推し散歩
江口寿史さんの「東京彼女展」を見に、初めて東京日比谷ミッドタウンへ行った!