鹿も聴き惚れる桜の音<反田恭平プロデュース JNO Presents リサイタルシリーズヴァイオリン東亮汰の世界 2023>②奈良公演
3月21日奈良市。
16日の浜離宮公演から5日後に<反田恭平プロデュース JNO Presents リサイタルシリーズヴァイオリン東亮汰の世界 2023>奈良公演が開催された。
今回は、前回浜離宮公演についての記事に続く第2弾。またまたゆる〜く読んでいただけると嬉しいです。
☆その1〈浜離宮編〉はこちら
本日のプログラム
東さんのインタビュー記事
公演に先立ち、昨年12月奈良市のHPに掲載された東さんのインタビューから、奈良公演についてのお言葉をピックアップしてみる。
素晴らしいメンバーとの重量級プログラム。公演を楽しみにされているという自然体のお姿が素敵ですね。<音のパレットで色彩感豊かにフランス音楽を表現>という記述がとても綺麗だなぁ。
なら100年会館
当日の奈良の天気予報はあいにく雨だが、お昼の時点ではなんとか曇天キープ状態。「晴れ男」の呼び声高い、推しのパワーでなんとか天候がもちますように。
会場はこちら「なら100年会館」。
JR奈良駅前の堂々たる建物じゃないですか!
2階に上がった先が中ホール入口。そこを抜けると、さらに広々とした空間が続く。
ガラス張りの中ホールは、全体がヴェールのような金網(でいいのか?表現)で覆われていてまるで秘密の集会場みたいな雰囲気。
ホール内。舞台背面はガラス張りで開放感があり、低い舞台が親密さを感じさせる。前述した金網に覆われている造りも、なんとなくコクーンの中に入り込んでいるようで、心安らぐ気持ちになる。素敵なホール。
時間となり、ヴァイオリンを手にした東亮汰さんと務川慧悟さんが姿を現した。
一礼後、演奏が始まる。
ドビュッシー:ヴァイオリン・ソナタ ト短調
東さんのヴァイオリンがホールに清々しく響き渡っていく。務川さんのピアノは強い推進力でグイグイと前へ進んでいく。
ホールの特質の違いかもしれないが、浜離宮ではまろやかで包み込んでくれるように感じられたお2人の音色が、この日は明るく前面に押し出てくるように聴こえた。務川さんのピアノも寄り添うというよりも対等で、笑い合ったり、ちょっとからかってみたり、一緒に盛り上がったりと、まるで友人同士で会話しているよう。
東さんの超弱音からのビブラートに今回も感嘆した。
ここで1回目のトーク!
(※結構抜けが多いです。しかも言い回しはこの通りでないので、すみません)
東さんはマイクを手に立ち、務川さんはピアノの前に座った状態でトークが始まった。
●東さん「本日はありがとうございます。今日の公演は、先日16日に東京浜離宮朝日ホールで行われた<JNOリサイタルシリーズヴァイオリン東亮汰の世界>の2日目になります。プログラムは前半がドビュッシーとフランクで、後半がマーラーとフォーレで……」
おや、東さんがなんか今回はちょっとグダグダな感じでは? 満席の会場からも「頑張って」という視線が飛ぶ(←視線だけ笑)。
●東さん「あれ、なんか今日は浜離宮の時よりも緊張している(笑)。ええと、今日の公演は16日の浜離宮公演から中4日明けてとなります。実は本番ギリギリまでゲネリハ行なっていました。WBCも気になっていたんですが、それは公演前に結果を知ることができて良かったです(笑)」
(※21日8時からWBC準決勝が放映されていた。メキシコ相手に6-5のサヨナラ勝ち)。
「今回のプログラムについてお話ししますと、
まず最初に決まったのが、ピアニストの務川慧悟さんとの共演でした。務川さんといえばフランス音楽の専門家ですし、せっかく共演ができるのなら色々とご指導していただきたいと思い、フランスもの中心のプログラムを組むことにしました。前半に演奏するドビュッシー、フランク、後半のフォーレ。あとはフランスではないのですが近い時代のマーラーの作品です。
ただ今演奏したのはドビュッシーのヴァイオリン・ソナタ ト短調です。ドビュッシーはフランスの作曲家で、フランス的なフレーズが多く出て来る曲です。
次に演奏するフランク「 ヴァイオリン・ソナタ イ長調 M.8」は、ヴァイオリンソナタの最高傑作のひとつであり、ヴァイオリニスト憧れの曲です。なかなか難易度の高い曲でもありますが、ピアニストにとっても難しい曲と言われています。ここで務川さんにもお話していただきましょうか」
東さんがマイクを渡し、務川さんが受け取り立ち上がる。
●務川さん「こんにちは。務川慧悟です。この曲を僕が初めて弾いたのは約10年前、大学生の時です。藝大の仲間と一緒に演奏しました。その時は合えば満足という演奏だったのですが、10年弾いてきて今はもう少し大人な演奏ができるようになったと思います。
フランクはフランスの作曲家ではありますが、ドイツ音楽の影響も受けているので、仏独折衷といった感じでしょうか。またオルガニストでもあったので、曲の中にはオルガンらしいフレーズも多く現れます。
この曲は、フランクがイザイの結婚祝いとして作曲し献呈しました。こんな曲を結婚祝いにいただけるなんて、なんかいいですよねえ、ふふふ」
フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調 M.8
素晴らしい演奏でした。
ヴァイオリンとピアノの響きが心地よく、あっという間に終わってしまった。
ということで前回書いたので割愛します…
休憩の後、後半が始まる。
東さんに続き、長田健志さん(ヴィオラ)、森田啓佑さん(チェロ)、務川慧悟さん(ピアノ)がご登場、それぞれ着席した。
マーラー:ピアノ四重奏曲 イ短調
ソナタ形式の第1楽章のみの構成。ピアノから入り、次第に弦がメロディを形作っていく。個人的に美しいと思うのが第1主題の終わりの方で、長調に導くような和声に聴こえるが結局短調で落ち着くところ(←すみません、言い方が!語彙が!)。
目の前で演奏されるピアノ四重奏は、とにかくとても迫力があった。それぞれの楽器の音がダイレクトに伝わってくるし、奏者の表情もよく見える席だったので、そっちにも意識行って忙しかった。
基本はコンサートマスターの東さんの呼吸に合わせ音出し等されるのだが、演奏中も奏者同士で頻繁にアイコンタクトがあったり、合わせる楽器の様子を目でうかがったりと、各奏者の呼吸や動きにも目が離せない! 和声の響きにおっという感じで眉を上げたりとか、そんな様子からも奏者の皆さん全神経にアンテナを張り巡らせながらも、音楽に浸っていることが伝わってきた。
前半のデュオも良かったが、ピアノ四重奏になると音の幅がより広がり多彩になる。そんな変化にもおお〜っと大感動だった。
2回目のトーク
曲が終わると、東さんがマイクを握る。
●東さん「ただいま聴いていただいた<ピアノ四重奏曲 イ短調>は、マーラーが16歳の時に作曲したものです。この曲の楽譜には強弱といった記号が一切記述されていないのです。そのためそのまま演奏するととても平坦な音楽になってしまうので、4人で和声を見るなどして話し合いながら演奏を作っていきました」
「さて早いもので、次の曲が本日の最後となります。フォーレ<ピアノ四重奏曲第1番 ハ短調 Op.15>です。この曲なんですが僕、フォーレが24歳の時に作曲したと浜離宮でお伝えしたんですが、どうやらそれは勘違いだったみたいで、実際には34歳の時の作曲でした(笑)」
「せっかくなので、長田さんと森田さんの声も聞いてみたいですよね」
会場から大きな拍手。東さんの隣に座っていた長田さんは最初固辞していたが、結局マイクを受け取り立ち上がった。
●長田さん「こんにちは。ヴィオラの長田健志です。次にフォーレを演奏するのですが、弦楽奏者にとってフォーレはあまり演奏する機会のない作曲家です。そして僕はフランス音楽は実はあまり得意ではないんですよね(会場もメンバーも笑)。でも今回お声がかかり、こうして機会をいただいたので、しっかり勉強しようと思って演奏しています。JNOでは、あとは今月末にこちらの会場でも開催されるホルンの鈴木優さんのリサイタルにも出演させていただきます」
(※<ホルン鈴木優の世界 2023/反田恭平プロデュースJNO Presentsリサイタルシリーズ>3/29 なら100年会館、3/31 東京浜離宮朝日ホール。東さん、長田さんも出演予定)。
マイクは森田さんに。
●森田さん「チェロの森田啓佑です。フォーレについては、もう何もいうことが無くなってしまったので、今回のメンバーがみんな多忙だというお話をしようと思います。我々は5日前の3月16日に東京の浜離宮で演奏をしたのですが、その後東くんは東京と長野で演奏をし、務川さんは昨日まで愛知県で公演がありました。僕も奈良の学校に行き、アウトソーシングでチェロを指導してきて、僕自身も若いパワーをたくさん吸収しました。このようにこの数日間、皆さん大変忙しくしていたみたいです。なので今日集まってのリハーサルは直前までしていたんですよ」
フォーレ:ピアノ四重奏曲第1番 ハ短調 Op.15
弦のリエゾンとピアノの伴奏で重々しく始まる第1楽章。メロディを各パートでやり取りする、その阿吽の呼吸。室内楽こそ生で実際に見て聴く方がずっと楽しいと思う。細い糸を次々繋いでいくように、メロディを4つの楽器が代わる代わる奏していく様はスリリングだし迫力がある。音の糸を追いつつ、さらに複雑に重なり合う音楽を味わっていると、密度の濃さで頭が飽和状態になってくる。
しかしこの曲はピアノが大活躍じゃないですか? 特に第2楽章スケルツォはピアノが主題を演奏する冒頭から終始聴かせる。ピアノ対弦楽器の構図にもひるまず立ち向かう推し。複雑なリズムと音色の中に、心を浮き立たせる軽やかさと気品が感じられるピアノがさすがです。
第3楽章は、歌うような弦のやり取りに惹かれた。リエゾン・オクターヴによる音の厚さ、広がり。
第4楽章はカッコ良いの一言。ピアノの三連符の分散和音に乗って、弦が疾走感溢れるメロディを繰り出していく。
まさに途轍もない音の奔流。とにかく情報量が多すぎて処理できないままだが、終わった後は深い感動と満足感に満たされている。
美術館で名画を鑑賞したように、あるいは圧倒的な自然の中で過ごしたような感覚。室内楽の奥深さにすっかり魅せられた。
♪アンコール
リヒャルト・シュトラウス:ピアノ四重奏曲 ハ短調Op.13 第3楽章
公演のラストに美しいメロディ。癒された〜。感想それだけ? いやもう頭パンクしてますからただただ癒されて、ほわーとなりました。
終演後はあいにくの雨。まあでも終演後だから、晴れ男伝説はまだ続きますよ(笑)。
この雨は、これで推しがパリへ戻ってしまう、次回は5月か〜というファンの惜別の涙かしら、なんちゃって。
☆推し散歩
現地に来るまでに、スリリングな近鉄乗り継ぎをしたり、豪華な「あをによし」号を見送ったり(乗ってない笑)、社食行ったりしましたー
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