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【Apple Watch Ultra】プレゼンで徹底的に隠された秘密。

今日の話、あくまで僕の推理なので、話半分に聞いてください。Appleイベントの後は毎回こういう話をするチャンネルなので、気に入ったらチャンネル登録して今後のイベントの時も聴きに来てください。

結論から言うと、Apple Watch Ultraのプレゼンテーションの最大の秘密は「Appleが本当のターゲットユーザーをプレゼンテーションに登場させていない」ということだと思います。

まず、今回のApple Watch Ultraのプレゼンテーションは、17分20秒間ありました。このコーナーは最初から「極めて過酷な環境で活動する人たちとの対話と、長年の研究によって完成させたのがApple Watch Ultraだ」とはじまります。

そして僕、プレゼンの中で紹介された注目ポイントを数えてみたところ、全部で20個あったんですけど、その全てが冒険家か、ダイバーか、マラソンランナー向けの機能のように語られていました。

実際に、著名な冒険家とダイバーとランナーの名前まで出して、一貫してこういう人たちをを意識した話だったんですけど、実は僕、Appleがメインターゲットにしているのは、ここで挙がったような人たちじゃないんじゃないかなと思っています。

そもそも、Appleにとって市場規模が小さすぎる

なんでかというと、そもそもこのプレゼンで登場した人たちをターゲットにした市場の規模は、Appleには小さすぎると思うからです。

冒険家向けの時計、ダイバー向けのダイブコンピュータ、ランナー向けの時計のそれぞれの市場規模を出すのは難しいんだけど、例えばApple Watch Ultraと今後比較されていくであろう、ハイエンドなスマートウォッチを出しているGarminという会社は、会社全体の2021年の売り上げが7000億円なんです。でもここには、GPS技術を活かした漁業系のB2B製品みたいなスマートウォッチ以外の売り上げも入ってるから、スマートウォッチに限ればもっと規模が小さいことになるんです。

ここでは仮に半分の3500億円をスマートウォッチの売上としたとして、他にダイブコンピュータの市場や冒険家ウォッチの市場もあるんだけど、全部足して盛りに盛っても、全世界で1兆円にならない規模なんじゃないかと思います。

年間1兆円というのは凄そうなんですけど、実はAppleにとってはかなりギリギリのラインです。というのも、ウォッチ以上に安定的に、定期的に買い換えてくれるユーザーが多いiPhoneのジャンルで「売れなかった」と烙印が押されてしまったiPhone 12 miniの売り上げが、おそらく7ヶ月で5000億円くらいになるんですね。

これは、iPhone 12 シリーズが発売7ヶ月で1億台売れたというプレスリリースの数字に、iPhone 12 シリーズの中でminiは5%程度しか売れてないという調査会社の予測と、iPhone 12 miniのざっくりの価格10万円をかけて算出したんですけど、とにかく7ヶ月で5000億円で、残り5ヶ月で2000億くらい足しても7000億円なんです。これで「売れてない」と言われて、実際にminiシリーズは今回無しになってしまったわけだから、はじめる前から1兆円あるかないかという市場がいかにAppleにとってイマイチか、この事例からよくわかると思います。

じゃあ、Apple Watch Ultraはどこ向けの商品なのか?

狙いは、高級時計市場

Apple Watch Ultraが登場した今、僕はApple Watchのマトリクスはこのようになったと思います。

まず、誰にでも買ってほしい入門機のSEがあります。そして、最新の機能を求める人のためには、今回発表されたApple Watch S8のアルミモデルが用意されています。

で、ここから先が二手に分かれて、よりフォーマルな場で身に着けるドレスウォッチを求める人に向けた製品として、Apple Watch S8のステンレスモデルがあって、そのさらに先にエルメスエディションが来ます。

余談だけどAppleは最初にエルメスを捕まえたの、すごいよね。エルメスもよくApple Watchと手を組んだよね。エルメスって、カバンのジャンルの中では圧倒的に高級だけど、それに比べて時計は元々そこまででもないし、基本的に革のブランドだからバンドの方に価値があるブランドで、でも全体として超ハイクラスのイメージがあって、そこと最初に組むの、お互いうますぎですよね。

それで話を戻すと、高級時計の市場ってもう一つ分岐があって、それがダイバーズウォッチとかスポーツウォッチみたいなジャンルなんですよね。これもこれで、お高くて人気な時計がたくさんあります。

僕、時計について詳しくないんで間違ってたらコメントで教えてください。でも、僕が知ってるだけでも、例えばオメガのシーマスター。ジェームズボンドが着用したコラボモデルの「ダイバー 300M」という時計は120万円します。タグ・ホイヤー 「アクアレーサー プロフェッショナル300」という時計は4〜50万円します。

どちらも300メートルまで潜っても壊れないスペックですが、この時計をつけていて300メートルまで潜る人は1%もいないんじゃないでしょうか?300メートル潜っても壊れないというロマンに魅せられて、日常遣いでテンションを高めているんだと思います。同じように、どちらもチタン製のケースで、オメガは表面がサファイアクリスタルなので、まさに冒険にも耐えられるような頑丈設計なんでしょうけど、冒険に出かける持ち主はほとんどいなくて、みんな冒険家に憧れて身につけていることでテンションを上げているんだと思います。そしてそういう人たちの存在が、こういう製品とブランドを支えていると思います。

それで、レポートオーシャンという会社が2021年の7月に出したレポートによると、2019年の高級時計市場は436億6,180万ドルで、日本円で6兆円強になるようです。Appleが、Apple Watch Ultraとエルメスエディションで狙うのは、どちらかと言えばこの市場だと思います。

真のターゲットは、「無骨な高級時計はカッコいいけど、その価格に納得出来るほどの根拠を用意できない」人

で、言ったことすぐひっくり返しますけど、多分、正確には高級時計市場を狙っているというのも違っていると思います。本当に高級時計が好きで、高級時計を買う余裕があって、今も高い時計を身につけてるような人が、ガジェット感のあるApple Watchに乗り換えるのはあまり想像ができません。

だからAppleが本当に本当にApple Watch Ultraで狙っているのは、「無骨な高級時計はカッコいいけど、その価格分、自分を納得させられるだけの理由をこれまで用意できてこなかった」という人たちなのかなと思います。これまでApple Watchに400ドル払っていた人の中の例えば2割くらいの人に、お金を2倍払ってもらえるようにするためのアップセルの商品がApple Watch Ultraという気がします。

そして、Apple Watch Ultraには、そこで勝負できるだけの武器が十分揃っていると思います。逆に消費者目線でいえば、素直に乗っかって良い理由がちゃんとあると思います。4つのポイントで説明します。

存在感のあるデザイン

まず、存在感のあるデザインです。腕の太さによると言うのは承知ですが、大きい時計ってかっこいいです。いや、全員がそう思うわけじゃないですが、少なくとも「太い腕と大きい時計がかっこいい」っていう価値観っていうのが間違いなくあります。

新しいアクションボタンやDigital Crownと、Digital Crownをカバーする部分のあえて出っぱらせたデザインは、無骨なデザインに惹かれる人たちの心をうまく掴んでいると思います。ほんとかっこいいです。49mmの巨大なスクリーンも、存在感があって良いですよね。

機能性の面で根拠がある

次に機能性です。Apple Watchが、ダイバー仕様を謳う高級時計に大きく勝ち越せるのが、機能性です。

ケース部分がチタン素材で、文字盤部分がサファイアガラスというのは、実は先ほど紹介したタグホイヤーの「アクアレーサー プロフェッショナル300」の40万円のステンレスモデルを上回っています。チタン素材を選ぶと、約50万円になってしまいます。

「職人が精巧に作った狂いのない時計」という高級時計の魅力は、Apple Watchなら電池がある限り同等以上の性能を発揮できます。

Apple Watch Ultraは、先ほど紹介した高級時計のように300メートルまで潜ることはできないけど、100メートルまでは潜れます。ターゲットのほとんどが「潜らない人」なら、どのみち100メートル潜れる人はいないので、問題ないはずです。

そのほか、GPSや通信機能を活用したすべての機能は、ここで挙げたような高級時計には全くない機能なので、すべてApple Watch Ultra特有の強みになります。

その分、36時間で電池がなくなるのが機能面の圧倒的な弱みになりますが、我々ユーザーに魅力を感じさせるには十分なプラスの機能が備わっています。

権威性を発揮するに足るブランド力がある

次にブランド力です。

時計って機能が良ければ高く売れるってわけじゃなくて、高級時計を高級にするためには、ブランドにストーリーが必要なんですよね。

例えばロレックスなら、1905年の創業以来100年以上の歴史があって、世界初の防水腕時計を作ったみたいな逸話もあったりして、そういうストーリーがブランド力になって価格を正当化させるみたいなことなんだと思います。

じゃあAppleが歴史で勝負できるかというと、創業は1976年だし、ずっとコンピューターで戦ってきたブランドだから100年間、時計ばかり作ってきた企業には全く太刀打ちできません。

で、実はこの権威性の確保のために必要だったのが、20の注目機能全てを、極端な環境で活動する冒険家やダイバーと絡めて紹介する17分20秒のプレゼンテーションだったんだと思います。Appleに強みのある機能性を裏付ける物語として、本物のプレイヤーたちと時間をかけて開発して、過酷な環境でも実際に耐えられるプロダクトを作り上げました、という強烈な印象付けが必要で、だからプレゼンからは「日常でも使えます」というようなソフトな表現を一切省いて、ただエクストリームな印象を与え続けたんじゃないでしょうか。

Appleには時計を作ってきた歴史はないけど、今、世界中の企業で1番ストーリーテリングがうまいので、その強みが発揮されまくったプレゼンテーションだったと思います。

背伸びすれば手の届く価格

そして最後に、頑張れば手の届く価格です。

50万円となると、多くの人にとって1ヶ月分のお給料以上が丸っと吹っ飛んでいきますが、10万円強を分割して払う形なら、買えない価格じゃないです。

最後に紹介してきたようなデザイン性や機能性、高級時計と同じ素材、そしてブランドストーリーを考えると、むしろお買い得なくらいです。ブランドストーリーに関しては、Appleの伝え方もうまいですが、単純にコンピュータを極めた会社の作る時計というストーリーにも十分魅力ありますよね。まあそれも含まれたプレゼンになってましたけど。

まとめ

ということで、長い話をまとめていきます。

Appleの真意はこうじゃないか?みたいな話を聞くと、もしかしたら冷める人もいるかもしれないですが、そういう人は話半分に聞いてくださいね。あくまで、僕の勝手な予想です。

僕は逆に、こういう思惑を知れば知るほど、商品が欲しくなるんですよね。マーケティングの意図とか、ストーリーテリングの思惑を自分なりに想像すればするほど、その物語に自分もダイブして一緒になって楽しみたくなってしまいます。

今回も、この動画を作る中でApple Watch Ultraのことがどんどん好きになっていく感覚があって、ああ、じゃあ今こういう戦略でUltraを出したのだとすれば、次はどういう展開なのかな?意外と高級時計みたいなシルバー系のゴツいバンドを合わせてみても楽しいんじゃないかな?そういう3rd partyブランドが出てきそうだな?あえて「Ultra」を使って「Pro」を使わなかった理由は何かな、30万円コースのApple Watch Proを考えてるのかな?だとしたらどんなモデルなら正当性があるんだろう?スイスでApple Watchを手作りしたらどうかな?

なんてことまで飛躍して、本当に台本を書きながらワクワクワクワクしました。

てことで、個人的には、いろんな考察を経て、ゴツゴツした時計が欲しいと思ってた人には、機能性まで考えるとかなりリーズナブルな選択肢では?と思う今日この頃です。

この動画でワクワクしていただければ幸いです!


研究

Apple Watch Ultraの発表時間
23:00 - 40:20:17分20秒間

構成

  • 開発に取り組んだきっかけ

    • 探検家のRay Zahab:サハラ砂漠や南極北極の横断

    • ダイバーのNadia Aly:高い評価を受けている水中写真家

    • ランナーのScott Jurek:フルマラソン以上の距離を走るウルトラマラソンで結果を出している

  • 過酷な環境に耐える頑丈なチタニウム素材とサファイアクリスタルガラス

  • 太陽の下でもよく見えるディスプレイ

  • 手袋を着用していても使えるアクションボタンとDigital Crown

  • 強風の中でも使えるマイク

  • 数日間の冒険もできる史上最大のバッテリー

  • より多くの情報を表示できる、コンパス付きのウェイファインダー文字盤

  • 夜でも見やすいナイトモード

  • バンド

    • 探検家のためのアルパインループ

    • ウォータースーツの上から付けられるオーシャンバンド

    • 持久系アスリート向けのトレイルループ

  • ランナー向けに、GPS機能改善

  • ワークアウトアプリの改善(WatchOS 9)

  • ワークアウト中のアクションボタンの活用事例

  • バッテリー改善の持久系アスリートへの影響

  • -20度から50度までの環境で使える

  • 僻地の冒険でも実用的な新設計のコンパス

  • 冒険中に迷った時に足跡を辿れるバックトレース機能

  • 迷っても助けを呼べる86デシベルのサイレン付き

  • WR100の耐水性能

  • 水中に入ると自動的に起動する水深アプリ

  • EN13319というダイブコンピュータの技術標準規格に準拠

  • Huish Outdoorsと組んで、ダイビングアプリを開発

    • アプリの説明

iPhone 12 miniの売上
iPhone 12 Series Sales Cross 100 Million Mark Within 7 Months of Launch
iPhone 12 miniの売れ行きはシリーズ最悪、「Appleが小型スマホを作り続けるかは怪しい」と専門家 - GIGAZINE

Garminの売り上げ
https://www8.garmin.com/aboutGarmin/invRelations/reports/2021_Annual_Report.pdf

高級時計
Seamaster Diver 300M 007 エディション - 210.90.42.20.01.001 | OMEGA JP®
タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 ーラグジュアリーウォッチ チタン 43 mm ー WBP208B.BF0631 | タグ・ホイヤー® JP
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