(六十二)捨女の句を味わおう(其の二)
捨女は言葉遊びが上手だったことは既に述べた。今回は捨て女の優れた言葉遊びをした句を選んで鑑賞していこうと思う。
夏菊や まだ波なれぬ おきな草(139)
波、沖、は菊の縁語であり、翁草は菊の別称である。野にありてまだ菊が一面に咲くほどにはなっていない事を歌ったものである。風に菊の花が揺れるのを波に譬える事は通常の事であるが。まだ群生していない事を「波なれぬ」と表現力の力強さを示している。
なく涙 雨と降りてや 玉祭り(161)
玉祭りは秋の季語であるが、実際は新暦の八月半ばであり、まだ残暑が厳しい時期である。ここでは、亡き夫を偲んでの涙であろう。
涙・雨・玉と縁語を散りばめている。「雨の様に涙を流している」と述べているが、その様な悲しみはあまり感じられない。
出て見よと 人を釣りばりか 三かの月(167)
これは三日月を形の似た釣り針に譬えたもので、月が「外へ出て見よ」と人を誘惑する力があることを歌ったものである。家の中で月を見るのではなく外に出て見よというのに、魚が釣り針に釣られて「水の外に吊り上げられる」事と対比している。
月をいるる 露や真の 玉手箱(171)
月を宿す玉の露を、玉手箱に譬えるのは優れた着想であると共に、美しい譬えと思う。