(五十七)芸者ワルツを楽しむ

昭和27年(1952年)、神楽坂はん子が歌う芸者ワルツが大ヒットした。これは同じ年に歌われた江利チエミのテネシーワルツに対抗して作ったものらしい。この歌は端唄・小唄とも言えるが、やはり歌謡曲というべきであろう。作詞は西条八十、作曲は古賀政男である。先ず、この歌詞を掲載しておく。
(一)貴方のリードで 島田もゆれる、チークダンスのなやましさ
   乱れる裾も恥ずかし嬉し、芸者ワルツは思い出ワルツ
(二)空には三日月お座敷帰り、恋に重たい舞扇
   逢わなきゃよかった今夜の貴方、これが苦労の始めでしょうか
(三)貴方のお顔を見た嬉しさに、呑んだわ酔ったわ踊ったわ
   今夜はせめて介抱してね、どうせ一緒にゃ暮らせぬ身体
(四)気強く諦め帰した夜は、更けて涙の通り雨
   遠く泣いてる新内流し、恋の辛さが身に染みるのよ

それでは解説していこう。
「島田も揺れる」とは、結った島田髷が揺れるほど、芸者をリードする客の動きが激しい事を意味している。「も」に注目しよう。島田が揺れるだけではなく、すでに気持ちが客に行き、女の心も揺れているという事を暗示している。
「乱れる裾も恥ずかし嬉し」、「今夜はせめて介抱してね」などは人口に膾炙したセリフだ。「恥ずかし嬉し」とはこの頃の女性の心情を表わした表現だ。「嬉し恥ずかし」とはニュアンスが異なる。あくまでも恥ずかしいという気持ちが先に立つのである。
この歌のテーマは、一緒になれない客と芸者の悲恋である。それを「恋に重たい舞扇」と表現している。客とのこれからの事を思うと複雑になる気持ちを「これが苦労の始めでしょうか」と、実に的確な表現をしている。
当方は、例によって、替え歌『千鳥ワルツ』を作った。ご鑑賞あれ。
(一)貴方の誘いで桜見したわ、七分満開花吹雪
   二人並んで短し長し、側で見られてただ幸せよ
(二)空には満月櫓が見える、太鼓の音に鉦の音
   揃いの浴衣恥ずかし嬉し、身振り手振りで踊りましょうね
(三)紅葉の紅お空に映える、錦の絨毯鮮やかに
   今夜の私誕生祝、ワイン注いでね酔いたいのです
(四)庭には粉雪松葉を隠す、炬燵に蜜柑差し向い
   何時でも会える貴方と私、普通の暮らし百歳(ももとせ)白髪



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