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LETTERS for 「LAMP IN TERREN」 2014-2017ー【DISC REVIEW】「ボイド」

※2015年当時の記事です。

「虚空」にあるすべて

 この楽曲を僕自身が初めて聴いたのは、昨年の初夏頃だったと記憶している。まだ“ボイド”というタイトルも、ましてや言の葉さえも携えていなかった、デモサウンドにハミングでメロディが吹き込まれた音源。松本大(Vo&G)から新たな楽曲を聴かせてもらう度に僕は様々な感情を抱くのだが、このデモを聴いた時にはいつにも増して血が湧き上がるような高揚を覚えた(ある種のショック状態で「おい、めっちゃいいな」と身も蓋もない感想を述べたことを覚えている)。それほどまでのグッドメロディがその時点で鳴っていたし、きっとこのバンドにとって大切な楽曲になるという、確信めいたものが僕自身の中にあったのだ。


 彼らにとっては『silver lining』以来のリリース。だがしかし今作は、バンドの曲作りのタイムラインから言えば『PORTAL HEART』以来となる新曲の音源リリースである。それ故に、一聴するとシンプルにも聴こえるこの楽曲は、実はかなりの進化作と言ってもいいほどのレヴェルにある。


 一言で表すなら、この楽曲はとにかく「大きい」のだ。メロディラインが描く軌跡も、リズム隊が織り成す絶妙に隙間を持った骨格も、そして綴られた言の葉の世界も、とにかく大きく羽を伸ばしている。そのメロディラインを辿る松本のヴォーカリゼーションの進化で言えば、ここまでしなやかな彩りの変化は静から動を一気に貫く代表曲“緑閃光”でもなかったものだ。囁くように物語の序章を語り、クライマックスに向けてサウンドと共に熱と憂いを帯びた歌声は、ラストの大サビで一気に弾ける。「歌をバンドでやっている」と松本は様々な場面で言ってきているが、その言葉を改めて思い出す「歌」が此処では強固に鳴っているのだ。そして、中原健仁(Ba)と川口大喜(Dr)のリズム隊のアレンジの妙も、その「歌」を更に増強している。中原のベースラインは詰め込まれ過ぎてない音数でありながらも、今までになく歌うように低音の海を泳いでいるし、川口のドラムはサビの展開ひとつとっても、空へ翔け上がるように感情を爆発させ、歌の世界観に寄り添いつつダイナミズムを強く生んでいる。


 こう書いてしまうと、単純にバンドのスキルの向上だけがこの楽曲を名曲たらしめているように感じさせてしまうかもしれない。だが、歌の世界観も実に「大きい」。松本の描く世界は、人間と人間(≒世界)との間にあるほんの些細な感情の機微を照らす、まさにバンド名が言うところの光のようなもので。その中でもこの楽曲には、今までになくラヴソング的要素を包括する深さも垣間見ることができる。だがそれは、完全に真新しい側面ではない。考えてみると恋愛っていうものは、単純に言えば自分に何か足りないものを強く強く他人に求める感情だと思うが、得てして最上の結果を得ることができないものだったりする。だがそれは、何も恋愛だけの話ではなく、今までも松本が描いてきた人間そのものとも言えるからだ。

きっと僕が何を手にしても
それでも見上げてしまうんだ
空の機嫌が 移り変わるように
僕の世界を 繋いでいくように

 ――人間は生きていく限り、何かを得たとしても何かが足りないと思い、その度にどこか虚空を眺めてしまう。それでも空が表情を変えながら移り変わるように、僕らもコロコロと人生を転がりながら生きていく。その足取りは、その時々では空虚であるように思えても、間違いなく世界と繋がるためのものだとこの楽曲は語る。<あなたに照らされてしまった/ここに落ちてきてしまった/僕は>――此処で綴られる<あなた>は、特定の誰かでもあり、あなたの周りにいる人すべてのことでもあるのだと思う。空虚から人間を映し出し、スッと光を照らすこの楽曲は、ただのラヴソングでは留まらないスケールで、人間そのものを語る懐の深さがあるのだ。


 新たな彼らの代表曲の誕生に拍手を送ると共に、ニューアルバム『LIFE PROBE』のリリースを本当に心待ちにしている。きっとあなたも、LAMP IN TERRENも、新たな世界へ飛び立つ作品になる。そう確信を持って、その時を待つ。

**********************************※目次は下の記事よりどうぞ。







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