ゆがんだ童話

「神様No.8-70378-5さんー。辞令ですよ。って、聞いてますかー?!!」
「え?」

私は天使No.782-7577-33y。通称ナナミ。天界人事部所属の下っぱ。
今日は神様No.8-70378-5……ヤナゴさんって呼ばれている彼に、辞令書類を持ってきた。
神様達には造物主様から『ラボ』を与えられていて、それぞれ担当の実験をしている。
例えばとある神様は、蚤に知能をあたえたらどう進化していくかって実験をしていたり。
ヤナゴさんは何だっけ?疫病関係だったような。
自分のラボからなかなか出ようとしない研究熱心な神様……って聞いていたけど……振り返った姿はなんというか……
マスクで顔の下半分を隠し、髪はボサボサ。控え目に言って陰気。
印象とは反対に、ラボ内は綺麗。チリひとつ無い。着ている白衣も汚れひとつ無く、眩しい白。彼はゆっくりと、ビニール手袋に包まれた右手を私に向けた。

「清潔(クリーン)」
「うんっぁああ"……!」

ボソッとスペルを呟く。
その途端、モゾモゾゾワッとする感覚が私を包む。身体中、毛穴の底から埃や微生物がこ削ぎ取られていく感じ。一気にやられると気持ち悪いんですけどー!!
うん、そういえば聞いてた。ヤナゴさんは潔癖症だって。

「辞令って、どこに移動?」
「ネームド『アマテラス』様の担当だったラボですぅ。
アマテラス様が移動になったので、『地球』の管理がお仕事になります。」

私達『天使』もそうだけど、ヤナゴさん達『神様』にも【階級】が有る。
シリアルナンバーのヒラ。ネームドの『上級』。
仕事内容も変わってくる。シリアルナンバー達は造物主様やネームドの指令でしか動けない。
ネームドは自分の判断で動ける。
そしてネームドの神様は『星』自体を管理する。
なんとか立ち直った私は、精一杯の笑顔を浮かべた。

「おめでとうございます。ネームド昇進です!『ヨミ』様!」



ネームド昇進。
何万年待っただろう。
僕はラボの後片付けをしながら、口元が緩む事を抑えられなかった。

「とりあえず、コレ持っていくか。」

造物主様からの指示で、このラボで行っていた研究の副産物。
ほんの僅か人界に滴らせる。どんな反応を見せてくれるだろう?

「僕は汚いモノが嫌いなんだ。コレのおかげで全ての人間達が清潔に目覚めてくれると良いけれど。」

汚いモノ。あと、うるさいのも嫌い。
他の奴とは距離を置きたい。なるべく接したくない。人間にもそういった奴らが居るだろう。彼らに良い世界にしてやらないと。

「でも、『イベント』も起こしてあげないとねぇ。」

ワクワクが止まらない。
どんな世界にしてあげよう?
ようやく会える。いとしい人間たち。

楽しみだ。



おわり

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