あなたとならば恋をしましょう

全てのライブが祝祭のようだった2016年を経て、九ヶ月ぶりのライブを久しぶりと云うのが果たして正しいのかどうなのか、未だに彼らが当たり前のようにそこにいる世界との距離感を掴みかねているわたくし、イエローモンキーと過ごす二度目の秋。しかもこのツアーはファンクラブ限定ライブ、さらにこの10月8日はボーカル吉井和哉氏の51歳のお誕生日ということで、それはまあフワフワソワソワとしながら滋賀は大津へと向かったのだった。お天気、快晴。琵琶湖は澄み渡り、午後の日差しはオレンジ色に染まってああセンチメンタル。はじまる前から胸がいっぱい。

会場に入るとなんとなく耳に覚えのある曲がSEに流れており、やたらとジュッテーム…♡モナムー…♡ノンッ…オオウ…♡(※喘ぎ声)といった台詞が聴こえてくるぞと思っていたらば、隣にいた友人曰くゲンズブールとバーキン嬢によるフレンチ・ポップスの名曲でございました。ドラスティックホリデーのメインビジュアルは悪魔と抱き合う女の子だったので、そのあたりのイメージなのでしょう。イエローモンキーのSEとしてはちょっと新鮮な、かわいさとおしゃれさとエロスの入り混じった雰囲気。わりにクラシックな印象の会場に対して、ステージはなんの装飾もなく、楽器とアンプがあるのみ。

開演時刻やや過ぎてふと暗転。薄青い灯りに照らされた鶴谷氏(レモンイエローのシャツがとてつもない好青年感を醸し出している!)、歓声の中でおもむろにジャジーなフレーズをつまびきはじめる。あっ見たことありますこれ、と思ったらあれですね。去年のアリーナツアーのSUCKでやってたやつです。ロビンちゃんがワイングラスまわしてたやつ。おしゃれ〜(思わずオネエ口調)。

で、メンバーのシルエットが現れて響いたイントロがですね、てーりれーりっ、てっ、てーりらっ、じゃっじゃっ……そう、まさかの「不愉快な六番街へ」!これがもう、もう、腕をひっつかんで薄暗い路地裏へ引きずり込まれるような興奮…!(※痴女ではありません)いや本当にイエローモンキーのライブに…来たのねわたし…と興奮が一瞬でMAXになった瞬間でした。存じ上げる限り最後に演奏したのは、えっ、1992年…?いやはや。なんということでしょう。のたうつ紫と緑の照明が場末感を溢れさせ、まさに過激な休日というツアータイトルにふさわしいオープニング。

吉井氏のお衣装はと云うと99年ごろを彷彿とさせるふわっふわのパーマにオーバーシルエットで少々古風な雰囲気の真っ黄色なジャケットを羽織り、胸元広めに開けた黒シャツ、タイトな黒のスキニーに足元は黄色い靴紐の黒いスニーカー、サングラス。去年見せていた正装のよそゆきおめかしモードとは一転、妖しさにおふざけをほんのり足して胡散臭さを存分に振り掛けた、騙されたい詐欺師ランキング第一位に輝けるタイプの吉井和哉さんでございました。

そしてなにやら左手で小ぶりなボールらしきものを振り回しているので一曲目から双眼鏡かまえてみたらば、黄色い頭蓋骨の模型でした。ああもう…!これ絶対元ネタあるだろうと思って終演後に調べてみたらやはりというべきかなんというか、デヴィッド・ボウイさまのオマージュぽいですね。何十年たっても厨二心をわすれないあなたが好きよ…。

David Bowie - Cracked Actor Live at the Universal Amphitheatre - 09/05/1974

で、片手に骸骨をかかげて「踊りましょういつまでも…」と歌う吉井和哉にあっさり陥落されたあとに来るのがSUCK OF LIFEなわけです(ファスナー降ろさないオリジナル・バージョン)。サングラスを外しハロービリーバー!と叫ぶ吉井、いえ、ロビンのまあ楽しそうなこと。イエローモンキーには狭くすら見えるステージでいつもみたいにマイクスタンドふりまわして、でもいつもほどシアトリカルな細かい身振り手振りはなくわりとラフな感じのSUCKで、これもう寝ててもやれるんだろうなこの人…などと思いつつ否が応でも上がらざるを得ない会場のボルテージ。「メカニズムが動き出せば…踊ろうぜ!」と声をあげるロビンがこんなにも軽やかに見えたのははじめてで、そしてLIFE、LIFE、YOUR LIFE…でメンバーを指差すあの仕草に何度見てもぐっときてしまう我々のセンチメンタルを吹っ飛ばすように絶叫される「赤裸々GOGOGO!!!」。アイラブユー!で上手に、アイニージュー!で下手に駆け寄り跪き手を差し出すその姿がそれはもうすらりと伸びた爪先まで美しくてぞっとする。この曲、こうして爆音で聴くとぶりぶりのベースラインもメロディーもシンセの音もめちゃくちゃ昭和の歌謡曲感があってたのしい。そして続けざまにくるのがLOVERS ON BACKSTREETなわけで、もはや夢にまで見た90年代のイエローモンキーの熱狂がまるごと蘇ったような空間にいったいここはどこ?いつの時代?わたしはだれ…?と半ば呆然としながらも、25年前、La.mamaの小さなステージに立っていた彼らの姿が当時を見てもいないのにフラッシュバックするような不思議な感覚に陥ってしまって、それはもうたまらなかった。

ひとしきり会場が興奮の坩堝と化したところでMCはいつもに輪をかけたゆるゆるで、なにもない場所をまわるツアーですだのイオンがあるのはりっぱな街だのひとしきり田舎をディスり、手に持ったスタッフさん調べによる滋賀情報をいろいろ。地元の人に手をあげさせて、いち、にい…などと数えだすもんだからエマさんに「野鳥の会?(にこにこ)」などと突っ込まれ、したり顔でご満悦のロビン氏、ご機嫌ちゃんでなにより。しきりとお気に入りの関西弁「〜らしいです。知らんけど!」を連呼。で、本日は入れ歯(108)の日です!とか言ってずっこけかけたところで、ちょっといい声で「よしいかずやのバースデーライブへようこそ」。いやあ、去年のエマさんバースデーのライブはしれっと何事もなく終わったりしていたのでそわそわしていましたが、おかげさまでなんの恥じらいもためらいもなくおめでとう!と言うことができて良かったです。

若い頃は祝ってもらうのが苦手だったんですよ、尖ってたから!すごく尖ってた!いまも尖ってますけど!(意味深な仕草)とか、例のパンドラ岡山での失言もちゃっかりそのせいにしてみたりなんかして、自由きままな一人っ子ロビンちゃんとそれを半ばあきれながらにこにこ見守る保護者三人+ちょっと困り顔の鶴ちゃん、という図がたいへんようございました。アニーさんはイエローモンキーの歌詞が英語でいろいろ書かれているというタンクトップを着てらしたんだけれども、それをちょっと読みながら「ぶらっど…いず…くらいんぐ…?」と中学生英語ではてなマークいっぱいになっちゃうロビンちゃんに観客が優しさ1000%ムードになったあの空気、忘れない。あれファンからのプレゼントかもしれないけれど、アニーさんの自作だとしたら愛が深すぎて泣ける…。ぜひとも全貌を拝見したいところです(えいじくんたまにはブログのこと思い出して!)。そしてアコースティックコーナーということで、観客をながめて「ほしのげんちゃんのお客さんなら座らないぞ!ちくしょうめ!」などと毒づきながらも座らせてくれるオトナの吉井和哉51歳ありがとうおめでとう。

で、なにもない街で、なにもないあなたに。とささやいてはじまったのがまさかのNAIで、それまでのMCのぐだぐだムードを一瞬で塗り替えるように寂しくて体温の低い声が会場に満ちた瞬間のあの感覚はなんと言葉を尽くせばいいのか…。かつてのいわゆる絶頂期と呼ばれるころ、SPARK〜ラブショーあたりの吉井和哉の声がもつ独特の空虚さをわたしはたまらなく好きなのだけど、声質そのものはおどろくほど変わらないのに、やさしさ、かなしさ、諦念がむき出しじゃなくてそっと柔らかい布にくるんで手渡されるみたいな、そんな声で「流れる時と涙」「あふれる愛と涙」などと歌うものだからまんまと泣かされてしまった。NAIが生まれたそのあとイエローモンキーの経た二十年のこと、そしてイエローモンキーと出会ってからの自分が経た歳月のことを思って。

そしてそれからのO.K.がものすごかった。曲がよみがえる、ってこういうことなのかと心底惚れ惚れするアレンジで、ちょっと呆然としてしまった。原曲の苦しくなるような物悲しさはそのままに、ヘヴィで喧嘩腰な勢いは気配を潜め、すっかりフォーク?カントリー?ウエスタン?なんならジャジーな雰囲気すらまとって、見事にイエローモンキーの1998年の狂騒と2017年の大人なサウンドを足して割ったような音。アコギを抱えて少し背を丸め、白い額に眉間をひそめて「あの子が欲しいあの子が欲しい」と歌う51歳の吉井和哉だけでもお腹いっぱいなのに、乾いた砂をはらんだ秋の風みたいなエマさんの12弦アコギの音色がざらりとその声を撫で、いつもは力強いヒーセのベースがその下をゆったりと泳ぐようにうごめいて、アニーさんの音だとは信じられないくらい大人びた(という表現も失礼なのですけど)、怠惰な色気をまとったタイトなドラム。メランコリックな、ってこの曲のために生まれた言葉なんじゃないかと思わせるような、響きあう音の粒子が一粒ずつ光って見えるようでした。はじめて聴くギターソロのフレーズも息をのむほど素晴らしかったし、合間に低いウィスパーボイスで囁かれる「OK…OK……」という呟きにもぎゅっと心臓を掴まれ、いやもう本当に、なにはなくともこれだけは音源をこの世に残してほしいと願っています。

で、しんみりしたところでまたもや漫談コーナー(失礼)に突入しKILLER MAYの「Fuckin' With A Virgin」をやるのですが、ひとしきり若き日の菊地兄弟やレイノ氏の話、そしてまさかの歌詞朗読コーナー。これがまあひどい!腰が…砕けるぜぇ…オゥ…イェー…ファッキンウィズ…ハァハァ……と吐息混じりに読み上げる吉井、ちょっとレイノさんに謝って!?と思いながらも爆笑こらえきれぬ我々。綾小路きみまろの漫談会かと思いました(そして誰よりも笑いころげ、ハンカチ取り出して涙を拭くエマちゃん)。歌い方もレイノ完コピだしエマヒーセのコーラスは本気出しすぎだし、後半、「一緒に歌いましょう!」さらには「バージンのひと立って!」を連呼する吉井にオロオロしながら立ち上がった数人をガン無視で次の曲へいくドSっぷり。そしてNeurotic Celebrationでは黄色いハートのサングラスをかけて完全なパーティー野郎と化した吉井ちゃん、汚いお金は…ちょっとほしい♡って歌う吉井ちゃん、もう楽しくてしょうがない様子で最高でした。ブレイクではアイラブユー合戦(エマさん圧勝)やら「アァァァァ……」と全員が呻き声を揃える謎の時間(おまえもやるんだよ!と言われてアワアワする鶴谷氏の困り笑顔がかわいい)、もう感情がめちゃくちゃで数時間分の体力を消耗した気がします。

そして後半戦一曲目はまさかの(と何度いえばよいのか)、イエ・イエ・コスメティックラブ!いやもう、いつになればsmileが日の目を見るかと心待ちにしていたのですが、とんでもなく楽しくて踊り狂ってしまったのと同時に、当時の彼らの高揚感みたいなものを感じられるようでしんみりと幸福でした。間奏でエマとヒーセがドラム前で頭突き合わせてうりうりしてたのがネコ科の動物がじゃれてるみたいでめちゃくちゃにキュート。それを見てにこにこしてるアニーさんもめちゃくちゃにキュート。その横でひとりるんるん踊っているロビン(好き)。

次はなに…なにがくるの…と瀕死になっていたら、ここでど真ん中王道ともいえる「楽園」。一気に去年のアリーナツアーを思い出すスケール感になったというか、かつて最強のライブ・バンドと称された彼らの真骨頂、うねるグルーヴと熱量が会場を満たす感覚にぞくぞくしました(公演によってはここがパールみたいですね、そういう役割の曲ということなんだろうな)。楽園といえばスタンドマイクの印象があったけれど、ハンドマイクで歌うロビンはとても身軽にみえて新鮮でした。そして続くバラ色の日々が、よかった…!「イエローモンキーの代表曲」「希望を歌った名曲」として有名だし大きな会場でよく演奏される曲ではありますが、こうして小さな会場で聴くとそうしたイメージを超えて当時彼らが抱えていた傷や痛みみたいなものが生々しく感じられるような気がして、ああ美しい曲だなあ、と心から。そしてそこにねじ込まれる「太陽がー!燃えているー!!」去年のCDJでガラッガラの声で歌う姿を見ていたので軽くトラウマだったのですが、高いキーもきれいに出てご満悦の様子のロビンにちょっとほっとしたような。間奏でギター高くかかげてそのへん一帯をめろめろにしまくるエマさん(名人芸)の横で、たぶん照明をさえぎって客席を眺めていたのだと思いますけど、両手を上にかざして目を細めていたロビンが眩しい太陽を眺めているように、どこか挑んでいるように見えたのが印象的でした。昔はしなかったみたいな老成した表情で。

で、再集結の曲、としてではなくあたりまえのように演奏されるALRIGHTはこれが初めてで、いやあ最高だった!たった二年目ではあるけれど、イエローモンキーの歴史をこの目で見てるんだなと感慨しきり。間奏でメンバー紹介入れてきたのがとんでもなく格好良かったのですけど、ヒーセに「ボーカル吉井和哉!HAPPY BIRTHDAY!」と言われて大歓声の中シェーのポーズをするロビンがほんと…吉井和哉って人はこれだから…これだから…!

大団円な雰囲気で本編がおわり、わりと長めの間が空いたあと(拍手や歓声が途切れないのがFCならではの空気感でうれしい)あらわれたロビンは黄色いジャケットを脱いだ黒ずくめ。久々にほんのりソロ期を思い出すような出で立ちでぐっときていたら、はじまったのはリリースしたてのZIGGY STARDUSTでした。そうよね、やるわよね…!今年ジギーを歌うロビンを生で見たのは今年頭のボウイ生誕70周年ライブぶり二回目だったのだけど、あのときの借りてきた猫みたいな緊張した表情はどこにいったのかと思うほど安心しきった顔をしていて、堂々とかつ優雅な仕草で曲を締める姿もフロントマンとしてバンドの中心に立つ吉井和哉の本領発揮という感じでした。そしてジャケットを脱いだことによってあらわれる黒シャツの袖からのぞく華奢な手首と細い指先、がふわふわの前髪をはらったり歌詞を彩るように動くその様子を存分に堪能できる曲でもありました。ごちそうさまでした。

そして最後、ラストの曲にきたのがツアータイトルでもあるDRASTIC HOLIDAY!いつやるのかしら…とそわそわしていたのだけど、こうして最後に演奏されるとどこかドラマやアニメのエンディングテーマのような不穏な感じもあってものすごく素敵でした。アコギを持っているロビンの姿というのは犬小屋しかりLOVERSしかり、猛獣たちを引き連れたサーカス団御一行のようというか、異形と美の狭間にあるみたいなイエローモンキーの独特の迫力がぐっと増すようで不思議。会場のおかげかわかりませんが全体的にエマとヒーセのぱっぱっぱら〜というコーラスがしっかり聴こえて、ライブハウスで見ているような奇妙な気分でした。

曲を終えメンバーがぞろぞろと前に出てきたところでひとりマイクに向かって「知らんけど!」と一言はなってドヤ顔で帰ろうとするロビン氏(もうほんとにこの子は!)。それをひっつかまえたヒーセ(ありがとう)が鶴ちゃんも手招きし(ありがとう)、5人で仲良く肩を組んでおじぎ…するかと思いきや全然タイミングが合わない、でそれにまた笑いころげてみんなてんでばらばらにペコペコしだしちゃってもう、こんなに爆笑しながら終わるライブもはじめてよ!そしてなんと最後、最前のお客さんからりっぱな花束を受取って照れ笑いするロビンさん、盛大な拍手を受けてマイクの前に立ったと思いきや「今日でわたしは引退します」と渋い声で言い放ち堂々と去っていかれた。おいおまえシャレにならんぞ!吉井和哉って人はこれだから…これだから…(二度目)。いやまあ嬉しそうなロビンとそれを並んで拍手しながら見守るメンバーがかわいかったのでよしとするよ…。

なにはともあれ、次にこの人たちを見るのが東京ドームだというのがちょっと信じられないくらいの空間でした。何度タイムスリップしたのかわからない。メンバーも観客をほっぽりだすぐらいの勢いで楽しげにしていてラブリーだったし、終演後の客席がみんなでれでれにゆるんだバラ色の頬をしていて、わかる…わかりますよ…と声をかけてまわりたい気持ちになってしまったのを覚えています。あれからはや二週間が経ち、ジギーに次ぐきらっきらの新曲Starsも解禁され、去年の狂騒を思い出すようなラジオラッシュもはじまってファンとしてはめまぐるしい季節ですけれど、ああイエローモンキーのいる世界って最高だな…としみじみ噛みしめる毎日。映画もドームもメカラもあるし、まだまだ冬はこれからですね。

いつかこの文章を読み返して2017年の幸福な秋のことを思い出すときもどうか、バラ色の日々でありますように。

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