春の残像

うららかな五月を迎えるよりも少しだけはやく、知人の結婚式に参列してきたのだった。某伯爵邸にて執り行われたその式はこれ以上ないほどの天気に恵まれて、燦々と陽の射す芝生の眩しいくらいの緑が瞼の裏に焼き付いている。毎日家に帰るとキッチンから漂うのは、活けた花束が仄かに放つ清らかな匂い。祝福の名残、そして初夏の気配。

今日はその横でスパニッシュオムレツと海老と枝豆のアヒージョを作った。澄んだオリーブオイルの色を眺めているだけでほんのりと嬉しくなる。朝はオレンジ、キウイの透けるような黄緑、林檎の白い果肉、バゲットの黄金色にピクルスのオリーブグリーンとバターのこっくりしたクリーム色、そしてヨーグルトの白。遅めの昼は卵の濃い黄色に海老の朱赤、枝豆の絵の具みたいな緑、そしてサングリアが窓からの光を浴びておとす影はイエローダイヤモンドの色。いろいろな色が身体の中に入ってくることをふいに子供のように不思議に愉快に思う、安らかな休日。

最近は少し生活が落ち着いたので、いろいろと本を読んだり映画を観たり新しいことをはじめたりしている。ずっとバッテリー残量2%みたいな状態でいたものだから目の覚めるような鮮やかなものばかりに縋っていたけれど、静寂や淡い色彩の折り重なる美しさをうっとりと味わう贅沢にしばらくはこのまま浸っていたい。放っておいたってまもなく夏は来てしまうのだから。

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