STARS ON ICE 2018@4/8 横浜アリーナ公演千秋楽

久々に生のフィギュアスケートを観に行けたのでざっと感想などの覚え書きを。ただのポエムです。

紀平梨花/Symphony

リンクに滑り出ただけでふっと真空になるような感じ。一挙手一投足を見ているだけでちょっと泣きそうになる清浄さ。

須崎海羽&木原龍一/Yuri on Ice

降り注ぐ音の粒が見えるようなスケート。動きのシンクロした瞬間に生まれるダイナミズムが海底の王国の叙事詩を眺めているみたいに幻想的、なのに力強い。うっとり。

坂本花織/アーティスト

想像していたよりも動きのすべてが速くジャンプも高く、白い子兎が跳ね回ってはしゃいでいるように全力で楽しそうで思わずにこにこしてしまう。

田中刑事/椿姫

紫ベロアジャケットに華やかな白フリルシャツ、現れた瞬間から貴族の放蕩息子のような独特のオーラがある。日本刀をふるうような迫力とスピード感のある演技、観ていて清々しい。

村元哉中&クリス・リード/戦場のメリークリスマス

水彩画の景色が目の前を流れてゆくようなしみじみと美しいプログラム。薄紙にインクが滲むのを眺めているみたいに儚い情緒。淡色の熱帯魚のカップルが冥界をたゆたうような、どこかあの世とこの世の狭間の気配。息を詰めて見とれてしまう。後半に進むにつれずっしりと重みを増して油絵のように見えてくるのがまた不思議だった。

パトリック・チャン、ハビエル・フェルナンデス、スコット・モイア、宇野昌磨エリック・ラドフォード/Feel it Still

噂の間に合わない昌磨くんってこれかー!一生懸命ハビさんに駆け寄っていくのが大変かわいい。それぞれ個性のあるスケーターたちが集まってわちゃわちゃとやってるのはなんか部活っぽくて、「男の子」っぽさが新鮮。

エフゲニア・メドベージェワ/Beautiful

跳ばないメドべも圧倒的。ピンクのトレンチコートを脱いでスピンしながら髪をほどく姿が10代とは思えない優雅さ。可憐なのに身体の中に夜叉がひそんでいるみたいな迫力で、メドゥーサのようなぞくりとする魔力がある。眼鏡をくいっとして終わるのずるい。大好き。

織田信成/ナット・キング・コールメドレー

氷の上を滑るために生まれてきたような人。柔らかい猫足は健在。自由さと安定感を感じるほっとするスケート。ずっと滑っていてほしい。

三原舞依/La Califfa

砂糖菓子のように甘く軽やかでありながら一つ一つの動きが鋭くて速い。5連続ジャンプ、金属を磨く時に舞い散る粉のきらきらとした光を観ているようだった。びっくりするほど振りのすべてが美しい。

メーガン・デュハメル&エリック・ラドフォード/Be Mine

クソおしゃれ(たぶん英語で言うところのファッキンクールというやつ)。エディ・スリマンの創ったサンローランの世界を思い出した。シックなのにゴージャス。シンプルでファビュラス。ファッショナブルで洗練されていて、2018年最新のフィギュアスケートはこれ、という100点満点を見せられた感じ。素晴らしい技巧なのにそれらがスケーティングに本当に自然に溶け込んで人間らしいパワフルさもあって、うわあいいものを見た……と思わず溜め息。

ケイトリン・オズモンド/I Love It

めちゃくちゃギャル。つよい。ピッチ・パーフェクトに出てきそう。観ていて楽しいスケート。腰から太腿にかけてがっしり厚みがある感じ、アジア&ロシア選手の華奢なスタイルと並ぶと迫力があっていい。

本田真凛/I Really Like You

とにかくかわいい。生で見るとますますかわいい。柔らかいビールスピンが好み。プログラムは技術はあるのにやや退屈というか間延びした印象でまだ伸びしろがありそう。今後が楽しみ。

パトリック・チャン/December,1963

気品の塊。すっと薄い絹を裂くみたいだと思った。危ういのにまっすぐ安定していて、見ていてどきどきする反面、冬に飲む暖かい紅茶のようにほっとする熱さもある。清らかな才能、という感じ。

樋口新葉/ハレルヤ

春風が色を帯びて流れていくのを見ているかのよう。気持ちよさそうに滑るなあと思う。

アリーナ・ザギトワ、エフゲニア・メドベージェワ、ケイトリン・オズモンド/Dream

まさに夢のようなプログラム。女神たちの戯れでしかない。ヘラ(ケイトリン)、アテネ(メドべ)、アフロディテ(ザギトワ)というところか。異なるピンクのお揃いの衣装がはためくたび花が舞い散るような華やかさ。ロシア姉妹が百合百合しくて鼻血が出そうになるなど。

ハビエル・フェルナンデス/Love In Paris

どちらかというとパリッとシティボーイなハビが好きなのでこのプログラムはそこまで好みではなかったのだけど、彼の人間的な魅力が存分に活かされていてほれぼれ。伸びやかで大胆で繊細で、男子スケートの素敵なところ全部、みたいな滑り。

宮原知子/マダム・バタフライ

一人だけ別次元。いきなり目の前に銀の龍の背に乗った巫女が現れた感じ。吸い込まれるような異世界。全ての動きが鋭く速いのにスローモーションのようにくっきり見える。正直TVで観ているかぎりではそこまではまらなかった選手なのだけどとんでもなかった。いつまでも観ていたい。

宇野昌磨/This Town

宇野くんの独特の憂いがコップ一杯の水の表面張力ぎりぎりで溢れない寸前を保っているようなプログラム。彼のたっぷりとしているのにナルシズムには決してころばない優美さ、みたいなものを本当に貴重に思う。柔らかい印象の反面、びっくりするぐらいのスピード感。ほんの少し物足りないくらいで終わってしまうのがほろ苦い余韻でまたいい。

アリーナ・ザギトワ/Afro Blue

競技曲よりこちらの方が好きかもしれない。オリンピックでもEXで滑っていたけれど彼女の野性や本能みたいなものが自由度を増している感じで見ごたえがあった。ぱっと見はイロモノ感があるかもしれないけれど、それよりもずっと本質的なところで彼女の魅力やスケートのうまさ、音の掴み方とか、はっとする瞬間がたくさんあって完成度が高い。10年後のザギトワでまた観てみたいプログラム。

テッサ・ヴァーチュー&スコット・モイア/ムーラン・ルージュ

もうずっとスタンディングオベーションしていたい勢いだった。ダイナミックで華麗なるスケート。正直興奮していて全然ディテールを覚えていない。

エフゲニー・プルシェンコ/Tango Amore

実に5〜6年ぶりの生ジェーニャ。このタンゴだけでもどれだけ繰り返し観たことでしょう……。以前観た時から四度目のオリンピックや現役引退を経て、きちんとそのぶん歳をとった穏やかな顔をしていて安心した。ブレードが氷を削る音すらプルシェンコ。スピード、迫力、胸がかき乱されるみたいな変態スケーティングはそのまま、登場から退場まで毎秒1mmの隙もなく爆笑させるかめちゃくちゃキメてるか死ぬほどセクシーかのどれかで埋め尽くされておりもう感情の洪水で泣いていいやら笑えばいいやらの大混乱。サービス精神の塊といえどもこっちの精神も持たないので小ネタの詰め込みすぎはいい加減どうにかしてほしいものです(褒めてる)。いやしかしどこを向いても悲鳴が上がるあの漫画みたいな光景はさすが伝説の皇帝だった。リンクに滑り出るなりお花をプレゼントされた最前の女性の方、生きてらっしゃるかしら……。かく言うわたしも唇に指を当てて上目遣いでスーーーと滑っていくあの視線をまっすぐ受け止めてしまったのでもれなく網膜が死にました。ありがとうSOI。我が一生に一片の悔いなし。

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