サランラップシティにて

戻った娑婆が混乱を極めており、全員が疲弊した血まみれの笑顔という感じの六月。昔はこの湿度の高さが嫌いだったけれど、いつの間にかそれにほっとするようになっている。今日みたいにすこし冷たくしっとりした日はジャスミンの夜という名の未亡人みたいな香水を少しだけ手首につけて、気を確かに保って、10cmのハイヒールで修羅の道を往く。

野性を失わずに生きたいなんて言う一方で、透明なビニールで全てが包まれていたら安心できるのに、と思う自分がいる。現代人は身体の二重性に引き裂かれているとは伊東豊雄の言葉だったか。でもさあ、ラップにくるまれた生肉の真空パックだっていつまでもその腐敗した色や匂いを隠しきれはしない。いつだって我々は生身が溢れだすことにおびえている。

沈黙だけがいつも正しい。




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