『マスクのコクランレビュー』を読む。【マスク肯定編】
最近話題のコクランレビューを読みました。
それに関連するマスクに否定的な記事はありそうなので、私としては肯定的な記事を書いておこうと思います。
ただし、マスク社会や様々なマスクルールを肯定する意図はありませんので、ご了承ください。
引用部含め7000文字を超えてしまいましたので、お時間のない方は『◆まとめ』まで飛ばしていただければと思います。
◆マスクの種類と表記
論文におけるマスクの表記は以下という認識で記事を書いています。
face mask : 一般人が着用するようなマスクを含む総体としての『マスク』
surgical mask : 『サージカルマスク』(ASTM F2100-20規格クラス1以上)
N95 respirator : 『N95マスク』
私の記事中では上記の『』内の表記で対応付けています。
ただし、自動翻訳の結果である引用部ではそのままとしています。
◆私のバイアス
まず私の認識を書いておこうと思います。
サージカルマスクを普通に着用する程度では隙間(主に鼻脇や頬)が大きく生じやすいため、エアロゾル感染を防ぐ効果は非常に低いと考えています。
良いマスク(N95,DS2)と、そうでないマスク(KN95,KF94,FFP2,P2,サージカルマスク,その他)の最も大きな違いは漏れの少なさだと言えるでしょう。(ノーズパッドと強い着圧が重要ということ。)
また、ウイルスの吸引量により発症有無および症状の程度が変わると考えています。(吸引量を減らすことに意味がある。)
つまり私は、普通のマスク程度では自身のPCR陽性/陰性に有意な差をもたらさない。しかし、良いマスクを正しく着用すれば症状の程度を含めて差が出せるであろう。と推測してきました。
◆解釈概要
今回の論文で私が注目したのはN95マスクです。
一通り読んだのは論文中の『表1』に示された13件の研究のうち、N95マスクが関わる4件のみです。
◇◇◇
以下、コクランレビューを読み私が気になった論点とその解釈です。
(解釈は『→』以後に記載)
マスクの効果については不確実性がある。
→ 同意N95マスクとサージカルマスクの効果は同等(1)
→ PCRではなく症状で比較した場合、サンプル数が少ないとはいえN95マスクの方に効果が認められる。N95マスクとサージカルマスクの効果は同等(2)
→ 比較に使われたサージカルマスクを見る限り、N95マスクに近い条件を持っており、一般的に使用されているものとは異なる可能性が高い。N95マスクの効果(1)(2)
→ 採用された論文では効果を示している。
以上により、コクランレビューは私の考えを覆すようなものではありませんでした。
以下、それぞれを細かく説明していきます。
◆マスクの効果については不確実性がある。
これまでマスク関連の論文を読んだことのある方ならわかると思いますが、デンマークとバングラディシュのRCTが論拠として取りあげられている時点で、質の高い研究がほとんど無かったであろうことが推測できます。
著者も『低いアドヒアランス』や『バイアスリスクは、ほとんどが高いか不明確』としています。
それを前提としたうえで『マスクの効果については不確実性がある』という結論付けに異論はありません。前提条件に不確実性があるから当然です。
◇◇◇
しかし、着用者の感染有無に有意差が無かった、と仮に結論付けるのであれば、それはマスクを肯定的に捉えられるものだと考えます。
マスク着用におけるデメリットは多数推測されてきました。
フォーゲン(フェーゲン)効果
口呼吸の増加
不潔
酸欠
上記等による免疫力の低下
これらによりマスク着用群の感染率が高くなってもおかしくなかったのですが、マイナスの有意差をもたらしていない、ということになります。
◇◇◇
私は、健康被害が生じるほど正しくマスクを着用している人は少数と推測しています。(不快感は除く。)
デメリットの評価は丁寧に検証されるべきでしょう。
もし仮にユニバーサルマスキング(飛沫対策)が社会全体としての感染リスクを減少させる場合でも、そのような前提は必要になるだろうからです。
◆N95マスクとサージカルマスクの効果は同等(1)
感染という概念を判断するにあたり、PCR陽性/陰性というのは参考程度に留め、症状の有無や程度を指標にするべきだと考えます。
コクランに論拠として取り上げられた論文の一部を以下に抜粋します。
症状により比較した場合、N95マスク群とサージカルマスク群は同等ではありません。
(引用部の強調表示は私によるものです。)
◆N95マスクとサージカルマスクの効果は同等(2)
マスクはそれ自体に大きな性能の違いがあります。
N95ならその中で、サージカルマスクならその中で、良いものと悪いものがあります。そのため、使用されたマスクがどのような物かを知る必要がありました。
N95とサージカルマスクが同等と結論付けた論文から該当箇所を以下に抜粋します。研究で使用されたサージカルマスクは一般的なものよりも性能の高いものだったと私は考えます。
使用されたマスクと所感を以下に記します。
(ただし、正確に当時使用されたマスクの仕様かは確認できていません。)
◇◇◇
<N95マスク>
・3M Corporation 1860、1860S、1870
比較的普通のものです。特別良くも悪くもない。
妥当なものと判断します。
・Kimberly Clark Technol Fluidshield PFR95-270、PFR95-274
正確な仕様がわからず評価出来ませんでした。
<サージカルマスク>
・Precept15320
着圧を強めるオーバーヘッド型を採用しています。
ノーズパッドは付いていないように見えますが不明です。
ノーズフィッターは金属製なので適切に使用した場合に比較的漏れを抑える機能は期待出来ます。
総じてサージカルマスクとしては良い部類のものと判断します。
・Kimberly Clark Technol Fluidshield47107
耳掛けタイプであり強い着圧は期待出来ません。
ノーズパッドが付いており鼻脇からの漏れを減少させます。
ノーズフィッターは金属製なので、前述した効果が期待できます。
総じてサージカルマスクとしては良い部類のものと判断します。
◇◇◇
論文の主旨として『N95vsサージカルマスク』としておきながら、後者は性能の高いサージカルマスクが採用されています。
このような条件で、総体としてのN95とサージカルマスクを同等と評価することはできないでしょう。
少なくとも研究で使われたサージカルマスクは、一般人の多くが使用する平均的なマスクとは異なるものです。
◆N95マスクの効果(1)
コクランに取り上げられた論文から一部抜粋します。
N95マスクの効果を示すものだと私は判断します。
(引用部の強調表示は私によるものです。)
◆N95マスクの効果(2)
コクランに取り上げられた論文から一部抜粋します。
N95マスクの効果を示すものだと私は判断します。
(引用部の強調表示は私によるものです。)
◆まとめ
結論として、統計分析の結果、社会的なマスク着用は、ユニバーサルマスキング環境において自身のPCR陽性に関してはノーマスクとほとんど有意差がなかった。というのであれば納得です。
しかし、細かい条件を見た場合、N95マスクの効果は否定できないと私は考えます。そして、質の高いサージカルマスクはN95マスクと同等の結果を示しています。
また、ユニバーサルマスキングの社会的な効果は評価されていません。社会的な影響力を考えるのであれば、そこに焦点を絞るべきだと考えます。(負の影響(健康被害)についても。)
◆おわりに
『マスクの効果については不確実性がある。』と結論付けるとしても、その理由を『低いアドヒアランス』や『高いバイアスリスク』とするのは良い研究とは思えません。そんなことはわかりきっていたからです。
そのような要素を出来る限り排除したうえで、マスクの不確実性の中身について指針を示すべきであり、具体的には、感染経路、エアロゾル感染率、マスクの問題点(なぜ感染を防がないのか)などへの分析が欲しかったと私は考えます。
以上、私の解釈がバイアスによるものなのか、誤読なのか、些末な揚げ足取りなのか、専門家の方のレビューを見てみたい内容でした。