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『マスク』と『マイクロプラスチック』

ちょっと前の記事で柔軟剤(マイクロカプセル)と香害について書きました。

その中で『空気中を漂う香料の入ったマイクロカプセルや破片を吸うよりは、マスクしてマスク由来のポリプロピレンを吸ったほうがマシだと思います』というような事を書きました。

実際のところそれは正しいのだろうか?
気になり調べてみました。

結果から先に書くと、今回紹介する論文でハッキリしたことはわかりませんが『マスクしたほうがマシかも?』という感じです。


◆論文について

論文は2021年の中国の研究によるものです。

ざっくりとした内容は、『新品のマスク』と『1日着用したマスク』を水で洗浄し、分離したマイクロプラスチックを計測し比較する、という感じです。

『海や河川へのマスクの投棄の影響』に関係する研究のため、私が知りたいことと若干ズレますが、マスクに付着(捕捉)したマイクロプラスチックが確認できますので、多少参考に出来るものかと思います。


◆論文引用

論文から概要の一部と結果の図表を引用します。
なお引用部はすべて以下リンクから[2023.04.20]時点のものです。

Environ Pollut. 2021 Sep 15; 285: 117485.
Published online 2021 May 31. doi: 10.1016/j.envpol.2021.117485

使用済み使い捨てマスクは、マイクロプラスチックの環境負荷の大きな原因となっている

Xianchuan Chen,a,d Xiaofei Chen,b Qian Liu,a,e Qichao Zhao,c Xiong Xiong,a,∗ and Chenxi Wua

本研究では、新品と使用済みの異なるタイプの使い捨てフェイスマスクのマイクロプラスチック水中放出能力を評価しました。使用済みマスクのマイクロプラスチック放出能力は、新品のマスクの183.00±78.42粒子/個から1246.62±403.50粒子/個へと大幅に増加した。マスクから放出されたマイクロプラスチックの多くは、不織布に由来する中型の透明ポリプロピレン繊維であった。マスク使用時の摩耗や経年変化により、中型や青色のマイクロプラスチックが増加し、マイクロプラスチックの放出が促進された。また、マスクは使用中に空気中のマイクロプラスチックを蓄積する可能性がある。

図2
本研究で調べた新品および使用済みの使い捨てマスクから放出されたマイクロプラスチック。
図4
新品の使い捨てマスクと使用済みマスクから放出された異なる色のマイクロプラスチックの量と割合:a)とc)は透明を含む、b)とd)は色のついたマイクロプラスチック、ラマン分光によって識別された異なる色のマイクロプラスチックのポリマーの種類(e)。(この図の凡例における色に関する言及の解釈については、読者は本論文のウェブ版を参照されたい)。

◆まとめと所感

使用後のマスクでは新品に比べ、分離出来たマイクロプラスチックの量が大幅に増えています。(約6.8倍)

論文では『マスクから放出されたマイクロプラスチックの多くは、不織布に由来する中型の透明ポリプロピレン繊維であった。』とあります。

この文面を読むと『多くがマスク由来』と解釈しがちですが、内容を見る限りちょっとよくわかりません。

図4、粒子数比較(a)の増えた『transparent』(透明)なものがすべて『マスク由来』であればそういう解釈になりますが、そこについてはそれ以上追及されていません。

また、材質比較(e)によると『Total』の『Other』の割合がかなり増えていることから、マスク由来のPP(ポリプロピレン)よりも他の影響が大きいように思えます。

◇◇◇

論文が『マスクのマイクロプラスチック問題』というテーマのためか、バイアスがかかった結論付けになっているような印象です。

私が見る限り『空気環境中のマイクロプラスチック問題』のほうが大きいように思えます。

そして、そのような懸念はコロナ前からありました。


◆1週間にクレジットカード1枚分

以下にヒトのプラスチック摂取についての記事を引用します。

体内へのプラスチック摂取、1週間にクレジットカード1枚分 研究結果
2019年6月12日 17:06 発信地:パリ/フランス [ フランスヨーロッパ ]

【6月12日 AFP】世界中の人々が毎週クレジットカード1枚分に相当する5グラムのマイクロプラスチック粒子を摂取している可能性を指摘する研究結果が12日、明らかにされた。

 豪ニューカッスル大学(University of Newcastle)などの報告によると、ほとんど目に見えないプラスチック粒子が水道水やボトル入り飲料水から摂取されている他、貝やビール、塩からも検出されたという。
52本の学術論文から導き出された結果によると、人間が1年間に体内に取り込むプラスチック量は、推定約250グラムに上るという。

 別の研究では、平均的な米国人が1年間に食べたり飲んだりしている130ミクロン以下のプラスチック粒子は約4万5000個に上ると算出。さらに、ほぼ同量のプラスチック粒子を吸い込んでいるという。

 今回の研究を委託した世界自然保護基金(WWF)のマルコ・ランベルティーニ(Marco Lambertini)事務局長は「プラスチックは海と河川を汚染し海洋動物を殺すだけでなく、われわれ全員の体内にも入り込んでいる」「プラスチックを体内に存在させたくなければ、年間数百万トンのプラスチックが自然界に漏出することを阻止しなければならない」と述べた。(c)AFP/ Marlowe HOOD

体内へのプラスチック摂取、1週間にクレジットカード1枚分 研究結果 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
[2023.04.20 引用]
https://www.afpbb.com/articles/-/3229671

◆おわりに

論文における懸念が誤りということではなく、マスクは適切に廃棄しましょう、ということですね。

なお、今回の研究で『マスクから吸ったかもしれないポリプロピレンの量は計測出来ていない』ということには注意が必要です。

しかし、個人的には新品から分離された量が少ないことから、そこまでの影響は無いだろうと推測します。(少なくとも使用後のマスクで捕捉した量と比較した場合。)

『ノーマスクで新鮮な空気を!』といったところで、そもそも私たちが吸う空気はそれほど良いものではない、という可能性は考えてみても良いんじゃないかと思います。

今後、コロナと共存していくためにも空気環境の清浄化は課題ということでしょう。コロナじゃなくても、なんか最近色々と空気がヤバくなってそうですし。

皆さんもお気をつけて!

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