豹変する日々②

目次
1.中学のサッカーの授業の日
2.高校の軽音部で副顧問をしていた日
3.大学の近くのガストでだべった日

1.
▼中1の体育の授業でサッカーをした時
小学生の頃はひどかった喘息もわずかになりをひそめて、若いゆえの主人公感から(あまりやったことのない)スポーツでもいけそうと思った時は結構スタンドプレーに走りがちだった。

走るのが楽しくて仕方なかったその日、誰もいないコースでボールを受け取ったクラスメイトのサッカー部がゴールめがけて爆走していったので、これは!と思って後ろからガツンと追いかけた。追い抜いて敵の眼前に回り込み進路を防ぐもさすがサッカー部、上手いことボールを連れたまま何度も進路変更してくる。そのうち虚を突かれて再度の爆走を許すも、また追いついてここだ!と思ったタイミングでボールを奪い返そうと足を出した。敵は見事にすっ転んで一瞬でかわいそうなほど全身砂まみれになった。

まわりにはそれがわざと足をひっかけて転ばせる動きにしか見えなかったらしい。自分でも自分の動きを思い返してみれば"そりゃそうなるわな"という動きだったが、その瞬間はボールだけ綺麗にさらっていけるイメージしかなかったのだから仕方がない。
少し後ろの方から「わざとくね?」とこちらに聞こえるように呟く声もひとつ聞こえた。
よく家で祖母に「"だって"坊や」としたり顔で言われるような言い訳がましい少年だった俺だが、この時ばかりは自分の予測力の無さに口をつぐみ、ただばつが悪そうに「ごめん」と謝るほかなかった。サッカー部のその男子は咎めるでもなく、ただジャージの砂を払っていた。
そのあとの授業のことはてんで思い出せないが、遠巻きに人の群れが走っているような景色だけが浮かんでくるので、おそらく目立たないようにボールから遠いところで適度に走りながらそっとチャイムが鳴るのを待っていたんだろう。
その出来事が学校内で特になにか尾を引いたということは一切なく、遠い日のこととして思い出すのも加害した自分だけだろう程度のことだが、十年を超えた今でもこうしてすぐに文に起こしてしまえたので、あの日の俺はよっぽど後ろめたく又た情けなく思ったのだと思う。
誰を傷つけるでも後ろ指さされるでもなく、ただ華麗にボールを相手のゴールにシュートしたかっただけのある日

2.
▼軽音の副顧問だった時
よく部室に侵入してくる陸上の子がいて、いつも来た2秒後には弾き語りをせがまれるんだけど声出ししてないままやると「今の下手!ちゃんとして」って言われてじゃあ今上手くなるから時間くれって言うとやれやれ仕方がないぜみたいな芝居がかった仕草をする。で声出ししてもっかいやると「上手くなったじゃん」とか褒めてくれる。ここまでがいつもの流れだった

そのあとはクラスの男子にムカつくこと言われた愚痴とか他校の彼氏なんだか何なんだかみたいな男(固有名詞を覚える頃には別の登場人物に変わってるのが常だった)とか家族とのおもしろエピソードとかをひと通り話しては、他の部活の友達が部室の前を通りかかると一緒に帰ろーと叫んで消えてった。
そんな感じでちょくちょく遊びに来る部外者の生徒はその子を含め数人いたが、ちょうど誰も来ないときや皆去っていったあとは、来るんだか来ないんだかわからない正部員を待ちながら適当にギターやベースを弾いたり、社会科の教員に教えてもらった3パターンくらいしかないドラムのリズムパターンを繰り返したりしつつ、ベテラン勢同士の人間関係があまりにもだるい職員室と違う、基本誰もいない空間で心身を回復していた。

3.
▼大学生時代、近所のガストでがちゃがちゃしていた時
とにかく安かったのでよく集まった。ポテトをかっさらう速度は誰にも負けなかった。
何を話していたのかはもう思い出せないしわざわざ思い出すようなものも多分ない。
あの頃はナンパもしてたし飲み会から関係が始まるのも日常だったから、頭の中に"話のネタのストック"みたいなフォルダがあった。こういう系の人に対してはこっち、あの手の人にはあっちみたいにラベリングしていて本当に真っ当に最悪に大学生をしていた。
色んな科の色んな学年の色んな性別の奴と談飯したけど、1,2年のとき同じ語学ゼミだった天パの眼鏡男は、俺の話や動きでよく笑ってくれたので一番話してて楽しかった気がする。
たしか一度くらいガストが食中毒でニュースになってしばらく休業して、その後復活した時チーズハンバーグかなんかの激安キャンペーンやってて当時の彼女とよくお世話になった気がする。何もかも遠い


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