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レモーノの「わかりたい」は「分けてほしい」だったか

『君の言葉がわかりたい』のタイトルを今一度考え直していた。

物語を書くとき、私は厳密な設定をしない。
レモーノとミエルも、「レモンとはちみつのような二人で、溶け合ってレモネードのような関係になる」の設定しかしなかった。
絵を描くためにある程度の見た目も決まっているが、実写化を考えている以上、金髪と白い肌しか設定はないし、もし役者の人が黒髪や茶褐色の肌なら、チョコレートやコーヒーのような設定で物語を書き直すだろう。
人種差別的になるかもわからないが、私にとって、色彩とモチーフの力は大きい。
それと、茶褐色の肌の人たちが暮らす、荒野や砂漠、ジャングルなどの暑い地域に、私は知見がない。
そこに吹く風すら知らない。
日本で生まれ育ち、ヨーロッパを周遊してきた経験で書いているので、どうしても森や湖、そして冬と雪解けのある環境しか書くことができない。
私は書けるものしか書かないし、私が書けないものは、書ける人が書けばいいと思う。
そこに不都合な表現があったとしても、一人の人間が作れるものに人類の教科書を期待する方が間違っている。
私はただ、頭の中にある情景を文字に起こしているだけで、他の人が私の作品を好くも嫌うも、私の口や手を出すところではない。
嫌いなら嫌い、腹が立つなら腹が立つでいいのだ。
私は誰の感性も正そうとは思わないし、「俺はこれが好きなんだ」と叫んでいるだけだ。

レモーノとミエルの物語を書きながら、私はずっと恋愛と会話について悩まされている。
言うまでもなく、私は悩みたくて悩んでいる。
主人公のミエルのことも、未だに「違うねえ。こうじゃないよねえ」と言いながら書いているし、レモーノの姿は、さらに、ミエルの目や耳を通して描くので、ミエルの怯えや期待などのフィルターがかかっている。

タイトルの「君の言葉がわかりたい」ですら、私はまだ「いや、これは何が言いたいんだろう」と悩んでいる。
私の頭の中のレモーノは、そのようなことを言っているのだが、彼の言いたいことは「言葉を覚えたい」や「話を理解したい」ではないことにずっと頭をかきむしってきた。
他の言葉も、ミエルが思い付く言葉を与えているだけで、レモーノの想いを正確に捉えているわけではない。
ミエルのレモーノに対する認識が不正確であることも、そしてその不正確さをミエルは自覚していることも、この物語で描きたいところである。

だが、今日『「わかる」の言葉は「分ける」だ』と述べる話を見かけた。
半分眠りながらの出来事だったので、引用元がわからない、申し訳ない。
夢だったかもしれない。

「わかりたい」って「分かりたい」なのだろうかと思ったとき、レモーノの想いは、「理解したい」ではなく「分けてほしい」ではないかと気付いた。
レモーノがミエルに言い続けているのは、「ミエルの苦楽を自分に分けてほしい」だ。
特に、降りかかる苦難を自分に分け、ミエルが幸せと安らぎの中に生きることを望んでいる。
レモーノは、雪に閉ざされた人も物も少ない場所に生まれて、食糧も体温も苦しい作業も、他の人と分け合うことで生きてきた。
ミエルはレモーノに苦しみを分け、レモーノはミエルに温もりを分けることを、レモーノは望んでいる。
だから、レモーノは縮こまって冷え固まったミエルに、膝を抱えた腕を解いて、自分の体温を受け取ってほしいと言うのだ。
レモーノにとっての命は、恐らく、心身に宿る温もりのことだろう。
ミエルにレモーノの命は熱すぎることを、第一部のレモーノは気付いていない。

ミエルが身体的な接触に難を抱えている設定もある。
それは第八章で書く内容だった気がするので、言及は控えるが、レモーノはミエルの「人にさわられたくない」の気持ちと「一度動揺してしまうと鎮静までが長い」の性質には気付いていて、手を差し伸べる度に、必ずミエルに許可を取っている。
これは、ミエルが身体的な接触を恐れていて、ミエルの恐怖心を減らしたいレモーノだからとっている行動であって、私が「相手の同意を都度取りなさいよ」と言いたいわけではない。
私が書いているものは、二人の人間の架空のドキュメンタリーであって、人類のための教科書ではない。
人の数だけ、要望がある。
『君の言葉がわかりたい』に込めた「わかりたい」の気持ちは「話を理解したい」ではないという話も、レモーノとミエルの間に限ったものだ。
「理解したい」という想いを持つこと自体に、疑義を唱えているわけではない。


🍋🍯作品紹介

使用する言語の異なる二人が出会い、共に暮らす物語です。
二人の努力と歩みを、一緒に見守っていただければ幸いです。

無料公開記事は、第一部第一章と執筆中の記事で、仕上がり次第、適宜有料化いたします。
製本・電子書籍配信も考えておりますので、noteの記事のご購入やキロさんのサポートは、皆様の無理のないように、応援のお気持ちでお願いいたします。

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