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セイギノヒト

 曇天の早朝はいつもより騒がしく始まった。ゴミの集積所の真ん前にリビングのある我が家は収集車のくる8時まで分厚いカーテンを閉め切って息を殺してやり過ごすのだ。
 大きなお屋敷を取り壊した後に建った30軒の新築物件は我が家を除いて建築中に早々に契約が整ったそうだ。つまり我が家は売れ残りの物件だったということになる。
 そりゃあそうだ。夏の午前中は生ゴミの匂いが部屋まで入り込んでくるし、今日のような粗大ゴミの日は朝早くから煩くて仕方ない。特に今日は…。
 私は自治会のくれた粗大ゴミカレンダーの当番表を見てため息をついた。
さっきから耳に響く甲高い声はやはり彼女のものなのだ。

「ちゃんと広報誌読んでないからこんなふうに出すのよね」
呼び止められた若い男が当惑しているとジャージに軍手姿の女がサラリーマンの置いた粗大ゴミの袋を断りもなく開けた。
「古着は透明の袋で出すように変わったのよ」
大きく口を開けたビニール袋からはヨレヨレのトランクスが丸見えだった。
若いサラリーマンは彼女の手から取り返そうと自分のゴミの袋に手を伸ばしたが彼女はその手を拒むようにしてゴミ袋の中身を出してしまった。
「入れ替えて出しておくから仕事に行きなさいよ」
そして赤くなっていたサラリーマンの顔色がどす黒く変わるのにも無頓着にエプロンのポケットから出した透明のビニール袋に古着を入れ始めた。
 
 きっと今度彼女に会った時には、最近越してきた若い夫婦の事が話題に上るだろう。ゴミの分別のできない夫婦の話題は彼女の大好物だ。
 
 



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