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マンチェスターシティ対レスター試合分析 ~偶然じゃない大金星を引き寄せた明確なプラン~

 日本時間00:30に行われたマンチェスターシティ対レスター。ヌディディの怪我、万全ではないエバンス、マディソンと試合前の不安材料も少なくなかった。そんな中、開始早々マフレズが古巣相手に豪快なシュートを決めたときはどうなることかと思ったが、レスターは苦しい時間を粘り強く耐え、少ないチャンスを見事に生かし、アウェイで5-2と大差で勝利した。そのうちPKが3本と運が良かったと片づけられるかもしれないが、決してそうではない。攻守においてロジャースのプランは的確かつ明確で、シティを相手にもしっかりとした戦いぶりを見せた。なぜ勝つことができたのか、ロジャースのプランはどんなものだったのか、画像を用いて説明していく。


スタメン

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 レスターは開幕2連勝、7得点2失点と好調だった4‐1‐4‐1ではなく、シティを相手に5‐4‐1と守備的なシステムを採用。センターバックには2シーズンぶりの出場となるアマーティ、出場停止明けのエバンスが入り、好調のプラート、メンディもスタメンに名を連ねた。

シティはフェルナンジーニョ、ロドリを並べた2ボランチを採用し、アグエロ、ジェズスが怪我をしているセンターフォワードにはスターリングが入った。


シティのメカニズム

 先ほど述べた通り、シティは守備的な中盤2枚を並べた。これにより、スターリングの近くには2枚ではなく1枚しかいない為、ウィングが中に入ることが多くなる。すると、攻撃時はサイドバックがアンカーシステムの時に比べ高い位置をとる回数が増える。これは、ウィングの位置取りだけでなく、相手カウンター時のフィルターが1枚多いこと、レスターの陣形が低いことも挙げられる。

 守備時は前線からプレスをかけるときは、4トップのような形となる。真ん中の2人は状況によってプレスに行くこともあるが、基本的にはキーパー、キーパーの横に降りていくセンターバックにはプレスに行かず、中盤の2枚にパスを入れさせない意識が高かった。サイドの2人は右のマフレズはレスターのビルドアップ時の左のセンターバックになるソユンジュと左のサイドバックのジャスティンの、左のフォーデンは右のセンターバックになるエバンスと右のサイドバックになるアマーティのに立ち、センターバックからの外へのパスコースを切っていた。(レスターのビルドアップは後程詳しく説明します)


レスターの守備のねらい

 

まずはレスターの守備について。ざっくり言うと、5‐4‐1コンパクトにブロックを作り、前から積極的に出て行かず、後ろに引き込んだ守備をする。具体的に触れていくと、


後ろに引く守備採用

この画像のように、シティがボールをある程度高い位置まで運ぶと、

WBが5を崩して前に出ていくことはなく、できるだけ内側に絞りDFラインに揃え、クロスに対してもCBの背中を絞ってカバーする。

・画面外にシティの左サイドバックメンディが高い位置を取っているが、逆サイドのWBやシャドーはそこにつかず、大外は捨てて守る。

・1トップのバーディーはCBに対しても基本的には追わず、ロドリを見て、相手に外回りに攻撃させる。

・とにかくライン間を狭くして、ライン間にボールが入ってもCBと中盤が挟める関係。また、シティおなじみのデブライネのをフリーランニングで深い位置からの速いクロスに対して、CBが釣り出されたとしても中盤がマイナスクロスに対応できる関係にしている。

スクリーンショット (51)

しかし、シティが自陣の比較的低い位置でボールを回し続けると…

・決してCBに対してプレスをかけることはないが、CBからパスが出た先にはプレスをかけられる立ち位置を取る。(プラートはメンディに出たら対応できる、フォーデンへのパスコースは切る立ち位置、バーディーはロドリ見ている、ディフェンスラインもくさびのパスが入ったらアタックできる立ち位置など)

ディフェンスラインはかなり高く設定し、ハーフェーライン付近に設定されていることも。

・直前のプレーでバーンズが裏に抜け出そうとしていたため、この瞬間では戻れきれてはいないが、ディフェンスラインが高くても5‐4‐1でコンパクトに守るという意識は変わらない。


また、センターバックは守備の形が整っていない状況で前に出て潰したり、一か八かで勝負したりすることは避けていた。とはいえ、ライン間にボールが入った時は、状況によってはボールを奪いに厳しく当たったり、ボールを奪うことは狙わず反転させないよう少しプレッシャーをかけたり、相手が前を向ける状況では諦めて睨み合いをしたり。しかし、中盤が戻り切れずスペースがある状況で前を向かれると、とにかく遅らせることを第一に守備をしていて、相手のコントロールが少し大きくなったり、バランスを崩したりするところを狙うなど、ミスを待つ守備をしていた。

また、シャドーの守備意識の高さがレスターの粘り強い守備を実現させた。

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先ほど、WBは極力前に出ずDFラインに揃えると述べたが、WBの手前でボールを受ける選手にはシャドーの選手が制限をかける。

このタスクはもちろん、

スクリーンショット (47)

WBが釣り出されたスペースを埋める仕事も行っていた。しかし、これは毎回ではなく、CBが釣り出されることもあった。また、幅を取る選手にシャドーが対応し、その内側のスペースをWBが狙うなど、ここでの守備はかなりアドリブ性が高かった。

その他にも、逆サイドからのカスターニュの背後へのアーリークロスにプラートが対応したシーンもわずかだったがあったり、WBがクロスをはじいたこぼれ球を拾える位置にいたり、後半、状況によっては前に出て行って外から内にプレッシャーをかけ相手を中に閉じ込め、後ろでボールを回収するきっかけを作ったりするなど気が利いたディフェンスを行っていた。

レスターの守備を一言でまとめると、

狭くコンパクトに、後ろの配置の崩れは最小限に」というイメージだ。


活躍が際立った2選手


ジェイミーバーディー

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この試合でこの男の活躍を語らないわけにはいかない。2つのPKを含むとはいえ、シティを相手にハットトリックを達成するとは、この男のすごさを改めて感じた。事実、ペップの率いるシティを相手にハットトリックをした選手は他にいない。しかもこの男は16-17シーズン既にペップ率いるシティ相手にハットトリックを達成している。つまり、誰も達成していないことを彼は2度も達成しているのだ。

このエピソードはさておき、この試合の彼のプレーは現在のジェイミーバーディーのスタイルを体現する試合だった。

この試合のバーディーのタッチ数は21。しかもその大部分がワンタッチやツータッチなどボールタッチの時間が短かった。つまり、ほとんどボールに関わっていなかったわけだが、決して攻撃に関わっていないわけではない

バーディーは常にCBの間に立って、つまりボールサイドのCBの死角に入り、逆サイドのCBもバーディーをケアしなければいけない立ち位置をとっている。また、その立ち位置を取ることにより、斜めの動きにCBは対応できないのだ。

スクリーンショット (64)

例えば3点目のPKを獲得するシーン。この画像ではオフサイドポジションにいるジャスティンのウォーカーの内側へのランニングにより、ウォーカーはバーンズに対応できずずるずる下がっている。このシーンの少し前からずっとエリックガルシアの死角に入っているのがバーディーで、バーンズの状況を見てタイミングよく斜めにボールを呼び込む。エリックガルシアはバーディーとの距離感を完璧に把握しておらず、ボールに触れようとした瞬間、バーディーが前に入りPKを獲得した。

少し論点から外れるが、プラートとカスターニュのランニングもすごく効果的で、彼らがこの立ち位置を取ることで、シティのディフェンスライン4枚に対して5人で駆け引きすることができた。このランニングによりアケとメンディはただ視野の中にいる選手に注意を向ければいいわけではなくなった。このような5対4の状況を作る意識は試合通して高く、かなり再現性が高かった。

これ以外にもバーディーは常にディフェンスラインと駆け引きすることで奥行きを作り、シャドーにスペースを提供してほかの選手を生かすプレーもしていた。守備においても決して奔走していたわけではないが、彼の立つ位置や追い方によって、シティの攻撃は外回りになっており、守備においてもしっかりと貢献していた。


ユーリティーレマンス

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この試合PKでダメ押しの5点目を決めたティーレマンス。この試合の彼の働きは攻守において際立っており、まさにチームにおける指揮者となっていた。

まず評価したいのが守備の意識の高さ。まず、バーディーがケアできないフロントスペースに出ていき、相手にバックパスを選択させることがよくみられた。これはティーレマンスとパートナーを組み、ティーレマンス同様素晴らしいパフォーマンスを見せたメンディもしていたが、ティーレマンスのほうが前に出ていく守備が多かったように見える。

また、ライン間を埋める意識、ライン間にボールが入った後の後ろから挟む意識も非常に高かった。シティがなかなか崩しきれなかったのは、ティーレマンスを中心とした中盤のプレーヤーがライン間を狭く保ち、そこを使われたとしても、すぐに挟んでいたことが大きな要因だ。

そして試合終盤になってもプレーのレベルが落ちることなく、例えばデブライネに対して死角からタックルを仕掛けボールを奪い、さらにその後カウンターに繋げるパスを送るまど、常にとても頼もしいプレーを続けていた。運動量も最後まで落ちることなく、また切り替えの早さや相手のカウンターを体を張って食い止めるなど責任感の強いプレーが多くみられた。

攻撃においては、相手の守備の矢印の逆を突くプレーがうまく、簡単にボールを失わない。相手の守備の矢印の逆を突くプレーはボールキープだけでなく、パスの送り先も当てはまる。実際5点目のシーンもメンディが外側にいるカスターニュへ意識が高まっていたことを見逃さず、ハーフスペースにいたマディソンへの縦パスによってPKを獲得した。

相手の前からの守備は中盤のティーレマンス、メンディにボールを渡さないことを意識していたため、WBA戦やバーンリー戦ほどボールを触る機会は多くなかった。それでもシティのプレスに若干のズレが生まれることもあり、ボールを受けた際には落ち着いてプレーし、違いを見せるパスを何度も出していた。


レスターの攻撃の狙い


これだけコンパクトな守備をしていたことを考えると、レスターの攻撃はカウンター任せ、という風に思えるかもしれない。もちろん、カウンターのシーンは多かったが、レスターが他のチームと大きく異なるのはボールを保持する状況を作れるということだ。

序盤に述べた通り、シティは前からプレスをかけるときは4トップのような形になる。レスターは最後尾でキーパーを含めたビルドアップの形と、少し前に出てキーパーを含めずにビルドアップする形を使い分けていた。

スクリーンショット (65)

このようにキーパーを含めてビルドアップする際は、アマーティーが右のSBのような立ち位置を取り、ソユンジュ、シュマイケル、エバンスで3バック化していた。このシーンではレスターが長い時間ボールを保持していたため、デブライネがボールホルダーに追いかけている。これによりティーレマンスへのパスコースが空いているため、マフレズがそちらをケア。右サイドバックのウォーカーは、高い位置を取っているバーンズを捨て、ジャスティンへの展開にケアできる立ち位置を取った。

しかし、シティはこのような前から圧力をかけたプレスによってピンチを招く。

スクリーンショット (66)

シュマイケルは右の幅を取っている本来右WBのカスターニュに振り分ける。メンディも空中戦ではある程度強さを誇るが、カスターニュも空中戦はかなり得意としており、競り勝った。すると、

スクリーンショット (44)

プラートが前向きでボールを受ける。シティは前がかりになっていたため、中盤が戻り切れず、自由に運べる。しかもウォーカーが1つ目の画像で述べた通り、バーンズを捨ててジャスティンのほうまで上がっていたため、大外でバーンズがフリーになり、3対2の状況を作った。そしてここでも当然のようにアケの死角に入り斜めに動くバーディー。この動きによってエリックガルシアがバーディーにつられ、スペースのある状況でバーンズにボールが渡った。このシーンではバーンズが仕掛けきることができず、追いついたエリックガルシアに冷静に対応されてしまったが、最後尾からのビルドアップを起点とした素晴らしい攻撃の形だった。

これがシュマイケルからの展開を起点としたチャンスの中では1番目立ったシーンだったが、目立たないところでシュマイケルのサイドへの振り分けがシティのプレスを回避し、レスターのボール保持に大きく貢献した。

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図で表すと、レスターはキーパーを含めたビルドアップをする際はこのような形となり、これは4‐1‐4‐1を採用した過去2戦と似たような形となる。(カスターニュが1列高い位置になっているが)


キーパーを含めずにビルドアップする際は、そのままの形で(WBとシャドーの位置関係は状況に合わせて内外使い分けるが)ボールを運ぶ。最後にこの形のビルドアップから最終的にPK獲得につながった1点目のシーンを紹介する。

スクリーンショット (55)

シティの2トップに対して3枚で回すことで、数的優位となりプレスがはまらない。そのためエバンスに対して2トップどちらも激しくプレスに行けず、メンディへの縦パスを許してしまった。中盤が前に出ていればよいのだが、残念ながら間に合っておらず、フェルナンジーニョが遅れてメンディまで出て行く様子がわかる。

スクリーンショット (56)

メンディは落ち着いてフェルナンジーニョをかわし、フリーで前を向いた。すぐに、左に開いていたバーンズにパスを出すと、

スクリーンショット (58)

バーンズは内側にボールを持ち運び、外側をジャスティン上がることでウォーカーは出て行けず、バーディーも当然のようにエリックガルシアの死角に入り斜めに動き出すため、エリックガルシアはバーンズに出て行けない。結果的にプレーに直接かかわるわけではないが、プラート、カスターニュも上がっており、ここでも5対4の状況を作ろうとしていることがわかる。

このタイミングでバーディーを使えるとよかったのだが、

スクリーンショット (59)

バーンズはパスを出すタイミングが1テンポ遅くなり、バーディーはオフサイドポジションに。(バーンズはこの試合に限らず、パスを出すタイミングが少し遅く、イメージを共有できていない感は否めない。今後ここの改善に期待したい)

しかし、ここでプレーをやめないのがバーディー。

スクリーンショット (60)

体の向きを入れ替え、体をゴールの方向に向ける。今度はバーンズもバーディーとタイミングを合わせてパスを送り、ウォーカーに倒されPKを獲得した。ここでもジャスティンが高い位置を取っており、これによってウォーカーは難しい状況に追い込まれた。さらにプラートも中に入ってきており、逆サイドではカスターニュが上がっているため、攻撃の厚みがわかる。

CBからシティのプレスのずれによって中盤にボールが入ったところを起点として、人数をかけてどんどん前に出ていくことで最終的には数的優位の形を作り、PK獲得につながった。このような形はこの得点だけでなく、他の得点シーンでも見えた。どこかで2対1を作り、またポジショニングによって1人に対して2人にケアさせる立ち位置を取り続けることで、どこかが空いてそれを見極めて使える選手がいる。このような再現性の高い攻撃が最終的に5得点と大量得点で勝利できた要因だろう。


まとめ

ロジャースはシティをリスペクトし、後ろに重心を置いた守備を行った。コンパクトなブロックを作り、相手にスペースを与えず、逆サイドも絞ることで相手に自由を与えなかった。

個人のクオリティも非常に高く、どの選手もボールを持っていないときに的確な動きをすることで、ボールを持っている選手に自由を与えることができる。

シティのプレスのズレが出るまでしっかりとボールを保持できる形を用意し、プレスを回避すると人数をかけて数的優位を作り、スムーズに相手の背後を突く

このようにレスターはシティに勝つだけの十分なと、戦術を持っていた。この大金星は偶然ではなく必然である。今後もこのように各上相手にもしっかりとしたプランニングを立て、これを選手が再現性高く実行できれば、CL出場も可能になるだろう。この試合は私たちに希望を持たせる素晴らしいゲームだった。今後の彼らの戦いぶりに期待したい。


おわりに

最後までご覧いただきありがとうございました。試合日から何日もたってしまい、また長くなってしまいましたが、楽しんでいただければ嬉しいです。面白い、わかりやすいと思ったらスキや拡散などしていただけるとありがたいです。


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