ツンデレラストーリー
シンる上映会にて披露しました『ツンデレラストーリー』を公開します。
「シンる」第二部”ツンデレラと従者”より、スピンオフの物語です。
2部がスピンオフになるのは余りないのですが、従者伊藤を応援したいというお声を沢山いただきまして、今回、ムック先生にお書きいただきました。
脚本:赤澤ムック
朝4時半。ツンデレラ国、ツンデレラ城、従者伊藤の私室。
ツンデレラ 「ねえ、伊藤。いいお話があるんだけど、聞きたい?」
従者伊藤 「いかがなさいましたか、ツンデレラ姫。今は…、朝の4時半ですね。王妃さまからもご注意されていたでしょう。姫も大きくなられたのですから、あまりわたしの部屋に入り込むなと。」
ツンデレラ 「あ~あ。せっかく聞かせてあげようと思ったのに、そんな風にお説教されたら気分が台無しだわ。」
従者伊藤 「とりあえずベッドから降りて下さい。姫に乗りかかられては起き上がれません」
ツンデレラ 「ど~しよっかなぁ~。」
従者伊藤 「わかりました。お話を聞きますので飛び跳ねないで下さいませね。どうぞ、そちらの椅子へ」
ツンデレラ 「あのね…。遂にわたし、運命の王子様と出会ったの!」
従者伊藤 「え。」
ツンデレラ 「彼はユニバーサルなストゥディオの王子でね。」
従者伊藤 「我が国最大のライバル、ユニバーサルなストゥディオの。」
ツンデレラ 「黄色くて、小さくて、オーバーオールがよく似合う素敵な人なの。」
従者伊藤 「もしかしてその王子は、似たようなのがたくさんいますか?」
ツンデレラ 「そうね、たくさんいてちょこまかしてるわ」
従者伊藤 「もしかしてその王子の名前は、(口にするのも憚られ)ミニ…、ミニョ…。あぁ、なんてことだ。姫。正気でございますか!?」
ツンデレラ 「恋に落ちちゃったんだも~ん。」
従者伊藤 「昨年末、あれだけ素晴らしい王子たちからの求愛を断っておきながら。」
ツンデレラ 「伊藤はどう思う?…チラッ。わたしの結婚を心から祝福できる? もし伊藤がど~うしてもイヤだって反対するなら、結婚しないであげてもいいのよ。」
従者伊藤 「それは…。」
ツンデレラ 「チラッ」
従者伊藤 「反対などするわけがございません。おめでとうございます、姫。」
ツンデレラ 「あっそう。」
従者伊藤 「しかし、姫。わたしの記憶によれば、その王子は大悪党で…。」
ツンデレラ 「(いちまつの期待をもって)そうよ。と~っても素行が悪いの。」
従者伊藤 「困りましたね。王と王妃が反対するかもしれません。」
ツンデレラ 「それだけ?」
従者伊藤 「それだけ、とは。ところで彼らのどれが姫のお相手なのですか。トムでしょうか、スチュアート、カール、まさかのケビン?」
ツンデレラ 「知るわけないでしょう! もういい。伊藤はわたしのことを大切な姫君って言うけど、そんなの嘘。さっさと嫁いで、この城から出て行ってほしいと思ってるんでしょう。」
従者伊藤 「そのようなことを思うはずがございません。」
ツンデレラ 「わたしが結婚したら、こんな風に毎日会えなくなるのに、伊藤はそれでも構わないのでしょう。もしかしたら一生会えないかもしれないのよ。」
従者伊藤 「姫と、もう二度と…。」
ツンデレラ 「わたし、好きでもない悪い男と結婚してやる!」
従者伊藤 「待って下さい、ツンデレラ姫!」
ツンデレラ 「チラッ」
従者伊藤 「姫、わたしは…。わたしは従者として…。」
ツンデレラ 「従者の伊藤なんて知らない!」
従者伊藤 「…行ってしまった。…寝起きのせいか頭がまわらない。姫が結婚。名前も知らない悪い男と。…ん。好きでもないとも仰った気がする。どういう事だ。なぜ姫は、こんな朝早くにわざわざわたしの部屋を訪ねて、そんな話をしたのだろう。姫と初めてお会いしたのは、姫がまだ4つの頃。」
ツンデレラ 「(4歳)あなたが新しいジューチャなのね。ふ~ん。まいにちかたぐるまをしてくれるなら、あたしのおせわさせてあげてもよくってよ。」
従者伊藤 「愛くるしかった。…姫が、この城を離れるだなんて。寂しいけれど、従者としての私の役目は終わりだな。いいや、本当にそうだろうか。従者としての本当の役目とは…。そうして迎えた結婚式当日。」
ウェディングベルの音。
従者伊藤 「身支度を整えたわたしは、従者らしく姫に付き添おうとするも断られ、式場へ入ることすら禁止された。従者としての本当の役割とは、姫の幸せを守ること。それだけ。たとえそれが、どれほどの迷惑をかけようとも。わたしは正面入り口の扉を開けた。」
ツンデレラ 「なにしに来たの、伊藤。これから誓いの儀式をするところなんだけど。」
従者伊藤 「王子に問いたい。ツンデレラ姫の好きなイタリアンレストランはどこでしょうか。心の底から姫を愛しておられるなら、簡単に答えられる問題です。3、2、1、はい、時間切れでございます。正解はサイゼリア!」
ツンデレラ 「な、なに言い出すの…!?」
従者伊藤 「次の問題です。ツンデレラ姫の思う、『推し』と『好き』の違いはなんでございましょうか。3、2、1、はい、時間切れでございます。姫、正解をどうぞ。」
ツンデレラ 「推しは幸せにしたくて、好きは一緒に幸せになりたい。」
従者伊藤 「僭越ながらわたしは、姫を幸せにしたいし共に幸せになりたいと考えております。さて次の問題です。」
ツンデレラ 「今、なんて。」
従者伊藤 「おや、棄権なさいますか。そうでしょうそうでしょう、お帰りはあちらです。」
ツンデレラ 「待ってってば。そういうのサラッと言わないでよ!」
従者伊藤 「ツンデレラ姫。誠に恐縮でございますが、あの方は姫のお相手にふさわしくございません。ですのでしばらくはこの伊藤と、ツンデレラ城での暮らしを続けるより他ございませんね。」
ツンデレラ 「…え~、どうしよっかなぁ。毎晩眠る前に、わたしの寝室のテラスでホットミルクに蜂蜜を入れたのを用意して小一時間のつもりが二、三時間盛り上がっちゃうおしゃべりにつきあってくれるなら考えてあげてもいいけど。」
従者伊藤 「それは既に毎晩恒例かと。」
ツンデレラ 「あらそ~お~? じゃあ、帰るしかないってわけね。」
従者伊藤 「姫。これは、王や王妃まで巻き込んだ茶番劇だったのですね。これからはこんなお手間をかけさせぬよう、わたしも従者として心機一転、厳しく生まれ変わろうと決めました。」
ツンデレラ 「あら。まだ従者としてとか言っちゃうわけ。」
従者伊藤 「はい。それはまた別のお話しでございます。」
ツンデレラ 「ま、伊藤にしちゃ上出来だったしね。怖気づいて来なかったらどうしようって、みんなひやひやだったのよ。そのお詫びとして今夜はGPSのライブを大広間で爆音上映7時間、手首が壊れるまでサイリウムを振るわよ。いいわね。」
従者伊藤 「はい。いつまでもおとも致しますよ。我が姫、ツンデレラ。」
従者伊藤 「ツンデレラストーリー。」
ツンデレラ 「一旦、ハッピーエンドってことにしてあげる。」
伊藤・ツンデ「おしまい。」
fin
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