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【予備試験過去問解説】令和3年刑事訴訟法【答案例と解答のポイント】


著者紹介

KB講師

フルタイムで働きながら令和4年予備試験、令和5年司法試験に合格。不合格経験を踏まえ、学習初学者が陥りやすい落とし穴に配慮した、親切かつ合理的な勉強方法に強み。

試験問題

https://www.moj.go.jp/content/001352748.pdf
(法務省のサイトに遷移します)

出題の趣旨

本問は,共犯者2名による住居侵入,強盗傷人事件において,設問1では,事前に被害者から犯人や被害品の特徴を聴取し,防犯カメラの画像でもこれを確認していた警察官が,犯行の約2時間後,犯行現場から約5キロメートル離れた路上で, 犯人の特徴と一致する2名の男を発見し,そのうち1名が被害品の特徴と一致する バッグを所持していたことから,その男に声をかけたところ,両名が逃走したため,これを追跡し,途中で上記バッグを投棄した1名を刑事訴訟法第212条第2項に基づき逮捕(準現行犯逮捕)した事例において,この逮捕が,準現行犯逮捕の要件を充足するかどうかを検討させることを通じて,準現行犯逮捕が令状主義の例外として認められる趣旨や,準現行犯逮捕の条文構造を踏まえた具体的事案における適用のあり方を示すことを求めるものである。設問2では,逮捕された被疑者につい て,間近い時期に被疑者を未発見の凶器の投棄現場に案内させ,その立会の下で同所の実況見分を実施する確実な予定がある中で,弁護人となろうとする者から,被疑者との初回の接見を30分後から30分間行いたい旨の申出があったのに対し,接見の日時を翌日と指定した事例において,接見指定の要件である「捜査のため必要があるとき」(刑事訴訟法第39条第3項本文)の意義や,初回接見についての指定内容と同項ただし書の「指定は,被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限するようなものであってはならない。」との関係についての理解を踏まえて,当該指定の適否を検討させるものである。その検討においては,最高裁判所の判例(最高裁平成11年3月24日大法廷判決,最高裁平成12年6月13日第三小法廷判決等)を意識して自説を展開する必要がある。
設問1及び2のいずれも刑事訴訟法の基本的な学識の有無及び具体的事案における応用力を問う問題である。

答案例

設問1
1 準現行犯逮捕(刑訴法212条2項)
 準現行犯逮捕は、現行犯逮捕(212条1項)(「現に罪を行い・・行い終わった」)より時間的幅がある(「罪を行い終わってから間が無い」の文言の対比)から「左の各号の一にあたる者」であることを要件に加え誤認逮捕のおそれがないことを担保し緊急に逮捕の必要があることを補強し「現行犯逮捕とみなす」。そのため、各号要件該当を前提に、①犯罪と犯人の明白性②時間的接着性③時間的接着性の明白性③犯罪と犯人の明白性を満たせば適法となる。
⑴ 各号要件
 甲は被害品と特徴の一致するバッグを所持し「贓物・・を所持しているとき」といえる(2号)。
 Pが甲に「話を聞きたいのですが、ちょっといいですか」と言うと、甲はいきなり逃走したから「誰何されて逃走」したといえる(4号)。
 よって、甲は「左の各号の一にあたる者」である。
⑵ 犯罪と犯人の明白性
 準現行犯逮捕が無令状逮捕できる趣旨は現行犯逮捕同様に誤認逮捕のおそれがなく、緊急に逮捕する必要に求められるから、外部的客観事情や補助的に供述を基礎に、212条2項各号との相関関係で誤認逮捕のおそれがないか否か判断する。
 Pらは、Vから犯人らの特徴と被害品バッグの特徴を聞き、防犯カメラにより、犯人の特徴と一致する2人の男がマンションから走り去り、1人が被害品と特徴の一致するバッグの所持を逮捕前に把握した。
 Pらは、発生から2時間後、約5キロメートルの同市内路上において犯人と特徴の一致する甲ともう一名を発見した。発見時の甲は被害品と特徴の一致するバッグを所持していたのだから被害品の近接所持が認められ犯人性を強く推認する。また、警察官の職務質問を受けて贓物をその場に投棄していきなり逃走をする行為は、職務質問継続が不都合であることを推認させ犯人性を強める。
 よって、本件住居侵入、強盗傷人という犯罪と犯人の明白性がある。
⑶ 時間的接着性
 「罪を行い終わってから間がない」の文言から時間的限界はあるが、本件は、2号、4号と各号要件を複数充足し⑵のとおり誤認逮捕のおそれはなく緊急に逮捕する必要がある上に、逮捕まで2時間3分の経過、5キロメートルの場所的離隔と一定の時間的限界内にあるから、時間的接着性が認められる。
⑷ 時間的接着性の明白性もある。
⑸ 逮捕の必要性(199条2項但書、規則143の3)
 この場で甲を逮捕しなければ共犯者と合流して口裏合わせされる等「罪証隠滅のおそれ」があり、実際に逃亡する甲をこの場で逮捕しなければ「逃亡のおそれ」もあり「明らかに逮捕の必要がない」とはいえない。
2 以上より、①の逮捕は適法である。

設問2
1 「公訴の提起前」に「司法警察職員」(39条3項)Rが、甲の父(「親族」(30条1項、民法725条1号))という「弁護人を選任することができる者の依頼」により「弁護人になろうとする者」(30条2項)のS弁護士に対し、接見は午後8時以降または翌日午前9時以降にして欲しいと伝えた点は「第一項の接見・に関し、その日時・を指定」した接見指定(39条3項本文)として適法か。
⑴ 接見指定は、「捜査のため必要があるとき」にすることができる。
接見交通権は、憲法の保障する弁護人選任権(憲法34条)を実質化した重要な権利であるため、接見を認めると捜査の中断による支障が顕著な場合に限り、接見指定が認められる。
 具体的には、①捜査機関が現に被疑者を取り調べ中である場合、②実況見分、検証に立ち合わせている場合、③間近い時に取り調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見を認めたのでは取り調べなどの捜査が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などをいう。
本件では、凶器として使用されたナイフという重要な証拠物が未押収で、しかも共犯者が捕まっていないため、一刻も早く押収しなければ共犯者によりナイフが証拠隠滅されてしまう。そして、ナイフの投棄場所は共犯者を除き甲しか知らない場所であるため、現場案内させて実際にナイフを発見され押収できれば、甲の犯人性を強める。そのため、至急、投棄場所を実況見分する必要がある。
 また、午後5時30分から接見を認めた場合、接見を終えて出発すると現場到着する頃には辺りが暗くなることが見込まれ、ナイフの発見をすることができなくなってしまうおそれがあり翌朝には共犯者にナイフを隠滅されるおそれがあった。したがって、捜査の中断による支障が顕著な場合といえ「捜査のため必要があるとき」といえる。
⑵ しかし、初回接見は身柄拘束を受けた被疑者が弁護人の選任を目的とし、かつ、今後捜査機関の取り調べを受けるにあたって弁護人の助言を受ける最初の機会であり、憲法34条の保障の出発点をなす。そのため、「捜査のため必要があるとき」でも「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限してはならない」(39条3項但し書き)ことに特に注意を要する。
 そこで、接見指定に当たっては、①弁護人や弁護人となろうとする者と協議し、②即時または近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうか検討し、③留置施設の管理運営上支障があるなど特段の事情がない限り、比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時または近接した時点での接見を認めるべきである。
 RはSに対して、今から甲の実況見分をするため接見は午後8時以降にして欲しいと告げ、Sは、その時間は時間が取れず、翌日になってしまう、何とか本日中に接見したいと告げて折り合いはつかなかったものの、Rと弁護人となろうとする者であるSは協議をした(①)。
 また、Rは午後8時以降と近接した時点での接見を認めたがSの都合が合わなかったに過ぎない(③)。
 そして、上記⑴という事情があるため、特に迅速な捜査の必要性が高く、午後5時30分から接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが不可能である(②不充足)。
 よって、「被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限し」ていない。
2 以上より、②の措置は適法である。

以上

解答のポイント

① 準現行犯逮捕が令状主義の例外として認められる趣旨を踏まえる

  • 誤認逮捕のおそれがない(低い)ということ及び緊急に逮捕する必要があることが趣旨なので、このことを踏まえて論述します。例えば、犯罪と犯人の明白性では、誤認逮捕のおそれがない(低い)と言えるほどに強固に犯人性が認められるのか、各号要件や外部的客観事情(ちなみに外部的客観事情には、実務上、防犯カメラの映像も含めて良いとされています。)、及び供述を補助的に踏まえて判断します。

  • リーガルクエスト(第2版)では「各号の類型的事情の存在が犯人性の明確さを担保すると同時に令状なしで逮捕すべき緊急の必要性を補強するものと言えよう。このように同項柱書きによる現行犯要件の緩和を各号の類型的事情が補うと言う関係にある(そして各号の事情の存在が犯人性の明白さや緊急の必要性を担保補強する度合いは必ずしも一様では無い)から、逆に、柱書の要件(「間がない」「明らか」)が満たされる具体的基準は当該事案において各号のどの(またいくつの)事情が認められるのかによって変わってこよう。」とされています。

  • ちなみに、各号要件は、1>2>3>4号の順序で犯人としての嫌疑が高まると言われています。そのため、各号要件が複数該当しているのであれば、誤認逮捕のおそれは低下していきます。
    特に注意を要するのは、4号要件だけで犯罪と犯人の明白性を認めることです。4号要件は最も犯人 性推認力が低いので、その他の外部的客観事情などについて、他の各号要件該当性が認められる場合と 比べて一層高度な嫌疑が求められます。

② 準現行犯逮捕の条文構造

  • 212条2項は「左の各号の一にあたる者が、」「罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるとき」は、「これを現行犯人とみなす。」としています。つまり、各号要件が一般的要件(犯罪と犯人の明白性、時間的接着性、時間的接着性の明白性)に先行して認められなければならないという条文構造になっているのです。

  • 平成25年司法試験の採点実感では、この条文構造への理解が乏しい答案に対して苦言が呈されておりますし、今回の問題の出題の趣旨にも、「準現行犯逮捕の条文構造を踏まえた具体的事案における適用のあり方を示すことを求める」とされていますので、司法試験委員会は上記と同様の立場だと考えられます。

  • 本問のケースにおいては、2号要件と4号要件に該当することを、それぞれ、端的に認定すれば足ります。

  • なお、贓物というのは、犯罪の盗品、つまり被害品のことです。そのため、被害品と被疑者が所持している物が【同一】といえる理由を論じます。本問のケースでは、被害品のバッグとの特徴の一致だけですと市販品で流通が多い物の場合には【同一】とまでは言えません。そこで、他の事実として、防犯カメラで確認された犯人との特徴の一致、時間経過や距離の離隔が大きくないことで、補強し、被害品と所持している物が【同一】といえ、贓物であることを認定します。

  • 誰何されて逃走とは、警察官から職務質問を受けて逃走する場合や、被害者から声をかけられ逃げることを指します。本問のケースでは職務質問を受けて逃走したことから認定します。

  • 補足ですが、「左の各号の一」という条文の文言から、各号要件は一つだけ認定すれば足りるようにも思われますが、複数該当することを認定すべきです。判例(和光大学内ゲバ事件)においても、3号と4号というように複数該当することを認定されています。

③ 接見指定の39条3項本文と但書の関係、初回接見、その他

  • 本文と但書の関係は、2段階構造のようになっています。まずは本文に当てはめて、その上で、但書に当たらないか検討します。

  • もっとも、本問は初回接見の場面なので、通常よりも、弁護人等との接見をさせる必要が高い場面ですので、「初回接見の特殊性」を別途論じる必要があります。

  • 初回接見については、39条3項但書を踏まえて、逮捕後の弁解録取や指紋採取・写真撮影・身長体重測定などを終えた後に行うべきものとされています(判例講座)が、今回のような「重要な証拠物が未押収の場合には、特に捜査の中断による支障が大きいので、但書に当たらないと考えられています(判例講座P266参照)。

  • この問題は、初回接見の必要性(捜査を優先させた場合の被疑者の不利益)と、捜査の必要性(接見を優先させた場合と捜査の不利益)が強く対立する場面です。そのためこの2つの立場から、それぞれ細かく検討を加えていきます。被疑者の不利益としては、年齢(未成年や高齢者ですと判断能力が相対的に低く特に不利益が大きい)、過去の逮捕歴(警察慣れしていると防御権について知識があるので初期段階における助言の必要性は相対的に低い)、否認事件(翻って自白されてしまうと現場案内により不利な証拠が発見されたり、不利益供述がなされて事実認定が不利になる)などが挙げられます。対して、捜査の不利益としては、否認事件、重要な証拠の未押収、共犯事件などが挙げられます。

  • 本問のケースでは、初回接見ですが、共犯事件であり、しかも強盗致傷罪の凶器に使われたナイフという重要な証拠が未押収です。そのため、直ちに押収しなければ、逃走中の共犯者に証拠の隠滅をされるおそれが強く存在しています。このことを述べて、被疑者の不利益よりも捜査の必要性が高く、捜査への支障が顕著であることを認定します。

  • その他の接見指定の要件も細かいですが、丁寧に認定しましょう。

参考文献

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