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#230 「中央労働基準監督署長事件」東京高裁

2009年4月1日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第230号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【中央労働基準監督署長事件・東京高裁判決】(2008年6月25日)

▽ <主な争点>
社内での飲酒をともなう会合後の事故は「通勤災害」に当たるか

1.事件の概要は?

本件は、Xの夫であった亡きYが、勤務先において行われた飲酒を伴う会合(以下「本件会合」という)からの帰宅途中、駅入口階段から転落して死亡した事故(以下「本件事故」という)に関し、Xが処分行政庁である中央労働基準監督署長(以下「C監督署長」という)に対し、本件事故は労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)7条1項2号の「通勤災害」に該当するとして、療養給付、遺族給付および葬祭給付の各請求をしたところ、C監督署長が本件事故は「通勤災害」に当たらないとして、Xの上記各請求につき不支給の決定(以下「本件各処分」という)をしたため、Xが審査請求、再審査請求をし、これらがいずれも棄却されたことから、国に対し、本件各処分の取り消しを求めたもの。

原審である東京地裁は、本件事故が「通勤災害」であることを否定した本件各処分は違法であるとして、本件各処分を取り消したため、国がこれを不服として控訴を提起した。

2.前提事実および事件の経過は?

<XおよびY、本件会合等について>

★ Xの夫であるY(昭和30年生。死亡時44歳)は、昭和49年4月、日特建設(以下、N社)に雇用され、平成11年4月から、同社の東京支店の事務管理部次長の役職にあった。Yの自宅から東京支店までの通勤時間は40分強であり、地下鉄日比谷線築地駅から同支店までは歩いて約10分の距離であった。

★ 東京支店においては、毎月初めに午後1時から5時まで、主任会議が開催されており、関東近県の建設現場の現場主任以上、支店長と事務管理部の主任以上、本店の役員ら総勢80名ほどが参加し、各部からの通達、連絡事項の報告等がされていた。

★ 主任会議終了後、勤務時間外である午後5時以後、社内において飲酒をともなう本件会合が通常午後7時頃まで開催され、主に主任会議に出席しない事務管理部等の従業員が出席した。本件会合については、開催の稟議も案内状もなく、また、議題もなく、事後に議事録等も作成されなかった。Yも本件会合にほぼ毎回参加していたが、午後7時頃には退社していた。

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<本件事故およびYが死亡に至るまでの経過>

▼ Yは、平成11年12月1日、午後1時から主任会議に出席し、これが終了した午後5時過ぎから、東京支店内事務室において行われた本件会合に出席した。正確な飲酒量は不明であるが、Yは午後8時頃までの間に少なくとも缶ビールを約3本飲み、紙コップ半分位のオンザロックのウイスキーを約3杯飲んだ後、午後9時15分頃から椅子に座ったまま居眠りをした。

▼ その後、Yは午後10時15分頃退社して、部下に支えられながら帰宅の途についたが、10時27分頃、築地駅入口の階段を降りる際に階段下にある踊り場まで転落した(本件事故)。

▼ Yは、直ちに病院に搬送され、治療を受けたが、意識を回復しないまま「骨折をともなう頭蓋内損傷」により、同月13日に死亡した。なお、Yが治療を受けた病院が入院後間もなく採取した血液中からは、378.5mg/dlのエタノールが検出された。

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<Xが本件訴訟に至るまでの経緯>

▼ Yの妻であるXは、12年1月および同年2月、亡きYの死亡事故が、事業所における就労を終えて、通常の帰宅経路を使って自宅に帰宅する途上での事故であるから、労災保険法第7条1項2号にいう「通勤災害」に該当するとして、C監督署長に対し、療養給付、遺族給付および葬祭給付の各請求を行った。

▼ C監督署長は、同年12月15日、本件事故は通勤災害には当たらないとして、Yの各請求に対し、いずれも給付しない旨の決定をした(本件各処分)。

▼ Xは本件各処分を不服として、13年1月、東京労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求をしたが、同審査官は、同年8月、これを棄却した。

▼ Xは同年9月、上記決定を不服として、労働保険審査会に対し、再審査請求をしたが、同審査会が、17年3月、これを棄却したことから、同年6月、本件訴訟を提起した。

【中央労働基準監督署長事件】東京地裁判決の要旨(2007年3月28日)
▼ 本件会合は、業務の円滑な遂行を確保することを目的とするものと言うべきであり、一般には本件会合への参加が任意であるとしても、少なくとも事務管理部次長として、これに対応することを部長から命じられて毎回出席していたYにとって、本件会合への出席は主催する事務管理部の実質上の統括者としての職務にあたる。

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