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#292 「TOTOほか事件」大津地裁

2011年8月24日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第292号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【TOTO(以下、T社)ほか事件・大津地裁判決】(2010年6月22日)

▽ <主な争点>
下請従業員の労災死亡事故と下請会社、注文会社等の損害賠償責任

1.事件の概要は?

本件は、T社(注文会社)の工場内で稼働していたXが製造機械で挟まれる事故により死亡したことに関して、(1)Xの父母であるAおよびBが、Xの属する組(交替勤務の各番方)の組長であったFには作業員の安全に配慮すべき義務等があるにもかかわらず、これを怠った、または、T社が所有する工場には瑕疵があったとして、Fに対しては民法709条(不法行為による損害賠償)に基づき、T社に対しては同法715条(使用者等の責任)または717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)に基づき、S社(下請会社)に対しては同法715条に基づき、損害賠償を求め、(2)A・BおよびXの兄Cが、Fには被害者の遺族に対して事故情報を提供すべき義務があるにもかかわらず、これを怠ったとして、Fに対しては民法709条に基づき、T社およびS社に対しては同法715条に基づき、損害賠償を求め、(3)Aらが、T社には事故後被害者の遺族に対して誠実に対応すべき義務があるにもかかわらず、これを怠ったとして、T社に対し民法709条に基づき、損害賠償を求めたもの(損害賠償請求額の合計は、A・Bが各5155万7500円。Cが385万円)。

2.前提事実および事件の経過は?

<T社、S社、F、XおよびAらについて>

★ T社は、窯業・土石製品その他無機化学製品の製造、販売等を業とする会社であり、滋賀県湖南市に衛生陶器等を製造する滋賀工場を設置している。

★ S社は、衛生陶器の製造販売等を業とする会社であり、T社との間で製造委託契約を締結し、従業員をT社滋賀工場内での作業に従事させていた。

★ Fは、S社の従業員であり、滋賀工場内での作業に従事していた者である。

★ N社は、貨物自動車運送事業等を業とする会社であり、T社との間で製造委託契約を締結する一方、人材派遣を業とするSC社と業務請負契約を締結していた。

★ X(昭和43年生)は、SC社に雇用され、N社へと派遣され、T社滋賀工場内での作業に従事していた者である。

★ AはXの父であり、BはXの母であり、CはXの兄である。

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<T社滋賀工場のS-3Jライン、本件事故等について>

★ 滋賀工場におけるS-3Jラインは、水洗便器のタンクを成形するラインである。タンクは胴と蓋で1組となるが、胴と蓋はそれぞれ別の成形機で原形が作られる。

★ 通常、製品が脱型してコンベアの上に流された際に、蓋成形機のコンベア側に2つ設置されている光電管が感知し、脱型完了の合図が出て、次の製品を作るための工程に移るが、脱型がうまくできずに光電管が感知しないと、脱型完了の合図が出ず、次の製品を作るための工程に移行しないというトラブル(以下「本件トラブル」という)が発生することがあった。

★ T社は本件トラブルが発生した場合、蓋成形機を一旦停止させ、手動操作によって光電管が感知できるよう、脱型に失敗した製品の場所を調節した上で再び蓋成形機を作動させるというマニュアル(以下「本件マニュアル」という)を定めていた。

★ しかし、本件トラブルが発生するたびに蓋成形機を停止させると生産性が落ちることから、実際には本件マニュアルは遵守されておらず、蓋成形機を停止させることなく、その背部に入り込んで光電管を手で遮断するという方法(以下「本件方法」という)により、本件トラブルに対処することが常態化していた。

▼ S-3Jラインにおける勤務は3交替制で行われていたところ、平成19年5月から、そのうちの1組には組長としてF、組員にS社の従業員3名、SC社の従業員3名(Xを含む)、S社の子会社の従業員1名が各配置され、組長Fを指導する技術支援として、T社の従業員が配置されていた。

▼ 同月14日、Xは成形された蓋を点検する業務に従事していたが、同日午後7時頃、蓋成形機において本件トラブルが発生したため、光電管を手で遮断しようとして、蓋成形機を停止させることなく、その背部に入り込んだところ、傾斜から起き上がってきた蓋成形機と支柱との間に頭部を挟まれ(以下「本件事故」という)、多発性脳挫傷を発症し、搬送先の病院で死亡した。

3.下請従業員Xの遺族Aらの言い分は?

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