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#264 「フィンエアー事件」東京地裁

2010年7月21日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第264号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【フィンエアー(以下、F社)事件・東京地裁判決】(2010年1月15日)

▽ <主な争点>
実際のフライト勤務時間の超過を理由とする欠員手当の支払義務等

1.事件の概要は?

本件は、旅客機の客室乗務員として勤務するAらが雇用契約に基づき欠員手当(フライトの合計編成人員に欠員が生じた場合、その欠員人数に応じて支払われる手当)等の支払いをF社に対し求めたもの。

争点は、出発前のフライト編成時点において、フライトの合計編成人員に欠員が生じていなかったものの、フライト勤務時間が延長し結果として12時間を超えた場合、ワークマニュアルの規定により、フライトの合計編成人員が遡って客室乗務員12名で固定されることになり、その結果欠員が生じたこととなって、Aらに対する欠員手当の支払義務が発生することになるか否かである。

2.前提事実および事件の経過は?

<F社およびAらについて>

★ F社は、旅客・貨物等の輸送を業とする航空会社であり、フィンランド共和国のいわゆるナショナルフラッグキャリアであって、世界に50路線を展開し、従業員は約9600人(平成18年度)である。なお、日本支社の従業員数は71名(20年9月末時点)である。

★ A、B、C、D、E、F、G、H、I、J、Kの計11名は、いずれもF社に雇用され、客室乗務員として勤務してきた者である(Dは20年7月に同社を退職。Iも同年5月に退職)。

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<F社の日本人客室乗務員規定および本件ワークマニュアル等について>

★ F社日本支社就業規則は「賃金、手当については別に定める『賃金規程』による。」旨定めており、F社はこれに基づき、同社日本支社の従業員の賃金の決定、計算、支払方法等賃金に関する事項についてF社日本支社賃金規程を定めている。

★ 日本人客室乗務員規定の第2節(日本人客室乗務員諸手当)には、以下の内容の定めがある。

1)時間外勤務手当
地上勤務においては1日の労働が8時間を超えた場合、また、フライト業務においては1ヵ月の業務時間が85時間を超えた場合、それぞれ超過した時間数に対して次の計算式により支払う。
(基本給+住宅手当+最低保証フライト手当)×1.4/153×時間外勤務時間数

4)フライト乗務手当
1ヵ月に実際に乗務したフライト数に対して、フライト乗務手当を支払う。
(約2万7000円)

5)最低保証フライト乗務手当
1ヵ月の最低保証額をフライト乗務手当×2.888とし、3ヵ月ごとに3ヵ月の乗務回数が13回以上になった場合、差額を支払い調整する。(以下略)

6)フライト乗務超過勤務手当
実際に乗務したフライト勤務時間が、当該フライトのスケジュール時間を超えた場合、超過した時間に対して1分につき250円を支払う。なお、この手当は1)に規定する時間外勤務手当と重複する場合も支払う。

9)欠員手当
フライトの合計編成人員に欠員が生じた場合、下記の計算式にて支払う。
1人欠員のとき:(基本給+最低保証乗務手当)×1/153×Planned Block Time×12人欠員のとき:上記×2

★ 15年12月、F社はアジア客室乗務員の日常業務遂行を支援することを目的にアジア客室乗務員ワークマニュアル(以下「本件ワークマニュアル」という)を作成した。

★ 本件ワークマニュアルには、F社が使用するMD11型機において予定されたフライトとそれに対応した客室乗務員の編成人員に関する定めがあり、その内容は、概ね以下のとおりであるが、これは利用客に対する機内サービスの質を維持するためにフライト編成時点において、フライト予定時間と乗客数を把握した上、乗客数に応じた客室乗務員の人員数を確保して対応しようとする規定である。

1)17年9月まで
 MD11型機の予定されたフライトにおいて、
(a)最少の客室乗務員は7名とする。
(b)乗客が合計140名以上で内ビジネスクラスの乗客が15名以上の場合、客室乗務員は8名とする。
(c)乗客が合計170名以上で内ビジネスクラスの乗客が15名以上の場合、客室乗務員は9名とする。
(d)乗客が合計260名以上で内ビジネスクラスの乗客が5名以上の場合、または乗客220名以上で内ビジネスクラスの乗客が15名以上の場合、客室乗務員は10名とする。
 MD11型機の予定されたフライトにおいて、12時間を超えるフライトの場合、客室乗務員は12名で固定する。

2)17年10月以降
 MD11型機の予定されたフライトにおいて、
(a)最少の客室乗務員は7名とする。
(b)乗客が合計160名未満の場合、客室乗務員は7名とする。
(c)乗客が合計160名以上210名未満の場合、客室乗務員は8名とする。
(d)乗客が合計210名以上260名未満の場合、客室乗務員は9名とする。
(e)乗客が合計260名以上の場合、客室乗務員は10名とする。
 MD11型機の予定されたフライトにおいて、12時間を超えるフライトの場合、客室乗務員は12名で固定する。

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<本件ワークマニュアルの改訂、労働基準監督署の対応等について>

▼ F社は20年2月、本件ワークマニュアルの客室乗務員の編成についての上記2)のうち、bの規定を削除する等を内容とする改訂を行った。

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