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#196 「三洋貿易事件」名古屋簡裁

2007年11月28日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第196号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【三洋貿易(以下、S社)事件・名古屋簡裁判決】(2006年12月13日)

▽ <主な争点>
適格退職年金制度廃止にともなう年金基金の分配

1.事件の概要は?

本件は、S社の適格退職年金を受給中の元社員Xが、適格年金においては平成24年以降税制優遇がなくなるため、同社が確定拠出年金へ制度を移行させることとし、適格年金の受給者等に年金基金を分配した結果、年金支給が継続した場合よりも受給額が少なくなったのは債務不履行または不法行為に当たるとして、同社に対し、損害賠償および遅延損害金の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<XおよびS社の退職年金制度等について>

▼ Xは平成13年12月31日、早期退職援助制度によりS社を退職し、退職慰労金および早期退職加算金を受給したほか、退職年金規定に基づき、年金月額7万2400円を10年間受給することになった。

▼ S社の退職年金制度は、昭和48年に所轄官庁の承認を受け、退職年金規定によって運用、実施されてきたが、同社は退職金制度および退職年金制度の見直しを行い、適格退職年金制度を廃止して確定拠出型年金へ移行させ、退職一時金と確定拠出年金部分との割合を概ね同等とする内容で、社内の賃金委員会で新制度が決定され(16年6月)、労働組合の同意も得て(同年7月)、退職年金規定を17年6月に廃止した(以下「本件廃止」という)。

★ 適格年金制度に関する法律の変更により、適格退職年金制度の新設は平成14年4月1日以降不可能となり、既存のものも24年4月1日以降は税制適格がなくなり、拠出金の損金算入も税制上認められなくなった。

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<本件改定および年金基金の分配等について>

★ Xが退職した当時の退職年金規定は、年金基金の70%は信託契約の信託金としてA信託銀行に払込み、その余の年金基金の30%は保険契約の保険料としてB生命保険に払込み、それぞれ管理運用させることとされていた。

★ そして、制度廃止に際しての年金基金の分配については、「保険契約において、すでに年金の給付事由が生じている者については、その責任準備金相当額を留保し、引き続き年金を給付する」との方法が選択肢の一つとして予定されていた。

▼ 退職金制度等の見直しの中で、退職年金規定は16年12月に改定され(以下「本件改定」という)、年金基金の管理運用は、全額につき信託契約に基づき、A信託銀行が行うこととされ、制度廃止時にすでに年金の受給事由が生じている者については、制度廃止日現在の責任準備金相当額を分配する方法に統一され、従前は認められていた責任準備金相当額を留保し、引き続き年金を給付するという選択肢が認められなくなった。

▼ S社はXに対し、17年3月、書面により、本件廃止および退職年金の一括支給を通知した。その内容は、一括支給の方法として、選択一時金または年金基金の分配のいずれかを選択するというものであった。そして、同年8月、S社はXに対し、本件廃止による年金基金の分配として、531万3581円を支払った。

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<本件改定以前の退職年金規定について>

★ 本件改定以前(Xの退職時)の退職年金規定の主な規定は次のとおりである。

第1条(目的)
この規定による制度は、従業員の退職または死亡について年金または一時金を給付し、もって従業員の退職後の生活安定およびその遺族の生活安定に寄与することを目的とする。

第29条(差別的扱いの禁止)
この制度における拠出金の額、給付の額、その他給付の要件については、特定の者に対して不当な差別的な取扱いはしない。

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