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#58 「近鉄百貨店事件」大阪地裁(再掲)

2004年10月13日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第58号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【近鉄百貨店(以下、K社)事件・大阪地裁判決】(1999年9月20日)

▽ <主な争点>
部長待遇から課長待遇への降格、退職強要など

1.事件の概要は?

本件は、K社の従業員であったSが、同社による部長待遇職から課長待遇職への降格が不法行為もしくは債務不履行を、退職強要が不法行為を構成するとして、K社に対し、逸失利益および慰謝料等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Sについて>

▼ Sは昭和38年4月、近畿日本鉄道に入社し、47年6月にK社に転籍となってからは同社の従業員として勤務してきた者である。

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<Sの業務内容、待遇職制度等について>

▼ 平成4年11月、Sは外商本部庶務部長となり、課長、係長各5名よび主任4名を含む44名の部下を持ち、6年7月まで本部庶務、外商口座開設のための審査、与信、回収管理等の業務に従事した。

▼ 6年7月、Sは部長待遇職として、N店外商部に配属となり、ショップNにおけるギフト商品の販売、売上金のN店への入金等の業務に従事した。ショップNにおけるSの部下はパートとアルバイトが各1名のみであった。

★ K社においては、60歳への定年延長に伴い、人事の停滞による会社のモラール低下を防止する目的で、長年蓄積した知識と経験を勘案し、管理職付のスタッフとして現場における特定業務を処理させるために「待遇職制度」が導入された。

★ 「待遇職制度」においては、原則として管理職は55歳で役職をはずれて待遇職になるが、特に会社の業務向上に大きく貢献していたり、後継者の育成に時間がかかる等の特別の事情がある場合は、現役職を継続する。

★ 待遇職は部下を持たず、役職給も4割カットされるが、専務以上の役員から構成される管理者能力審査委員会の決定に対して異議を述べる制度はない。

▼ 7年4月、Sは部長待遇職として庶務部に配属され、事務一課に席を置いた。以後、退職に至るまで、Sに部下はいなかった。

▼ 8年3月、Sは部長待遇職として外商本部外商企画部に配転され、ショップ事業統括課に席をおいた。Sの仕事は各ショップの販売応援や連絡業務等であった。

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<本件降格、Xの退職までの経緯等について>

▼ 同年8月、Sと面談したM総務本部長はSに対し、「A外商本部長によると、あなたはふてくされていて、ろくに挨拶もしないらしい。転進援助制度で転職してはどうか。このままでは課長待遇職へ降格することになる」等と言い、転進援助制度の利用を勧告した。Mの勧告に対し、Sは退職の意思がないことを伝えた。

★ 「転進援助制度」とは、定年を待たずに転進を理由として退職する勤続10年以上の者に対して転進援助金を支給し、申し出により3ヵ月の転進準備休職を認める制度である。

▼ 同年9月、Sは課長待遇職に降格し(以下「本件降格」という)、経理本部商品管理部に配転され、流通センター奈良で納品商品の検品作業に従事した。なお、Sの給与はこの降格により、1ヵ月あたり4万8000円減額された。

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