#57 「日本交通公社事件」東京地裁
2004年10月6日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第57号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【日本交通公社(以下、J社)事件・東京地裁判決】(2000年6月23日)
▽ <主な争点>
現金着服行為による懲戒解雇
1.事件の概要は?
本件は、Iが不正な会計処理をして現金を着服したことを理由として、J社がなした懲戒解雇の効力が争われたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
▼ Iは昭和48年4月、J社と期限の定めのない雇用契約を締結し、平成10年2月からS支店海外旅行課長の職にあった。
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<Dの旅行代金について>
▼ 11年2月13日出発予定のDの旅行代金について、10年12月21日にDから旅行代金47万9380円を現金で受領し入金処理されたが、11年1月8日、Iは操作者をNと表示して、D名義で現金9380円の入金処理をし、操作者をS支店社員であるKと表示して、現金47万9380円の出金処理をした。Iは同年2月4日に上記入出金処理の差額47万円について、Iの兄名義のクレジット番号を使用して入金処理をした。
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<Gの旅行代金について>
▼ 11年2月22日出発予定のGの旅行代金について、同年1月27日、Gから91万7240円を受領し、入金処理されたが、Iは操作者をS支店の社員であるCと表示して、G名義で11万7240円の入金処理をし、同日S支店のNを操作者と表示して、現金91万7240円の出金処理をした。Iは同年2月16日にG名義で上記入出金処理の差額80万円の現金入金処理をした。
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<Hの旅行代金について>
▼ 11年2月16日出発予定のHの旅行代金について、同年1月20日にHから旅行代金87万800円を現金で受領し、入金処理されたが、Iは同月26日、S支店の社員であるYを操作者(コンピューター上の入出金処理者)と表示して、上記87万800円を出金処理した。
▼ Iは同年2月6日、上記87万800円のうち20万円についてはIの知人であるU名義のクレジット番号を使用して入金処理し、62万800円についてはH名義で現金入金処理をし、5万円については値引申請・承諾書を作成して帳簿上架空の値引き処理をすることにより充当した。なお、帳簿上架空に値引き処理された5万円については現実には値引きされておらず、Iが着服した。
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<本件懲戒解雇に至った経緯等について>
★ S支店においては、入出金処理はすべて入出金処理機械で行われているが、その機械は、社員個人の外務員証カードの磁気部分をカードリーダーに通し、コンピューターが操作者を認識することによって初めて入力が可能なシステムになっていた。しかし、多忙なときなどコンピューターの操作後、そのままカードを端末近くに放置する社員がおり、その後の操作者が放置された他の社員のカードを使用して操作することがあった。
▼ 11年2月9日、S支店の社員FがGに対し、帳簿上の旅行代金残金の入金督促を行ったところ、Gからすでに現金で支払ったとの回答を受けたので、端末の操作記録を確認したところ、操作者Cの表示で預かり金清算による不自然な現金出金処理が行われていることが判明した。そこで、J社が調査したところ、G以外の顧客についても不自然な入出金処理が発見された。
▼ J社が同月16日、Iに事情聴取したところ、Iは上記の入出金処理を行った事実を認め、入出金処理を原因とする不足金について弁済する旨の自認書を作成し、同年3月9日、J社に対し、5万円を弁済した。
▼ IはJ社から事情聴取を受けた際、上記の出金処理はIの担当する大口顧客であるT社あるいはその代表者Oの旅行代金に充てるために行ったとの弁明をした。そこで、J社が調査してみるとHの旅行代金の出金処理が行われた翌日、Oの旅行代金の一部がI名義で入金処理されている事実が判明した。その他の2件については、T社あるいはOの旅行代金として入金された形跡はなかった。
★ J社の社内規定によれば、顧客の旅行代金は出発前入金が原則であり、やむを得ない理由がある場合にかぎって、例外的に後払いを認めることもあるが、その場合はあらかじめ同社内の承認を得なければならなかった。
▼ J社は11年3月10日付けの「辞令」でIに対し、懲戒解雇の意思表示をした(以下、「本件懲戒解雇」という)。上記「辞令」には、「社金を着服流用し、社損を招いたことは誠に不都合である。よって社員就業規則第182条一号(1)の規定により『懲戒解雇』とする」と記載されていた。
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<J社の就業規則の定めについて>
★ J社の就業規則のうち、本件に関連する規定は次の通りである。
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