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#387 「行橋労働基準監督署長事件」東京地裁

2015年6月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第387号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【行橋労働基準監督署長事件・東京地裁判決】(2014年4月14日)

▽ <主な争点>
歓送迎会後の任意の送迎中における運転事故死と業務起因性など

1.事件の概要は?

本件は、甲社から乙社(甲社の100%子会社)に出向して苅田工場等に勤務していたXが平成22年12月7日に交通事故(本件事故)により死亡したのは業務上の死亡であるとして、Xの妻であるYが行橋労働基準監督署長に対し、労災保険法に基づく遺族補償給付および葬祭料の請求をしたところ、不支給決定(本件処分)を受けたため、本件処分の取消しを求めたもの。

本件事故があった当日、午後6時30分から9時過ぎまでの間、居酒屋において、乙社の社員と中国人研修生の親睦を深めるための歓送迎会(本件歓送迎会)が開催された。

Xは本件歓送迎会当日、B部長から出席を打診された際、「資料を作成しなくてはならないので、参加できない」旨回答していたが、午後8時頃、乙社所有の乗用車(本件車両)を運転して同歓送迎会に出席し、午後9時過ぎ、B部長が送る予定であった中国人研修生5名を本件車両に乗せて出発した。同日午後9時15分頃、Xは運転走行中、対向車線に進入し、大型貨物車と衝突し、頭部外傷により死亡した。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xおよび乙社について>

★ X(被災時34歳)は、平成22年8月、甲社から乙社に出向し、苅田工場等において営業企画等の業務に従事していた者である。

★ 乙社は、主に金型の表面にクロムめっきをする業務を行っている会社である。なお、同社の代表取締役であるAは甲社の事業企画部長を兼任しているため、生産部長であるBが社長の代行業務も行っていた。

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<本件歓送迎会、本件事故に至った経緯等について>

★ 乙社は中国にある甲社の子会社から中国人研修生2~3名を受け入れており、B部長は研修生との親睦を深めることを目的として、来日したときや帰国する前などに歓送迎会を行うことがあったが、会社の行事として行うのではなく、同部長の判断で不定期に開催しており、参加についても任意であった。

▼ 平成22年12月7日午後6時30分から9時過ぎ頃までの間、居酒屋(本件居酒屋)において、乙社の社員と中国人研修生の親睦を深めるための歓送迎会(以下「本件歓送迎会」という)が開催された。

★ 本件歓送迎会の開催はちょうど中国人研修生の交替の時期であり、B部長が企画し、たまにはと考えて社員全員に声を掛けることとした。同歓送迎会への参加は任意であったが、A社長とXを除く社員全員が参加した。なお、本件歓送迎会での飲食代金は乙社の経費(福利厚生費)で支払われた。

▼ 本件歓送迎会の終了予定時刻は午後8時30分頃であったところ、Xは午後8時頃、乙社所有の乗用車を運転して本件居酒屋に来店し、同歓送迎会に出席した。

▼ Xは同日午後9時過ぎ頃、本件歓送迎会が終了した後、上記乗用車に中国人研修生5名を乗せて、本件居酒屋を出発し、研修生らの自宅アパートに向かった。

▼ Xは同日午後9時15分頃、上記乗用車を運転して走行中、横滑りしながら対向車線に進入し、対向車である大型貨物自動車と衝突した(以下「本件事故」という)。同日午後9時50分頃、Xは搬送先の病院で本件事故による頭部外傷により死亡した。

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<本件訴訟の提起に至った経緯等について>

▼ Xの妻であるYは23年11月、Xの死亡は業務上の死亡であるとして、行橋労働基準監督署長(処分庁)に対し、労災保険法に基づく遺族補償給付および葬祭料の請求をしたが、処分庁は24年2月、不支給決定(以下「本件処分」という)をした。

▼ Yは本件処分の取消しを求め、同年4月、福岡労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが、同年7月、棄却され、同年9月、労働保険審査会に対して再審査請求をしたが、25年3月、棄却され、同年6月、本件処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。

3.亡きXの妻Yの主な言い分は?

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