見出し画像

#616 「中央労働基準監督署長事件」東京地裁

2024年7月3日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第616号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【中央労働基準監督署長(以下、C労基署長)事件・東京地裁判決】(2023年3月30日)

▽ <主な争点>
通勤中の電車内で注意をした相手方から蹴られたことによる傷害が通勤災害に当たるか

1.事件の概要は?

本件は、ファミリーレストランの経営等を業とするA社に雇用されていたXが通勤中の電車内において、迷惑行為を行っていた男性に注意したところ、男性から蹴られて左脛骨顆間隆起骨折の傷害を負うという通勤災害に遭遇したとして、C労基署長に対し労働者災害補償保険法(労災保険法)に基づき療養給付たる療養の給付、療養給付たる療養の費用ならびに休業給付および休業特別支給金の請求をしたところ、同労基署長から、上記の傷害は通勤に起因する負傷とは認められないとして、これらをいずれも不支給とする旨の処分を受けたことから、各処分には違法があると主張し、上記の各処分の取消しを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Xについて>

★ X(1968年生・男性)は、2019年12月1日当時、A社に雇用され、東京都内所在のB店(以下「本件事業場」という)において、調理関係業務に従事していた者である。


<Xの受傷ならびに療養および休業の経過等について>

▼ Xは2019年12月1日午前0時過ぎ頃、本件事業場での勤務を終え、自宅に帰宅するため、職場の最寄り駅から山手線内回り電車(以下「本件電車」という)に乗車した。その後、午前0時40分頃、中年の男性(以下「本件加害者」という)とトラブルになり、ホーム上で喧嘩となった。

★ 上記の鉄道路線は、Xが自宅と本件事業場との間の往復のために一般に用いていた通勤経路であった。

▼ Xは同日未明、病院に搬送されて左脛骨顆間隆起骨折等と診断され、同月13日から2020年2月29日までの間、入通院して関節内骨折観血的手術等の治療を受けた。また、Xは上記の負傷のため2019年12月1日から2020年2月29日まで勤務先を欠勤した。


<本件各請求、本件各処分、本件訴訟に至った経緯等について>

▼ Xは2019年12月1日午前0時頃に本件事業場での就業を終え、帰宅するため本件電車に乗った際、車内で他の乗客に絡んでいた本件加害者を注意したところ、駅に停車中に本件加害者から左足を蹴られたことにより左脛骨顆間隆起骨折(以下「本件傷害」という)の傷害を負ったとして、C労基署長に対し、(1)2020年3月11日に療養給付たる療養の費用を、(2)同月13日に療養給付たる療養の給付を、(3)同年4月6日に療養のため労働できなかった期間を2019年12月13日から2020年2月29日までのうち58日とする休業給付および休業特別支給金を、(4)同年5月25日に療養のため労働できなかった期間を2019年12月1日から同月12日までのうち4日とする休業給付および休業特別支給金をそれぞれ請求した(以下「本件各請求」という)。

▼ これに対し、C労基署長は上記の災害は通勤の中断中に生じたものであり、本件傷害は通勤に起因した負傷とは認められないとして、2020年7月、本件各請求につき、それぞれ不支給とする旨の処分(以下「本件各処分」という)をし、その旨をXに通知した。

ここから先は

2,258字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?