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#519 「アルパイン事件」東京地裁(再々掲)

2020年9月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第519号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【アルパイン(以下、A社)事件・東京地裁判決】(2019年5月21日)

▽ <主な争点>
定年後の再雇用に関する雇用契約関係の存在など

1.事件の概要は?

本件は、A社の従業員であったXが同社に対し、定年前の雇用契約の終了後においても再雇用されたのと同じ職務を内容とする雇用契約関係が存続しており、仮にそうでないとしても、A社がXに対して定年後の再雇用の条件として定年前と異なる職務内容を提示した行為等は違法であると主張して、雇用契約に基づき、勤務部署をサウンド設計部、職務内容を音響機器の設計および開発とする労働条件での雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、主位的には雇用契約に基づき、予備的には不法行為に基づき、平成29年9月16日から10月15日までの賃金等の支払および11月25日から本判決確定の日まで毎月賃金等の支払を求めるとともに、不法行為に基づき、慰謝料300万円等の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<A社およびXについて>

★ A社は、音響機械器具の製造販売等を目的とする会社である。

★ Xは、平成16年10月、A社に雇用され、サウンド設計部に配属されて稼働していた者である。

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<就業規則等の定めについて>

★ A社の就業規則および労使協定中には次の定めがある。

[就業規則]
定年
(ア)社員は、満60歳の誕生日以後初めて迎える3月15日または9月15日をもって定年とする(92条1項)。
(イ)定年再雇用制度の対象者に係る基準については、労使間個別協定第30号の定めるところによる(同条2項)。

[労使間個別協定第30号]
(ア)定義
定年再雇用とは、定年に達した社員が退職以後に継続して契約社員として再雇用されることをいう(1項)。
(イ)対象者
定年退職者にして、再雇用の希望があり、かつ、再雇用後の業務内容、処遇条件等について了承した者とする(3項本文)
(ウ)職務内容
本人の意向を踏まえ、会社は再雇用希望者の知識、技能、ノウハウまたは組織のニーズに応じて、職務および労働条件を設定し、原則として契約開始の6ヵ月前までに本人に提示する。なお、再雇用先にはグループ会社も含むこととし、A社以外で就労する場合の労働条件等は各社の基準による(4項)。

(エ)適用手続
a 手続
会社は、定年退職予定者に対し、原則として定年退職日の1年前までに、再雇用の希望有無等に関する意向調査を行う(5項(1))
b 承認
人材開発会議(2回/年)もしくは相当する会議にて、再雇用者の最終確認・承認を行うものとする(同項(2))。

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<Xが定年退職に至った経緯等について>

▼ A社は高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)9条1項2号に基づき、その雇用する高年齢者の継続雇用制度を実施するため、26年4月、100%子会社である「アルパインビジネスサービス」(人事・総務アウトソーシング事業)との間でA社の雇用する継続雇用希望者をその定年後にアルパインビジネスサービスが引き続き雇用することを約する契約を締結した。

▼ Xは29年5月、満60歳に達した。

▼ A社は同年7月、Xに対し、「契約会社:アルパインビジネスサービス、勤務先会社:A社、勤務部署:人事総務部、契約期間:29年9月16日から30年9月15日まで」等とする定年再雇用の条件を提示した。

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