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#241 「砺波労働基準監督署長事件」大阪地裁

2009年9月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第241号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【砺波労働基準監督署長(以下、T労基署長)事件・大阪地裁判決】(2008年4月30日)

▽ <主な争点>
業務性のない「食事会」に参加した後の帰宅途中の事故は通勤災害にあたるか等

1.事件の概要は?

本件は、Xの死亡が通勤によるものであるとして、Xの母であるYがT労基署長に対し、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という)に基づく遺族給付および葬祭給付の支給を請求したが、通勤災害とは認められないとして、不支給処分を受けたことから、同労基署長に対し、その取り消しを求めたもの。

なお、病院の院長として勤務していたXは職員との食事会に参加した後、勤務先に駐車していた自分の自動車を運転して自宅に向かう途中、負傷し死亡した。

2.前提事実および事件の経過は?

<本件病院およびXについて>

★ 医療法人社団 三医会(以下、S法人)は、高齢者を対象とする病院・診療所および老人保険施設を経営する法人である。同法人は、平成11年4月、T病院(富山県砺波市。以下「本件病院」という)を開設した。

★ X(昭和36年生)は、平成5年5月に医師免許を取得し、大阪府内の病院で医師として勤務した後、11年5月、本件病院の院長として雇用され、以後、同病院で勤務していたものである。

★ 本件病院の職員数は、11年10月当時、61名であり、職員構成は、院長である医師1名、病棟職員48名、外来職員5名、事務職員8名であった。

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<本件食事会およびXの死亡に至る経緯等について>

▼ Xは11年6月、S法人の臨時総会において、同法人の理事および本件病院の管理者に選任された。XとS法人との雇用契約では、Xの職務内容として、同法人の病院運営に関する勤務に服することとされていた。

★ Xは本件病院で勤務していた間、住居(富山市)と同病院との間を、自動車通勤していた。

▼ Xは11年10月29日、午後6時過ぎに本件病院での勤務を終了した後、職員が運転する自動車に同乗して、同病院から割烹店に行き、午後6時30分頃から9時頃まで、他の職員11名との食事会(以下「本件食事会」という)に参加し、飲酒を伴う食事をした。

★ 本件食事会の日時、場所、予算等は、本件病院の看護師らが相談して決定し、看護師1名が幹事になって、場所の予約、各職員への案内文書による参加募集等を行った。なお、同食事会の会費は、各参加者につき6000円であった。

★ 本件食事会の席において、Xはこれまでに携わった仕事に関する話をしたが、他の参加者に対し、本件病院での業務に関して指導等をするようなことはなかった。また、他の参加者がXに対し、業務に関する意見、要望等を伝えるようなこともなかった。

▼ Xは本件食事会の終了後、職員が運転する自動車に同乗して本件病院に戻り、その後、同病院に駐車していた自分の自動車を運転して自宅に向かったが、同日午後10時頃、その途上、富山市内の道路上で、道路工事現場に掘られた穴に自動車ごと転落し、負傷した(以下「本件事故」といい、当日、本件病院から自宅に向かった行為を「本件帰宅行為」という)。

▼ Xは病院に緊急搬送されたが、同日午後10時50分、肋骨骨折による緊急性気胸により死亡した。その後、Xの血中から約0.60mg/mlのアルコールが検出された。

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<Yによる労災保険給付の請求および本件訴訟に至った経緯等について>

▼ 亡きXの母であるYは12年3月、T労基署長に対し、Xの死亡が通勤によるものであるとして、労災保険法による遺族給付および葬祭給付の支給を求めた。

▼ T労基署長は同年9月、本件事故は私的目的で通勤を逸脱・中断した後の災害であるため、通勤災害とは認められないとして、遺族給付および葬祭給付の不支給決定をし(以下「本件処分」という)、Yにその旨を通知した。

▼ Yは同年11月、本件処分を不服として、富山労働者災害補償保険審査官に対し、審査請求をしたが、同審査官は、13年1月、Yの審査請求を棄却する決定をした。

▼ Yは同年3月、上記審査請求棄却決定を不服として、労働保険審査会に対し、再審査請求をしたが、同審査会は、18年10月、Yの再審査請求を棄却する裁決をし、この裁決書謄本がYに送達された。

▼ Yは19年4月、当裁判所に本件訴訟を提起した。

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<労災保険法の通勤に関する規定について>

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