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#345 「日立製作所事件」東京地裁

2013年10月2日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第345号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日立製作所(以下、H社)事件・東京地裁判決】(2011年11月24日)

▽ <主な争点>
無断欠勤を理由とする懲戒解雇、独身寮の居室の鍵交換など

1.事件の概要は?

本件は、H社の従業員であるXが正当な理由なく無断欠勤を継続したことなどを理由とする懲戒解雇が無効であるとして、同社に対し、(1)労働契約上の地位確認、(2)雇用契約に基づく賃金等の支払い、(3)当該懲戒解雇が違法であり、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料等の支払いを求めるとともに、(4)H社が社員寮(Xが同社から賃借していた)の居室の鍵をXに無断で交換してXを同居室から強制的に退去させたことが違法な自力救済に当たり、不法行為に基づく損害賠償請求として、逸失利益(宿泊料)と慰謝料等の支払いを求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<H社およびXについて>

★ H社は、電気機械器具の製造および販売等を目的とする会社である。

★ X(1973年生・中国国籍)は、平成21年12月当時、H社の従業員であった者である。

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<本件解雇、本件鍵交換に至った経緯等について>

▼ XはH社との間で、平成13年10月、契約期間を3ヵ月とする試用者労働契約を締結した後、14年1月、改めて「(1)契約期間・・・期間の定めなし、(2)就業の場所・・・ソフトウェア事業部」などの内容の労働契約を締結した。

▼ Xは上記試用者労働契約を締結するに先立ち、H社の施設する寮(以下「本件独身寮」という)の308号室(以下「本件居室」という)に入寮した。入寮に際し、XはH社に対し、独身寮規則等を誠実に遵守する旨を成約した。

▼ Xは20年12月以降、H社に診断書を提出しないまま、体調不良を理由に6日休んで1日出勤するという勤務形態を継続し、フレックスタイム下でのコアタイムにも遅参を繰り返すなど、勤務態度が劣悪であったため、上長が指導を繰り返したものの、勤務態度は一向に改善されなかった。

▼ Xは21年3月、H社に対し、診断書の提出をしないまま、中国に帰国して少なくとも2ヵ月程度治療に専念したい旨希望した。同社はXの申し出に配慮し、特例として、診断書の提出がないにもかかわらず、「私傷病欠勤扱い」を認めることとし、欠勤の目的、期間等の項目のある欠勤理由書の作成を命じたが、Xは正当な理由なくこれを拒否した。

▼ Xは同月、欠勤理由書を提出せず、本件居室に家財道具一式を残置したまま、中国に帰国した。その際、Xは本件独身寮の管理人に対し、緊急連絡先として兄のAの携帯電話番号を伝えたが、滞在先の住所等は伝えなかった。その後、Xは同年4月から22年3月までの間、欠勤した(以下「本件欠勤」という)。

▼ H社は21年12月29日付懲戒解雇通知書(以下「本件解雇通知書」という)をもって、Xに対し、懲戒解雇の意思表示をし(以下「本件解雇」という)、本件解雇通知書は22年1月4日、中国在住のAの自宅に配達されたものの、受取りを拒否された。

★ 本件解雇通知書には「私傷病により会社を休む手続き実施について度重なる会社からの連絡に応じることなく、再三にわたる懲戒処分を受けたにもかかわらず無断欠勤を続けていることは所員としてあるまじき行為であり甚だ遺憾である。よって、所員就業規則52条1項6号および同規則53条1項14号ならびに同条1項1号ならびに同条1項12号を適用し、本書到達の日をもって懲戒解雇に処する」との記載がある。

▼ H社は22年3月31日、Xに対し、給与振込先口座に振り込む方法によって解雇予告手当30万5242円を支払い、同日付で労働契約終了の手続を取った。

★ Xは21年6月以降、本件居室の寮費を支払っておらず、同月から22年3月までの寮費未納額は34万6017円に上っていた。

▼ H社は22年7月、口頭および本件独身寮退去催告書をもって、Xに対し、同月14日までに本件居室から退去するように催告した。さらに、H社は同月20日、Xが本件居室に家財道具一式を残置しているのもかかわらず、本件居室の鍵を交換した(以下「本件鍵交換」という)。

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<H社の就業規則等の定めについて>

★ H社の所員就業規則には、以下のような定めがある。

(欠勤)
第21条
 略
 所員が私傷病で連続7日以上休むときは、医師の診断書を添えて届け出なければならない。この場合には会社の指定する医師に診断させることがある。

(出勤停止、過怠金または譴責に処する場合)
第52条
 所員が次の各号のいずれかに該当するときは情状によって出勤停止、過怠金または譴責に処する。
(1)正当な理由なく無断欠勤したとき
(2)正当な理由なくしばしば遅刻早退または欠勤したとき
(6)勤休、外出その他に関して手続きや届出を詐りまたは怠ったとき

(懲戒解雇、出勤停止または過怠金に処する場合)
第53条
 所員が次の各号のいずれかに該当するときは懲戒解雇に処する。ただし、情状酌量により出勤停止または過怠金に処することがある。
(1)正当な理由なく無断欠勤連続7日以上に及んだとき
(12)しばしば懲戒、訓戒を受けたにもかかわらず、なお悔悟の見込がないこと
(14)前号各号のいずれかに該当し、その情が重いとき

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