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#175 「KYOWA事件」大分地裁

2007年2月28日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第175号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【KYOWA(以下、K社)事件・大分地裁判決】(2006年6月15日)

▽ <主な争点>
労働災害(急性心不全が疑われる死亡)/安全配慮義務等(損害賠償)

1.事件の概要は?

本件は、K社において清掃等の業務に従事していたXが、急性心不全の疑いにより突然倒れ、病院搬送後、同疾患により死亡したため、Xの妻であったY、Xの子であるAおよびBがK社に対し、損害賠償(逸失利益5987万9958円、慰謝料合計2800万円)を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<K社、XおよびYらについて>

★ K社は、石油精製やガス精製プラント、海水淡水化装置のプラントの一部分を構成する熱交換機の部品の製造加工を行っている会社である。具体的には、大小の円盤状の鉄板に設計図にしたがって穴を開けるのが業務内容となっている。

★ X(昭和50年生)は、平成14年5月からK社の従業員として勤務し、鉄板の凹凸をならす業務を行う面取グループに所属した。同グループの仕事は、鉄板の表面仕上げであるが、面取作業は比較的経験や知識を必要としないので、入社後はまず同グループに配属されることになっていた。

★ 面取作業は、中腰の状態での作業であり、長時間作業すれば腰が痛くなるなどする上、振動が伝わって手のしびれも誘発するものであった、また、工場内に冷房はなく、夏場の作業中は高温による負担もかかるものであった

★ YはXの配偶者、A(平成10年生)はXの養子、そしてB(14年生)はXの長女であり、その法定相続分は、Y2分の1、AおよびB各4分の1である。

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<Xが死亡に至った経緯>

▼ Xは14年6月頃からYに「体が痛いとか時々吐き気がする」と疲れを訴えるようになっていた。

▼ 同年8月、XはK社において夕方、清掃等の業務に従事中、急性心不全(疑)により突然倒れ、病院に搬送されたが、同疾患により死亡した。Xは死亡の前日、作業の予定が捗らず、午前0時頃まで残業しており、死亡した当日も朝から前日の作業を続行し、昼休みにはYに電話して、暑さや疲れを訴えていたが、午後になって炎天下での作業を行っていたところ、倒れたものである。

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<K社の就業規則およびXの勤務状況等について>

★ K社の就業規則によると、「一般の勤務時間は8時から17時まで、休憩時間は1時間15分(12時~13時および15時~15時15分)」と定められ、「休日は日曜、祝日および第2、第4土曜、夏期の3日間、年末年始の6日間、春期連休は相談の上決定」と定められていた。

★ しかし、Xの所属する作業グループにおいては、土曜および祝日はすべて出勤し、さらに日曜日も直前の木曜日頃に休日出勤を命ぜられることが度々あった。また、実際には昼休み以外には定まった休憩はとられていなかった。

★ そして、土曜日および休日出勤の日以外は、20時まで残業するのが常態であり、Xの死亡前1週間の労働時間は約81時間、死亡前1ヵ月間の労働時間は約332時間となっていた。勤務開始から死亡までの間にXが休日を取得した日は合計8日間であり、死亡前の13日間は休日を取得していなかった。

★ Xは死亡当時26歳で、それまで特に大きな病気をしたことはなく、健康診断で異常が認められたこともなく、親族にも心臓に疾患のある者はいなかった。また、喫煙はせず、家でもほとんど酒を飲むことはなかった。

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