#64 「山九事件」東京地裁
2004年11月24日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第64号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【山九(以下、S社)事件・東京地裁判決】(2003年5月23日)
▽ <主な争点>
破廉恥行為による起訴休職処分の効力
1.事件の概要は?
本件は、破廉恥行為により逮捕、勾留されたことによりS社より休職処分を受けたAが就業規則に起訴休職の定めがないことなどを理由に休職処分の効力を争い、休職中の賃金の支払および違法な休職処分を受けたことによる慰謝料の支払いを求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<S社およびAについて>
★ S社は、物流事業、機工事業、建設事業を主な事業内容とする株式会社であり、平成13年3月末現在の従業員数は1万456人である。
▼ Aは、昭和55年4月、いわゆる総合職としてS社に入社した者である。平成12年10月、Aは同社から本社人事部付を命じられるとともに自宅待機命令を受け、就職先を探すように言われたため、この命令の効力を裁判手続で争い、裁判上の和解によって、13年4月よりS社の100%子会社であるX社に在籍出向することになった。X社に出向したAはS社の本社事業所、東京支店等において清掃業務に従事した。
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<Aの逮捕、本件処分に至った経緯等について>
▼ 14年8月1日、Aは「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」違反の被疑事実により警視庁F警察署に逮捕された。
▼ その被疑事実の要旨は、Aが同日朝走行中の電車内において、女性の身体を手で触るなどして、公共の乗り物において、人を著しく羞恥させ、かつ人に不安を覚えさせるような卑猥な行為をしたというものであった。
▼ Aは上記被疑事実により勾留され、同月19日、東京地方裁判所に起訴された。Aの保釈申請により、同月27日保釈が決定し、Aは翌28日身柄拘束を解かれ、S社に保釈された旨を伝えた。
▼ X社はAの勾留決定後、同月28日前の段階で(a)逮捕勾留が長期にわたると推定される、(b)仮に保釈されても同社では多くの女性を雇用しているため、職場秩序を乱すおそれがある、(c)これまでのAの勤務態度が良くない等の理由で、出向継続は困難であるとして、S社に出向解除の申し入れをした。
▼ S社は同年9月1日付でAを同社に復帰させることとしたが、勾留が続くと予想し、暫定的な措置として、本社人事部に配属し、休職処分とすることとした。
▼ 同年8月29日、S社はAに対し、X社に対する出向を解き、同社の本社人事部所属とするとともに「刑事事件による起訴により業務に従事させることが適当でない」との事由で無給の休職処分とする旨の通知をした(以下「本件処分」という)。
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<S社の就業規則の定めについて>
★ S社の就業規則等には以下のような定めがある。
第12条
社員が次の各号の一に該当したときは休職を命ずる。
5.前各号のほか、特別の事由があって休職させることを適当と認めたとき
第13条
休職期間は次の通りとする。
2.前条第一項第二号ないし第五項の場合は、会社が必要と認めた期間
[社員賃金規程 第15条一項]
次の各号の一に該当する不就労があるときは、所定労働日数一日につき本給の月間基礎日数分の一を控除する。
3.休職
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<Aの懲戒解雇等について>
▼ S社の人事部担当者は同年9月、Aに対し、配属先を決定するため保釈条件を知る必要があるとして、保釈許可決定の写しの提出を求めたが、Aは提出は義務ではないと言われたことから「現住所から移転するときは許可が要るとの条件が付されている」等と告げ、同文書そのものの提出には応じなかった。
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