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#256 「日東電工事件」東京地裁

2010年3月31日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第256号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【日東電工(以下、N社)事件・東京地裁判決】(2009年4月20日)

▽ <主な争点>
出向時に従前の年俸水準を保障する合意の有無等

1.事件の概要は?

本件は、XおよびYが系列外の会社に出向するに際し、N社から前年度(平成12年度)年俸(賞与を含む)の水準を保障する旨の合意があったなどと主張して、同社に対し、雇用契約に基づく差額賃金請求(主位的)または不法行為に基づく損害賠償請求(予備的)として、平成12年から20年までの各未払賞与等(Xは合計1199万5000円、Yは合計2531万9200円)の支払いをそれぞれ求めたもの。

なお、N社が平成11年より導入した年俸制では、参事(管理職)の賃金が「基本年俸」と「加算年俸」で構成され、「基本年俸」は等級に応じて決定されるのに対し、「加算年俸」は等級に関わらず個人の業務計画の難易度と達成度等により年度ごとに決定される。

2.前提事実および事件の経過は?

<N社、XおよびYについて>

★ N社は、電気絶縁材料および電気機器用品、化学工業製品、医薬品等の各製品等の製造、加工ならびに販売等を目的とし、大阪に本店を置くほか、東京、名古屋、福岡に支店を置く、国内従業員約45000名(平成20年3月末日現在)の会社である。

★ X(昭和24年生)は、昭和47年4月、N社と雇用契約を締結し、平成13年3月から20年3月までM社に出向した後、同年4月からはU社に出向して、同社特販営業部部長として勤務している。

★ Y(昭和23年生)は、昭和48年9月、N社と雇用契約を締結し、平成13年4月、T社に出向し、その後、H社、A社、W社に順次出向して、同社においてセキュリティー事業部部長として勤務していたが、20年8月、定年退職した。

★ 上記の各出向の際に、XおよびYとN社、各出向先との間で交わされた覚書には、賃金等についてN社の規定に基づき同社が負担して同社が支給する旨定められているが、12年度の年俸水準(加算年俸を含む)を維持する旨の記載はない。

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<N社における年俸制等について>

★ N社では、平成11年4月より現行の人事制度を導入した。この中で、同年7月より参事(管理職)を対象とする年俸制を実施した。この年俸制では、参事(管理職)の賃金が「基本年俸」と「加算年俸」の2つで構成されている。

★ 「基本年俸」は、その人の等級(たとえば、参事2級など)に応じて決定される。これに対し、「加算年俸」は等級に関わらず、個人の業務計画の難易度と達成度等により年度ごとに決定される。

★ 当該年度(当年7月から翌年6月)の当年7月に基本年俸が決定されるとともに、参事各人の仮加算年俸が設定され、当年度の各人の業績貢献度等(7段階で評価される)とN社の業績が確定した年度終了時の翌年6月に確定加算年俸が決定される。

★ 基本年俸の13分の1が月例給与(月俸)として支給され、加算年俸に基本年俸の13分の1(残1ヵ月分)を加えたものが賞与として年2回(当年12月、翌年6月)支給される。

★ Xらは平成12年以降、年俸制における職位としては、いずれも参事2級である。

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<Xらの年俸額の推移、本件提訴に至った経緯等について>

★ Xの12年度の年収は、合計1363万6000円(月俸69万5000円、賞与各264万8000円)であった。XがN社から支給された月俸額(基本年俸の13分の1)は、12年7月以降69万5000円であったが、13年9月から14年3月までの間(M社に出向中)66万1000円となり、同年4月以降再び69万5000円となった。

★ Yの12年度の年収は、合計1461万6000円(月俸70万6000円、賞与328万1000円および286万3000円)であった。YがN社から支給された月俸額は、12年7月以降70万6000円であったが、13年9月から14年3月までの間(T社に出向中)67万2000円となり、同年4月以降、懲戒処分を受けた同年7月を除き、再び70万6000円となった。

★ 13年12月賞与(同年度上半期)は、N社の業績の悪化に伴い、Xについては全参事の平均値(前回賞与の約75%)、Yについては出向前所属部門所属の全参事の平均値(前回賞与の約50.8%)とした。

★ 14年6月賞与(13年度下半期)は、N社では部門業績と関連する賞与を導入したが、系列外会社への出向者については、N社の部門業績への貢献を考えることができないことから、Xについては最下位レベルの部門の業績と関連する基準による金額とする一方、Yについては最下位レベルの部門の業績と関連する基準によったほか、出向先での勤務状況等を踏まえた金額とした。

★ 14年12月以降の賞与は、系列外会社への出向者については、N社の部門業績を反映させるという考えを適用すること自体に無理があるほか、15年以降に実施される昇格・降格制度による不利益を回避することを考慮し、N社の大幅な業績悪化が起こらないかぎり、「前回賞与と同額とする」との基準を適用した。

▼ Xは13年12月以降、賞与が支給されるたびにN社に連絡し、出向時の約束に反し、賞与が減額されている旨抗議し、人事担当者と面談することもあった。

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