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#447 「甲化工事件」東京地裁(再掲)

2017年10月18日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第447号で取り上げた労働判例を紹介します。

■ 【甲化工(以下、甲社)事件・東京地裁判決】(2016年2月5日)

▽ <主な争点>
遺失金着服を理由とする懲戒解雇処分など

1.事件の概要は?

本件の第1事件は、甲社と雇用契約(本件契約)を締結したXが同社において遺失金(本件遺失金)が発生したところ、本件遺失金を着服し、私的に費消したことを理由に懲戒解雇処分(本件処分)を受け、平成26年9月1日をもって甲社を解雇されたが、本件処分は無効である旨を主張して、同社に対し、本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、給与および賞与等の支払を求めたもの。

第2事件は、Xが本件遺失金を着服し、私的に費消した旨、また、上記本件遺失金が発生したのはXによる営業所の現金の管理等に過失があったからである旨を甲社が主張して、Xに対し、不法行為に基づき、24年3月30日から26年6月24日までの本件遺失金相当額および弁護士費用等の支払を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<甲社およびXについて>

★ 甲社は、塗料および工業薬品の製造、販売等を業とする会社である。

★ Xは、平成9年9月、甲社と雇用契約を締結し、東京営業所(以下「本件営業所」という)において経理事務に従事していた者である。

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<本件遺失金の発生、本件処分に至った経緯等について>

▼ 甲社において、26年6月18日、同日の時点で本件営業所の現金元帳の残高と現金の有り高とに300万円以上の乖離があることが発覚した。

▼ 同月24日、甲社のA取締役および本件営業所のB所長はXからヒアリング(以下「本件ヒアリング」という)を行った。その際、同日の時点での本件営業所の現金元帳の残高と現金有り高との差額が415万4714円であることが判明した。

★ 上記差額に関し、本件営業所の現金元帳の24年3月30日時点での残高をゼロとして計算すると、同日から26年6月24日までの間に311万7464円の遺失金が発生したこととなり、本件遺失金の額は少なくとも同額であることとなる。

▼ 甲社はXが同社の金員を横領したものと考え、退職届(以下「本件退職届」という)を準備した上、Xに対し、本件ヒアリングにおいて、本件退職届に署名および押印をするよう要求したところ、Xは本件退職届に署名押印をして甲社に提出した。

▼ 同月26日、Xは代理人を通じ、本件退職届による退職の意思表示は錯誤により無効である旨、上記意思表示は甲社の強迫によるものであるから取り消す旨等を申し入れた。

▼ 甲社は同年7月7日付の回答書によって、事実を究明した後にXに対する処分を決定することにしたので、本件退職届の撤回を認める旨、調査が終了するまでの間自宅待機を命じる旨等を回答した。

▼ 甲社はXに対し、同年9月1日付の懲戒解雇通知書によって、23年4月1日以降26年6月24日までの間に複数回にわたって本件営業所の預金口座または金庫から現金を抜き取る方法によって合計311万7464円を着服し、私的に費消したことを理由にXを懲戒解雇にする旨を連絡し、本件処分を行った。

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<甲社の就業規則の定め等について>

★ 甲社の就業規則(以下「本件就業規則」という)には、要旨以下の内容の規定がある。

(1)甲社の従業員は同社の所有に属する一切の金品を私用に供さないことを守らなければならない。
(2)甲社の従業員は職務上の権限を越え、または、それを濫用して専断的な行為をしてはならない。
(3)甲社の従業員は同社における職務上の地位を利用して、自己の利益を図ってはならない。
(4)甲社の従業員が、身上または勤務に関して同社を欺き、または所定の手続を怠ったとき、または本件就業規則その他の規定により一般に遵守すべき事項ならびに禁止事項に違反し、甲社が処分の必要を認めたときは当該従業員をけん責する。
(5)甲社の従業員が上記(4)の行為を再度行い、または当該行為の情状が重いときには当該従業員を減給、出勤停止または降職に処する。
(6)甲社の従業員が上記(5)の行為を数度行い、または、当該行為の情状が重いとき、または、その他これらの場合に準ずるようなときには当該従業員を諭旨解雇または懲戒解雇とする。

★ 甲社の給与規程(以下「本件給与規程」という)には、要旨以下の内容の規定がある。

(1)賞与は利益の分配を本旨とし、甲社の業績を勘案の上、7月10日と12月10日に支給する。しかしながら。同社の業績が思わしくないときは賞与を支給しないこともある。
(2)賞与の支給対象者は甲社の正社員、契約社員で賞与の支給日に同社に在籍している者とする。

★ 本件営業所には大型の金庫(鍵とダイヤル式の暗証番号とで施錠)が設置され、その中には手提げ金庫(鍵で施錠)が保管されていたところ、24年3月30日頃から26年6月24日までの間、本件営業所の現金および預金通帳は手提げ金庫に保管されていた。

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