楠栞桜とec、虚構対現実

はじめに

先日ネットニュース記事にもなったnoteの不具合によるipアドレス流出騒動、それによって個人勢Vtuber楠栞桜のipアドレスがある掲示板に他者への誹謗中傷・自作自演的内容を書き込んだ者のipアドレスと一致したという噂が広がった。
その出来事から楠栞桜の過去の行いについてまで様々に疑惑が広がっているのが現状である。その広がりはかつてのアイドル部騒動にまで遡り、当時の各人の事情を推測させるまでに至り炎上状態にある。
本文では登場人物・用語や時系列での出来事の整理を行い、この騒動についての所感に触れていく。概要を既にご存じの方は登場人物・用語や出来事の整理については読み飛ばす事をおすすめする。
本人による明言が行われたわけではないが、便宜上本記事においては夜桜たま=楠栞桜であるという仮説の下で話を進めていく。

登場人物・用語

出来事の整理の前にまず簡単に登場人物・用語について簡単に触れる
ipアドレス:ネットをする者なら一度は通る言葉。ネットワーク上の住所を意味する。ただしipアドレスだけでは個人の断定とはならない点に留意したい。これはipアドレスの最小単位は市区町村単位と言われている事に由来する。
ワッチョイ:5ch掲示板に書き込まれる際に自動生成される名前のようなもので本来は自作自演を看破しやすくする為の機能。定期的なリセットが行われるがipアドレス(使用回線)が変わっていない場合、3桁目と4桁目が変わらない事から人物を紐づける一要素になっている。ただし、この3桁目と4桁目は絶対に重複しないと断定できるものではない。
ec:アイドル部アンチスレに書き込みを行っていた人物でワッチョイの中でも変化しにくい3桁目~4桁目がecだった事から通称ecと呼称された人物。当該スレでは2020年5月よりワッチョイの表示に加えてipアドレスの表示も行われるようになりipアドレス表示以前のecを便宜上【ec-α】と呼称、表示以降のあるipアドレス(便宜上【ipアドレス-a】と呼称)で書き込みしていた者を便宜上【ec-β】と呼称する。重複の可能性からその全てが同一人物と断定はできないが、書き込み内容から同一人物との見方が強い。
76:アイドル部アンチスレに書き込みを行っていた人物でecの呼称と似た経緯でワッチョイの3桁目、4桁目が76だった事から通称76と呼称された人物。ecと同一人物ではないかとの疑惑を持たれているが、断定するには至っていない。

出来事の整理

・2019年10月末までの76による書き込み
・2019年12月から2020年4月末までのec-αによる書き込み
・2020年5月以降のec-βによる書き込み
・2020年7月31日楠栞桜がnoteにて「現在お騒がせしている動画、情報について。」を投稿
・2020年8月14日noteの不具合によって投稿者のipアドレスが第三者から確認できる状態だった事が発覚、第三者によって楠栞桜のnote投稿者ipがec-βと一致したとの掲示板投稿が行われ、噂として一気に波及する
・2020年8月14日noteの公式アカウントより投稿者のipアドレスが第三者から確認できる不具合について発表
・2020年8月14日楠栞桜がnoteにて「お世話になっております。」を投稿

ipの流出によって虚構が現実に

8月14日のnoteのip流出問題によってこの問題は一気に表面化したが、それまでは疑惑としてネットの一部に囁かれていたに過ぎない。ましてその出所はアンチスレという特有の空気を持つ場所であり、多くの人は認識しない虚構のような存在だった。
ecや76の具体的な書き込み内容についてはより詳しく情報を記載している媒体が存在するので本記事においては要点のみ記載するが、
①本人でなければ不可能あるいは限りなく困難と考えられる内容
②共演した他のVtuber等に対する誹謗中傷的内容
③配信等の表では出されていない情報漏洩に該当しうる内容
上記が含まれていたと考えていただきたい。これは登場人物に挙げた76、ec-α、ec-βすべてに共通する特徴である。
上記特徴から以前より76やecの書き込みは楠栞桜による自演の疑いが持たれていた。というより証拠が無いだけで99%そうであろうと76やecの活動を知る者からは考えられていた。状況を考えれば本人以外である可能性を考える方が難しい。逆に本人でなければ本人やその周辺人物にとても詳しく、本人の端末画面をリアルタイムで共有しているかのような速度で情報を入手できる第三者が存在する事になり、この方が実は余程深刻な問題である。長らくその平行線状態だったこの疑惑はipの流出によって一気にTwitter上といった見えやすい場所に表出し、一度表に出て来てからはそのセンセーショナルな内容はあっという間に広がりニュース記事やまとめサイト記事といった所にも出る存在となった。
スキャンダルとは起きた瞬間ではなく認識された瞬間に騒ぎになるものであるように、虚構の疑惑が現実の疑惑になった瞬間である。

伝言ゲームの恐ろしさ

私自身この噂が広がるのをリアルタイムで目にしたが、騒ぎになりだしてすぐにnoteがメンテナンスに入り当該不具合を修正したので実際にipを確認したというスクリーンショット、動画が非常に少なかった(少ないだけで存在はしている)にも関わらず、「楠栞桜のipが過去に5chで行われた問題のある書き込みをしていた人物のipと一致した」という話だけは奇妙な程伝言ゲーム的に広がっていた。また、本件においてはデマの可能性やエビデンス捏造の可能性が主張されなかったので意味は薄いが、ソース表示をスクリーンショットしたものはエビデンスとしては容易に捏造できるという点だけは留意したい。

画像1

画像2

上記のようにソース表示画面でデベロッパーツールを用いて入力を行う事でソース上の見た目を変える事は容易である。但しこれは自分が見ているソースを変えているだけなのでこのデベロッパーツールで見えてるソースを書き換えたところでnote本体に直接適用させるような事はできない。繰り返しになるがこれは楠栞桜の使用ipとして挙がったスクリーンショットが捏造されたと断定できるものではない


(追記1)加えて、本件において楠栞桜のnoteで表示されたipがec-βと一致した話自体がデマである可能性を否定できる要素として、noteのメンテに入るまでに不特定多数が確認できる状態でエビデンスは無いが自分も確認できたという証言は複数あれど自分の表示ではec-βのipは出ていないという反論は出なかったという点がある。
(追記2)別の見方として、技術的にかなり現実味が無いがec-βの方がipアドレス-aを装った可能性も考えられる。noteでipが表示された不具合が'騒ぎになった'のは14日だがこの不具合が何時からあったものかは不明である。ec-βとして確認できるのは2020年5月以降、楠栞桜がnoteを開設したのは2019年12月の話である。もしこの時からnoteでipが表示される不具合があったのであればec-βとして活動する前にipアドレス-aを知る事は可能だったと考えられる。ただし、仮にec-βがipアドレス-aを偽装していたとしても楠栞桜本人しか知りえない内容を書き込む事は出来ない為、可能となるのは名指しで攻撃するといった少ない情報で行われる誹謗中傷といった内容には限定される。この可能性を加味してもec-βが全て同一人物とは限らないと提言できるだけに留まり、楠栞桜が書き込んだ可能性を否定できるには至らない。

ipの一致は疑惑をさらに確固たるものにする効果はあったが、それ以上に伝言ワードとしての効果が大きかった。
この伝言ゲームの恐ろしさはデマが広がる時にも似たような現象が見られる事にある。重要なのはその時々の情報をしっかりと見極める必要があるという事だ。

透明なようで不透明な楠栞桜の主張

楠栞桜がnote上で行った主張ははっきりと意志を表示しているが対象となる情報については非常に不透明な記述が行われている。
まずは7月31日の投稿における「一切事実とは異なる情報が一部出回っている」という部分。楠栞桜について語られる言葉・情報は様々なものがあり、否定する対象が明確化されない事にはなんとでも捉えられる。これがec=楠栞桜疑惑について指していると考えられるのもあくまで状況的にそうだろうと考えられるだけなのである。
また、8月14日に行われた投稿における「私が皆様を裏切るような書き込みをしたという事実はありません」のという部分。これも抽象的な記述でそもそも裏切るとは何を指すのかによってはどうにでも解釈ができてしまう。何故「私が他者を誹謗中傷するような書き込みをしたという事実はありません」や「私が情報漏洩にあたる書き込みをしたという事実はありません」ではなく「私が皆様を裏切るような書き込みをしたという事実はありません」という抽象的な言い方をしたのか。仮に上記のような書き方をしても具体的にどの掲示板にどのような書き込みをしたかまでは触れずに済む。書き込みの中で特に問題視されているのは他者への誹謗中傷と情報漏洩の部分であり、少なくともその部分は明確に否定すべき点であると考える。

(追記3)8月17日の放送では「他のVtuberさんの個人情報を流出させたような、または他のVtuberさんを傷つけるような誹謗中傷と捉えられるような書き込みをしたという事実はありません」と発言している。


具体的な言及を避けて中途半端な情報の出し方をするのはかえって邪推を呼んでしまい場合によっては騒ぎを拡大しうる要素になるというのは歴史に見れば明確であり、冒頭に挙げた仮説に基づけば楠栞桜はよくそれを知っているはずである。
この事から既に騒がれているec=楠栞桜説を否定する材料として楠栞桜自身の主張は非常に弱い。現状では示せる根拠はないが信じて欲しいと言っているのと同義である。

再評価されるアイドル部騒動

アイドル部騒動についての概要・所感については以前に記事を書いているので詳細を追いたい場合はこちらも併せて読んでいただきたい。
(私の未熟さ故文章量が非常に多いのが申し訳ない)

この時に夜桜たまに言及したと思われる記述や発言から浮かび上がっていた「虚偽や誇張を行い、メンバーの不安を煽ったり情報漏洩といった問題行動を起こしており、それが今回の騒動の遠因となっている」とされていた部分が、表に出ていた情報の中では明らかにされていなかったec=楠栞桜=夜桜たまであるという認識を持っていてのものだったとすれば何故あれだけ夜桜たまを糾弾する内容であったかも説明はできる。
10月7日に行われた配信は夜桜たま自身が発言した通り身勝手な理由でありその配信によってファンの不安を煽る結果になったのは事実だったが、同情的に見られていたのは夜桜たまは演者と運営とのトラブルの示唆という形で裏側を出す一方でecに関連するような発言は一切見せていなかった事と、その前のモンペ騒動から運営にヘイトが向きやすい状況が出来ていた事にある。そういう意味では巧みにポジショントークをしていたという推測は今回の一件から再発掘された一面と言えるだろう。

世の中は白黒だけのオセロゲームではない

一方で今回の一件を受けて全ての問題要素が夜桜たま側にあったという極端な反転を見せるファンの存在も見受けられた。
ここまでの流れからこれは夜桜たまが潔白では無かった可能性はかなり高い。しかし、危険なのはこういった片一方が問題でありもう片方には問題が無かったという思想である。こういった発想に捉われると今回のような新たに認識された事象が出た時に一気に印象が反転して問題のあった方を入れ替えるという安易な結論を出しがちになってしまう。
当時にマネージャ部として設立されたアカウントが運営企業の態度とは言えないふざけたものであった事や、契約解除した二人はともかく一切運営から言及の無い木曽あずきに触れるコメントすらモデレータによる削除行為を行った事、ばあちゃるは年内謹慎と発表しつつ新年に放送ではなく編集済みの動画投稿(つまり収録は謹慎期間内に行っていた事になる)をして年内謹慎すら実体を伴わなかった事など当時のアップランドの対応はお世辞にも問題が無かったとは考えにくい。情報漏洩に比べれば軽度な問題であるという見方もできるが問題の有無で言えば有なのだ。比べたら軽いので無しにはならないのである。夜桜たま憎さのあまりにそういった部分まで都合よく塗り替えてしまうのは危険な兆候だろう。
白が黒になっても反対側の黒が白に変わる程世の中は単純ではない。少なくとも「アイドル部を崩壊させたのは夜桜たま」という到底同意しかねる主張も見られた。まず前提として「12人の仲良しアイドル部」というイメージは最初から虚構で作られているという点を理解する必要がある。これはアイドル部が特異なわけではなく、アイドル業と呼ばれるものでは大なり小なりどこにでもあり得る話である。実の所この10月7日の騒動開始時点でこのアイドル部のイメージに対してどうするかは下記の2択の状況だったと考えられる。
嘘を用いてでも12人の仲良しアイドル部のイメージを守る
12人の仲良しアイドル部のイメージを崩してでも事実を伝える
概ねではあるが前者の行動を取ったのが夜桜たま、後者の行動を取ったのが花京院ちえりである。夜桜たまの配信はメンバーやファンに不安を煽るものではあったが同時に自身の身勝手でありメンバーに対する対立的な意思はない旨を発言していた。更に言えばこの時夜桜たまが言及していたのは運営との不和だけであり、内情どうあれ表面的に出た言葉だけが解釈されれば運営対演者の構図になるはずだった可能性が高い。(勿論それはそれで問題がある)
それを演者対演者の構造に変えてしまったのは他ならぬ花京院ちえりの配信が皮切りである。そして多くのファンはこのメンバーの対立によって「12人の仲良しアイドル部」というイメージを壊された事に耐えられなかった。登録者の激減や、アイドル部のMMDを用いた作品の作者による削除、その後の荒れた配信コメントは10月ではなく12月に一気に出たのを見れば契約解除からアイドル部のnoteが決め手だったのは想像に難しくない。
一方でイメージを守っていれば平穏に事が済んだのかと言えばそれも難しかっただろう。まして我儘に端を発した出来事であり合理的に解決するのは非現実的である。事実上運営が一手に批判を買う形にするか、実際に起きた出来事のようになったかのどちらかは避けられなかったと考える。勿論そういう意味では夜桜たまには大いに非があるが、黙殺すれば以降に何も問題が起きなかったのかは今となっては誰にもわからない。
花京院ちえり自身も騒動後の配信にて「言えることが限定された中で出来るだけ事実を伝えようとしてやった事だけど、それが多くの人に望まれていなかったというのはよく分かった」と語った。
一つ目は花京院ちえりは多くのファンが望むものを読み違えた。二つ目は特にカルロ・ピノの配信に顕著だったが情報漏洩(おそらくecによる書き込み内容を指していると思われる)というほとんどのファンが知らない、もしくは誤認した情報を持ち出すという藪蛇になる発言をしてしまった。三つ目は夜桜たまと猫乃木もちの契約解除発表の後であり事実上相手が反論が出来ない状況で複数人から非難する内容の配信・note投稿が行われた為に傍目には追い打ちに見える状況だった。四つ目は元々運営に対するファンの不信感が強まっていた事で運営の発表は悪い方向に解釈される状況だった。
これらの状況が重なりに重なった結果、水面下の認識はどうあれ表面上には「運営との不和を訴えたら仲間と思っていたメンバーは運営側について後ろから刺された」という風潮が一定の支持を持たれた理由と考える。
この経緯を見ていたから私はアイドル部騒動は誰かだけが悪いわけじゃなく皆が失敗したという見解を貫いてきた。今でもこれは変わっていない。
ec=楠栞桜=夜桜たまという仮定から新たに足せるエッセンスがあるとしたら、夜桜たまは表で言う事と裏で言う事を巧みに使い分けるのが上手かったという点だろう。

楠栞桜の今後は誰が決めるのか

楠栞桜はTwitterにて本騒動の影響から8月17日までの予定していた配信をキャンセルし、17日から改めて活動を再開する旨を発言している。
ec=楠栞桜説については否定材料は不足している状況であり現状のままでは疑惑が濃い状態で活動する事になるのは避けられない。あるいは配信者間や対企業間においてはTwitterで表向きに説明している事情とは異なる説明をしているのかもしれない。
少なくとも対ファンについてはしばらくマイナスのイメージは付きまとうだろう。しかし、楠栞桜本人は変わらず活動を続ける事が自分にできる事だと発言している。
後は各人がどう捉え、どう向き合うかである。
今後企業案件が無くなるかどうかは企業が判断する事だし、今後彼女とコラボするVtuberが居なくなるかどうかは相手が個々に判断する事である。ファン個人が出来る事は推し続けるか推すのを辞めるのか、あるいは見続けるか見るのを辞める事だけである。
今回の件を受けて楠栞桜に失望し去る人が出る事は仕方ないし当然の結果と思っている。私個人は元々人の言う事を鵜呑みにできないような捻くれた人間なので楠栞桜の発言も大して信用はしていない。それでも見続ける事だけは辞めないつもりである。何より変わらず活動を続けるという楠栞桜の姿勢はアイドル部騒動の時に残ったメンバーが掲げた応援してくれる人がいる限りは活動を続けたいという姿勢と同じものである。今の楠栞桜の考え方を否定する事は転じてここまで活動を続けたアイドル部の考え方を否定する事にも繋がるのではないだろうか。蓋してハイ終わりで済ませるのかと当時はかなり言われていたと思う。だが、以降にこの件に触れる事なく現在ではようやく減少が続いていた登録者も回復の兆しが見え、対外のコラボも増えている。運営についてもアイドル部騒動以降は多少の小火はあれど今の所目立った問題も起きておらず、長い嵐に耐えた事で蓋を開けずとも進めるだけになったのは素直に喜ばしい事だろう。このまま第二の悲劇が起きなければそれが一番良い結果である。
否が応でも楠栞桜もまた再評価されることになるが今後を決めるのは本人に他ならない。続けると言ったがすぐにまた辞めるかもしれないし、続けて立ち直るかもしれない。一つ確かなのは発言一つを鵜呑みにしてはいけないという事である。

終わりに

他のnote記事でも同じような締めくくりをしているが目に見えているものだけが全てではない。しかし、人というのはどうしても見えたものから判断をしてしまう。これは私自身にも言える。
だが見えたものが全てではないという認識を持って見なおす事で、一回目では見えなかったものが二回目では見えるかもしれない。
この件で気持ちが煮えくり返った人には、今一度冷静にこの一件を見直してもらえれば幸いである。