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楽しいとしんどいが表裏一体すぎる

この記事は、フィールドワーカーの記録 Advent Calendar 2023の10日目の記事です。


ご挨拶

こんにちは。比文3年のyamatoと申します。
フィールド文化領域文化人類学コースで、民俗学を中心に学んでいます。
今回は今までに行ったフィールドワークを振り返ってみます。
長野県小布施町(2023年1月26日~29日)、卒論のフィールドにしている福岡県北九州市(2023年7月21日~23日)の二か所についてです。
別のアドカレで北九州については少し触れています。読むと分かりやすいかも。

長野県小布施町

秋ABC学期開講の民俗学実習で行ったものです。日帰りでのフィールドワークは何度か経験しましたが、複数日に跨るものはこれが初めてでした。
結論から言えば、正直調査としての成果はほぼなかったと思っています。今でこそいい経験ができたと本心から言えますが、帰宅後しばらくは後悔の念に苦しみました。こうならないように、この章だけでも読んでほしい。

準備不足

祭礼行事に関心があるので、実習でもそういうことをやるつもりでした。皇大神社(長野県神社庁より)で毎年1月15日に行われる例祭の「火渡の神事」が面白そうだなと思って事前調査などやってました。
しかし、神事は実習開始よりも前。祭りを期間中に見ることはできません。そこで先生が「予定の合う人は一緒に見に行きましょう」と提案してくださいました。(ほかにも祭りをターゲットにしようとした人が何人かいたんですが、私は特に行動をともにすることもなく、一人で調査にあたっていました)
そんな好機だったのに、私は行きませんでした。バイトを優先したからです。これは本当にもったいないことで、未だに悔いています。
祭りに限った話ではありませんが、イベントを調査するときには、できる限り対象を実際に見るべきだと思います。写真や動画が撮れるのはもちろんのことですが、そのイベントの「空気」を自分の肌で感じることができるからです。
写真や動画は、チラシや運営組織のHP、SNSなどでもある程度見ることができます。沿革はある程度歴史のあるイベントであれば本に記録されていたり、インターネットで調べれば(正確性はともかく)見つかることも多いです。でも、その行事の最中の、観客や担い手の間に流れる「空気」をつかむには、動画であっても、時間が足りないと私は思います。同じ一つの祭りでも、ずっと同じ「空気」が続くとは限りません。観客が楽しそうに担い手に声をかけ担い手もそのヤジに返事をする場面があったかと思えば、一転して誰も口を開かないで、どことなく張りつめた緊張感が漂う、空気の移り変わりも含めて行事です。「空気」がどのようになっていて、いつ、どのように変化するのか、こういうことをまず自分自身の肌で感じることができるのも、フィールドワークの醍醐味だと思います。
要は、私は資料を得る最大の機会をドブに捨てたわけです。

その後ですが、行けばなんとかなるだろうと思い、自分ではアポも取りませんでした。計画もそれほど詰めないまま生まれて初めての実習に向かい、案の定誰に話を聞けばいいのか、どこに行けばいいのか何もわからず、初日で詰みました。周りは事前にアポを取った話者さんたちのもとに、目的地に向かっていく予定があるのに、私にはありませんでした。あてもなく雪の積もった小布施を歩きました。雪の少ない町で育った私は雨用の長靴しかなく、末端性冷え性のひどさも相まって、1時間も歩けば感覚が消えて立ち尽くしました。

前方後円墳になっている私。こんなに雪見るの初めてでした
つらら。おいしかったです

私は自分からは何も言えませんでしたが、先生やTAの先輩は勘づいていたのかもしれません。別の受講者の調査に同行するよう勧めてくださいました。祭礼行事に関心があると大口をたたきながら、食文化の調査をする先輩に同行させていただき、おやきとやしょうまを作りました。おいしかったです。

やしょうま
おやき

結局

同期とスーパーへ買い物に行こうとした途中、明るく洒落た雰囲気のパン屋を見つけました。
入ってみようよ!と言う同期に連れられて入ると、レジに立っていた店主のおばあさまが話好きな方で、「どこから来たの?」「実習で、茨城からきたんです」などと話すと、そのパン屋の歴史やいろいろなことを話してくださいました。

看板

小布施には、キリスト教のカナダ聖公会との交流物語がありました。カナダ聖公会の信者の方々が熱心な募金活動を行い、1920年代の日本で猛威を奮っていた肺結核の診療所を小布施に建ててくださったのだそうです。その診療所に着任した若いカナダからの看護師と、私たちが偶然入店したパン屋の先代が、パンを通じて交流したストーリーが伝わっていました。絵本にもなっています。こちらにクラウドファンディングの記事がありますのでご参考までに。 

夜の報告会でそのことを話すと、先生や先輩に「テーマをそのパン屋さんにしてはどうか」「〇〇さん(お話してくれたおばあさま)のライフヒストリーを中心にまとめられそうだね」「パンを通した国際交流でもいいね」といった反応をされ、じゃあこれで調査するかあ、ということに。
ただ、当然実習前の準備がない状態だったため、調べればわかることを聞いて「知らないの?」と言われたり、そもそもの関心とは少し離れているため、問いが思い浮かばなかったり・・・。苦しかったです。なんとか書籍を複数集めて報告レポートを書きましたが、ライフストーリーで書くことのなんと難しいことか。どこまで情報を出すかの塩梅も難しいし、単なる事実の羅列にしかならないし。

そういえば、上述の同期はコミュ力と行動力のすごい子で、この回の実習はほぼ彼女に助けてもらいました。別のタイミングで串焼き屋に二人で行ったときには、隣のテーブルに座っていたご夫婦と仲良くなって夕飯と日本酒をご馳走になりました。ほぼ彼女の功績です。

いただいたときの写真
ごちそうになった日本酒

初めての実習はこう・・・良く言えば学びの多いものになりました。猛省したことは言うまでもない。先生は「実習先でテーマが変わってもいいよ」とおっしゃいますし、実際それ自体は悪いことではないと思うんです。偶然の出会いでもっと興味の惹かれるテーマが見つかることは珍しくないですので。でも、フィールドワークに慣れてない人はきちんと準備して、できればテーマは変わらないようにしたほうが精神衛生にもいいと思います。「レポート書けるかずっと不安だったな」で実習の記憶が塗りつぶされるのは避けるべきです。苦しむべき部分はもっと別のところにあるはずです。

福岡県北九州市

春ABC学期開講の文化人類学実習として行きました。本来はみんなで大船渡に行くはずだったんですが、日程を見たら研究対象の戸畑祇園大山笠行事とモロ被りでした(すでに同じ轍を踏もうとしている)。先生に「すみません・・・祭り年一回だし・・・来年雨で中止になったりして卒論書けなくなったら怖いので・・・」などと相談すると「ぜひ行っておいで」とのことで、一人北九州へ帰ってきました。ありがたい。

戸畑祇園大山笠行事は、北九州ではトップクラスの規模と歴史を誇る祇園祭です。博多祇園と並んでユネスコ無形文化遺産に登録されています。
4基の山笠(神輿のようなものです)と、中学生男子が担ぐ4基の小若山笠が練り歩き、競演会をします。昼間は山笠本来の姿である「幟山笠」ですが、夜には幟をおろして提灯を載せかえて、提灯合計309個、高さ約10m、重さ約2.5tの提灯大山笠になるのを売りにしています。

前回のコピペ

詳しくはwikipediaなどをご参照ください(大の字)。
じつはこのとき、戸畑祇園大山笠行事で卒論を書くことは決まっていたものの、何に注目するかは決めていませんでした。興味の根源は「山笠の中には誰が乗っているのかな」だったので、漠然と「山笠というモノをメインにやりたい」みたいなことを言っていた気がします。ただ、卒業論文基礎演習や教授たちとの面談では、「もっと独自の問いを立てられるといいですね」「山笠というモノに注目するのも面白いけれど、人に注目するのもよいと思いますよ」「4年ぶりの開催なら、コロナ禍のこともあわせて考えるといいかもしれませんね」と言われていて、どうしようかなあと考えていました。
ここが決まらないと。コテンパンの実習経験も踏まえ、このフィールドワークは「問いを見つける、保険のために資料を集める」を目標にしました。特に私のやりたい分野は資料にものを語らせる分野なので、資料は多ければ多いほどいいですからね。教授からの受け売り。

反省を生かし。

今年の戸畑祇園大山笠行事は7月21日~23日で開催されました。実にコロナ禍以降、4年ぶりの開催です。金・土・日の3日間あり、ざっくり言うと金曜は前日祭、土曜は全体競演会、日曜は各山笠ごとの競演会です。
事前に市役所の方に電話とメールでお話聞きたい旨を連絡してみたのですが、私がバイトや授業などの予定の都合で祭り当日しか滞在できないこと、当然ではありますが先方は祭り当日が一番忙しく時間の余裕がないとのことで、聞き取り調査ではなく観察調査をメインにすることにしました。

金曜は昼間に会場周辺を下見し、「祭り前日の町」の資料を一通り撮りました。

大山笠が通る道路。当日は人で溢れます。あんまりいい写真ではない
予約制の有料観覧席。割と早くに売り切れている印象

暑いので日が傾くまでは実家でだらだらしてました。夏祭りを追いかけまわすのって体力勝負ですからね。ブラックモンブランとマンハッタン食べた。
午後から会場に出てルートの確認をし写真をある程度撮ったら、図書館へ文献資料を取りに行きました。どうしてもつくばでは文献資料が集めづらいので、一度現地で資料見ておきたかったんですよね。
会場近くの図書館に行って司書のお姉さんに「調査のために茨城から来ました」などと話すと、抱えきれないくらいたくさんの本を出していただきました。
夏休みシーズンで人が多い一般書・児童書コーナーから離れた、人気の少ない資料室で黙々と資料に目を通し、書誌情報をノートに書き留め、コピー用紙数十枚ぶん複写しました。
司書さんにお礼を言ったとき、「大山笠も立派ですけどね、中学生の小若山笠も見てやってください。コロナで長いことやっとらんかったから、初めての子も多いんです」と言われたのが印象的でした。

2日間で見たもの、聞いたもの

二日間で35,000歩くらい、時間にして24時間分くらい追いかけまわしました。写真と動画を撮り、観客や担ぎ手たちの会話に耳を澄まし、気になったことは逐一メモを取りました。バインダーにノートを挟んで持っていると、いきなり声をかけても「宿題で調べに来たん?なんでも聞きね」などと好意的にお返事してくださる方が多かったです。調査者に見えるような風貌にすることで相手の心理的なハードルを下げるのは大事ですね。
先生は一回のフィールドワークで1000枚くらい撮るとおっしゃっていたので私も結構頑張ったんですが、数えたら450枚しかありませんでした。すげえや。

ここまでで既にすごい文字数になっているので、流れをあっさり振り返ります。
7月22日(土) 
11:00 大山笠飾り付け完成

記念撮影中。圧巻です

→法被を着た男性・男の子たちが山笠の周りで雑談したり、記念写真を撮ったり。法被を着た男子大学生たちが地元に残ったのであろう友人と「(戸畑祇園には)さすがに戻ってこないけんけな」と笑って話していました。どうやら首都圏の大学に通っている様子。

13:00〜14:00 大下り行事(御神幸出発)※御神輿を先頭に、神事の会場まで各大山笠がお供します。渡し場到着後、御汐井汲みの神事が行われます。

大下り行事

→「大下り見るんやったら坂の下のほうにおっとき」とお兄さんにアドバイスをもらい、位置取り。固唾を飲んで見守るような雰囲気です。坂のきつさはスチューデントプラザあたりが近いかも。
坂を下り終えた山笠は陽気なお囃子とともに街へ出てお汐井汲みの会場へ向かいます。観客はそれぞれの「推し山」に着いて歩いていくようです。
写真は中学生の担ぐ山笠です。掛け声が若い。この山笠マジでデカいし重いので相当きついんだろうな。大人の担ぐ大山笠に比べると途中で止まる頻度は多いですが、見ていると応援したくなります。
しばらく歩くと雨が降ってきました。ずっと天気が良いとさすがに体力が持ってかれるので、ずぶ濡れになっておきます。神事が始まるころには雨が上がり、その後も程よく曇り空。

お汐井汲み神事の様子

14:40〜15:30 功労者や協賛者宅に山付けしながら競演会場に移動
18:00~ 戸畑祇園大山笠競演会
→すごかったです。人多すぎて圧死するかと思いました。
個人的に興味深いと思ったシーンは、西大山笠の法被を着たおじさんに私服のおじさんが「あっこで東(大山笠)に追い抜かれてからあ」(追い抜かれやがって、といったニュアンスです)と話していたところです。4基の山笠は最初は順番にロータリーを進んでいくのですが、競演会が佳境になると追い越しが解禁されます。止まったり、チンタラ進んでいる山笠は追い抜かれていくわけです。西大山笠に思い入れのある人だったのでしょうか。
4基の山笠は地区ごとに分かれているので、地区ごとの対立意識みたいなものもあるのだと思います。追い抜かれず、スムーズに山笠を運行することが評価されるのかもしれません。

提灯山笠

7月23日(日)
12:00〜16:00 山笠宿〜地区回り(功労者や協賛者宅に山付け)

18:00〜21:00 千秋楽 子供山笠お囃子演奏
→この時間帯は4基の山笠ごとに別の場所で別のことをやってるんですが、中心道路でやってた東大山笠の行事を見てました。東大山笠は年少児から小6までの男女が、大山笠のお囃子と同じ山笠を演奏します。小さいのにめちゃめちゃ上手です。私はド素人なこともあり、ご本家と区別がつかない。
真正面が撮影スペースみたいになっていて、他人の私が陣取って人様のお子さんの写真を撮っていたら不審者確定なので、後ろから遠巻きに見守っていました。
少なくともこのイベントが、技術継承と成果発表の場であることはわかりました。子供たちがどんな属性なのか(担ぎ手の家族?有志?自治体に所属している?)はわかりませんでしたが、この時点では女の子もお囃子を演奏できるのもポイントです。(行事は基本的に男子だけで行っています)
当時のフィールドノートを見ると「体足りん」の殴り書きがありました。

21:00〜22:00 地区回り(功労者や協賛者宅に山付け)
22:30〜 狐落としの神事

日曜日の写真は人の顔が出すぎで、ほぼ全面を隠すことになるので割愛。

得たもの

・めちゃくちゃ疲れました。バイトで足腰が鍛えられたのか、祭り期間中はバテることなくずっと追いかけまわせましたが、帰ってからは死んだように寝ました。
・すごく楽しかったし手応えがありました。小布施のときとは天と地ほどの差。資料を潤沢に手に入れたので来年中止になってもなんとかなりそうです。あと、卒論のテーマも、「中学生の担ぐ小若山笠×コロナ禍」にしようと決められました。現実的な事情を鑑みて、できることは全部やれたと思います。

新たに得た問題は、「この膨大な資料、大小さまざま膨大な気づきをどうしよう」でした。途方に暮れながら頑張って整理してます。資料って多すぎても困るんですね。どれも大切なものではあるんですが、選別して、整理して、何が足りないのか明らかにする作業が待っていて、結構時間と労力がかかる。楽しいですけど、大変です。

今後は授業が減るので、もう少し長い期間で北九州に滞在しながら調査を進めるつもりです。実家なので宿泊費がかからないのがいいですね。行くまでがきついんですが。

おわりに

書いてたら楽しくなって6500字くらい書いてしまいました。まとまりのない文章ですみません。言いたかったことは書けた気がします。
フィールドワークって、終わったら「しばらくは行かなくていいな」になるんですけど、しばらくしたら「うおお!!!フィールド行きたい!!!!!!」になります。不思議ですね。
今年の冬にも実習に行ってきます。次はもっと上手に、もっと楽しくフィールドワークできるように頑張ります。
それでは、ありがとうございました。

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