京都は洋服文化に合わない気候

18年間京都で育った後で10年以上東京で暮らし、京都の気候を振り返ると、京都は東京とは比較にならないほど高温多湿だったとつくづく思う。
私は東京に来て、東京の夏が京都に比べれば信じられないほど涼しいこと、秋はちゃんと9月に来ること、一年中風が吹いて乾燥していることに毎年感動していた。
夏の東京は、京都に比べれば涼しいとさえいえる。
東京の気候は京都より穏やかなのだ。
とはいえ近ごろの東京は猛暑化が進み、東京でも秋は10月にやっと来るようになって京都に劣らぬほどの酷暑になってしまった。
しかしそれにしても京都の湿気は酷く、夏は長く、冬の底冷えは厳しかった。
京都市全体が太古の昔は湿地だったというし、三方を山に囲まれていて至るところから川が盆地に注ぎ込むので一年中湿気がなくなることはない。

これはレザー製品には致命的だ。
東京でさえ着る季節が限られるライダース、レザーブーツは、京都だとオフシーズンに保管しているあいだにカビが生える可能性が高い。
日常使用する靴であっても、湿気の多い家だと、レザー製ならば、油断した隙にカビが生える。
京都は一年を通して、一日のうちに雨や雪が降ったりやんだりすることが多い。
特に梅雨が終わって本格的な夏に入ると毎日夕方にスコールが降る。
夕方三時台、急に黒雲が広がり、空が耐えきれなくなると、バケツをひっくり返したような夕立。
雨は、三十分か長くて一時間ほど猛烈に降ると何事もなかったように雲が引き、夕焼けが広がる。情緒不安定な人の心の中のように。
こんな天候では絶対にレザーの高級なフォーマルシューズは履けない。
ずぶ濡れでオシャカになってしまう。
濡れてもすぐ乾くスニーカーなどのカジュアルな靴一択ということになる。
また、雨が降ると盆地の端の石畳の坂は滑りやすい。
底にしっかり滑り止めがある靴が安全だ。
かように京都は常に湿度が高く天候も安定しないので革靴をはくのには向かない土地と言える。

東京は一年中風が吹いている。
だから湿気がこもらず清潔で、過ごしやすい。
雨が少ない。
京都のように晴れの予報でも突然雨が降り出すことがないので、晴れの日は何の心配もなく革靴をはいて外に出られる。
反面、体は乾燥する。上京してすぐの頃、電車に乗ってる人々の全員が顔が乾燥していると思った。私は18年間も湿気の多い土地で暮らしていたので東京に来た当初は体が慣れず、肌の乾燥がひどかった。
若さもあっただろうが、ボディクリームなど塗ったことがなかったのに、東京に来てからはお風呂上りには何か塗らないと粉をふく。
東京の水道水は、京都の水道水と全く違って、硬い。硬水。琵琶湖の水は柔らかかったのだ。
乾燥した気候と水の硬水ぶりに体が慣れるまで上京してから二年ほどかかった。

レザー製品だけではない、京都ではテーラードジャケットを着ることができる期間も限られる。
5月からすでに真夏の気候の京都では、アウターとしてジャケットを着られる時期は東京以上に限られることになる。
京都でジャケットを着ていると、熱がこもって不快度が上がる。
蒸し暑くて、風が吹かないからだ。
けれども、たとえ夏でも雨が降ると瞬間的に肌寒くなるので何か羽織るものは必要だ。
スコールが降った後のひんやりした大気は、数時間前まで35度だったとは思えないほど寒くて風邪を引きそうになる。
そう、京都は市街地でも気候は山の天気のようなもので、体感に合わせて微調整できる服装である必要がある。
一日のうちに何度も服を脱ぎ着する。
ジャケットを着ていると頻繁な着脱のせいで型崩れが気がかりでジャケットを着用していること自体が煩わしくなってくる。
京都ではジャケットよりも、簡単に脱ぎ着できて型崩れを恐れずカバンに突っ込める、カーディガンやブラウスのような、薄手の羽織物の方が適している。
すでに五月から日差しが強く、標高の高い京都では紫外線対策といった点でも、通気性がよく日よけになり、汗をかいたり雨で濡れてもすぐに乾く羽織物のものの方が役立つ。

京都は9月いっぱいまで暑くて、11月から急に寒くなる。
冬は冬で、ジャケットだけでは太刀打ちできないくらい京都は寒い。
めったに雪は降らないのにもかかわらず寒さだけは極端。
冬の朝外に出ると、冷気のせいで鼻がツーンと痛くなる。
これは東京では体験したことがないから京都特有の寒さだと思われる。
実家では冬は毎朝家を出る際、あらかじめ心の準備をしてから外に出ていた。
子どもの頃は毎年足の指がしもやけになっていた。
東京と気温はそれほど違わなくても京都の寒さは湿気とともに体に入り込んでくる寒さなのだ。
そのため冬になると絶対に防寒性の高いアウターが必要になる。
このように京都では短い秋の期間しかジャケットをアウターとして着れない。
冬にジャケットを着るなら大きめのコートを羽織らないと寒くて耐えられない。

東京の冬の寒さは、京都の底冷えに比べれば穏やか。
季節も天候も、東京ではゆるやかに移り変わってゆく。

こう書いていくと、京都は東京に比べれば洋服文化のフォーマルな格好をしにくく、東南アジア的な服装の方が合う気候なのが分かるだろう。


いいなと思ったら応援しよう!

オクトパス
もしよろしければ応援お願いいたします。 いただいたチップは、資格取得のために使いたいと思います。