英文の論文集に寄稿する

同じ英文論文でも,学術誌への論文投稿に比べて,書籍としての論文集に寄稿する方が少ないのはきっとワタクシだけでないだろう.2016年6月末に刊行された論文集:David M. Williams, Michael Schmitt, and Quentin D. Wheeler (eds.) 2016. The Future of Phylogenetic Systematics: The Legacy of Willi Hennig. (Cambridge University Press [The Systematics Association Special Volume Series: 86], Cambridge, ISBN: 978-1-107-11764-8 [hbk] → 目次版元ページ)に寄稿する機会があったので,そのときの備忘メモとして原稿依頼から出版までの履歴を時間軸に沿って箇条書きする:

【2014年2月上旬】:編者のひとりから Willi Hennig 生誕百年記念論文集に寄稿しないかとの打診メールあり.その前年2013年11月にロンドンの the Linnean Society で開催された Hennig 生誕百周年記念シンポジウム〈Willi Hennig (1913 - 1976): His Life, Legacy and the Future of Phylogenetic Systematics〉(→ プログラム [pdf])を踏まえた論文集を Cambridge University Press から刊行予定とのこと.たいへんありがたい申し出なので二つ返事で引き受けた.しかし,原稿の締切が2014年3月末であって,依頼からたった1ヶ月あまりしかないことをうっかり “見ないふり” してしまった.

【2014年2月下旬】:寄稿原稿のタイトルとアブストラクトを提出.書くべき内容についてとくに編者からの事前注文はなかった.というか,もう20年前来の知己なので,ワタクシが何を研究しているかを知った上での原稿依頼だったにちがいない.こういうときにこそ研究者コミュニティでの “人脈” が効いてくるように思う.

【2014年10月上旬】:原稿脱稿.3月下旬の締切を華麗にスルーしてしまい,編者からの「そろそろかな?」とかイギリス流?の婉曲的な “加圧メール” 連打に押されるように,締切半年後にやっと脱稿.たいへんもうしわけなかった(ほんとうの締切はいつだったんだろう).ワタクシの場合,論文や著書は単著で書くことがほとんどなので,自分が書かなければ進捗なくそのまま立ち往生してしまう.もちろん,日本語に比べれば,英語でまとまった内容を書くときハードルが何段か高くなるのはしかたがないだろう.ただ,日本語の原稿をあらかじめ用意してから英語に “翻訳” するというのはワタクシの流儀ではない.

【2014年11月下旬】:図版完成.作図は Adobe InDesign でおこない,出力した eps ファイルを編集部に送った.画像はスキャナーで取り込む.適当に電子化された文献では図版の解像度が足りないことがよくあるので,できれば原本からのスキャンがベスト.元の “紙” の文献をもっている者が最後には勝つ.

【2015年2月上旬】:編者からのコメントと匿名レフリーからの査読コメントが返ってきた.Cambridge University Press ともなると,書籍論文でも学術誌論文なみに査読されることを知った.幸いなことに minor revision でアクセプトされた.図版については編集サイドの高精度スキャンの要求レベルが高いのなんの.何度も再スキャンすることになった.

【2015年5月上旬】:改訂原稿の提出.

【2015年8月中旬】:Cambridge University Press 校閲部からの返信あり.すべての図版について転載許諾を漏れなく取得せよとの指令.原稿についても重箱の隅までチェックされた.各国の出版社や学協会に転載依頼許可申請を出しまくる.たいていの場合,出版社ごとに permission form が用意されていることが多いので意外にラクだった.

【2016年4月上旬】:校正ゲラが届いた.Cambridge University Press の英文校正様式(校正記号も含めて)にまごつく.

【2016年4月下旬】:校正ゲラのチェックを完了し,すべての作業が終わった.

【2016年6月下旬】:論文集『The Future of Phylogenetic Systematics: The Legacy of Willi Hennig』出版.Willi Hennig の生誕百年(2013年)からはちょいと離れてしまったが,没後40年(2016年)には間に合ったようだ.

[追記:2016年7月4日]そういえば,この論文集は日本円にして15,000円超のけっこう高い値段で売られることになるのだが,著者への「印税」のハナシとかいっさいしていない.いったいどうなるんだろう.日本国内だったら,印税10%がふつうだけど,海外の学術専門書の場合,そういう「お金」のことがどうなっているのか皆目わけがわからない.内容的に見てもベストセラーになるとはとても思えないから,何かしら “見返り” があるとははなっから期待はしていないんだけど.

[追記:2016年8月1日]本書のハードカバー版がつくばに届いた.

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