「概論」という大ネタを鍛える

2016年1月21日(木)の最終講義をもって,6年間にわたって玉川大学でワタクシが担当した非常勤講義「分子進化系統学」は大団円を迎えた.ワタクシが玉川大学で担当した「分子進化系統学」は新規に開設された科目だったので,最初のうちに割り当て教室のスペック的な不具合などいろいろあった.しかし,玉川大学教務課の高度学習能力により教室は年々よくなっていった.

ワタクシは今年でこの「分子進化系統学」から手を引くが,後任の非常勤講師はすでに内々に決まっている.MEGA を使ったパソコン実習が講義の中心なので,ノウハウの表裏を知っている人材が望ましい.幸いなことにMEGA本拠地の首都大学東京から若手の直弟子が名乗りを上げてくれたのですんなり引き継ぎが進んでいる.

今年度が最後になるのは玉川大学の「分子進化系統学」だけではない.東京農業大学「実験データー解析概論」(5年間)と東京大学「生物統計学」(9年間)といういずれも学部生相手の講義も今年度で終わりになる.ワタクシの場合は本務を考えれば教歴なんかまったく不要なんだけど,結果的に教歴が積み上がってしまった.今後はこういう概論的講義はもっと若い世代にバトンタッチするべきだろう.

若手研究者は,つい「研究業績」の積み上げにのみ目を奪われがちだが,公募によってはむしろ「教育経験」の履歴を重視して選考が行われることがある.とくに私立大学の教員公募では,学士教育の潜在能力がちゃんとあるかどうかがポイントだと今日聞いた.その一方で,若手研究者が「教歴」を付ける機会は実はなかなかない.非常勤講師の人材データベースとしてはたとえば〈JREC-In Portal〉のようなサイトがあるけれども,現状では,完全公募されずに,教務担当者がツテで候補者を探している(あるいは既得権のようにポストが継承されている)ケースがほとんどなのではないか.

学部生相手の「概論的講義」こそ,その学問体系を広く鳥瞰し,酸いも甘いも噛み分けた年長のプロフェッサーが担当すべきという意見にも一理ある.しかし,体系的概論を高座にかけることができる「次の世代の年長者」の着実な育成もきっと必要だろう.ピンポイントの専門的分野の最先端について熱弁を振るう若手研究者は,そのままでは,おそらく学部生相手の講義をする教員としては「不適格者」と言うしかないだろう.今日のランチでもその点で意見が一致した.学部生相手の「概論」は教員にとってはかなりハードルの高い “大ネタ” であるのかもしれない.

ワタクシが「統計学概論」と銘打った講義をスタートしたのは1995年の数理統計研修(つくば)からだった.その年以降,かれこれもう21年も続いている.これもそろそろ次の世代にバトンタッチしないといけないようだ.

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