小説の犯人

この金縛りにあったのは、中学生か高校生の時だった。
読書が趣味だった私は、友人に勧められてあるミステリー作家の作品を読み漁っていた。ほとんど読み尽くしていたのだが、まだ手をつけていないタイトルを書店で発見し手に取った。裏面のあらすじを読んでみると、スプラッター作品だった。この作家がスプラッターとは、と驚きながらも本を購入して帰宅した。

家に着いてから早速読み始める。なかなか面白い。
かなりグロテクスな表現が多く、想像をしたくない場面すらあった。しかし、先が知りたいと夢中でページをめくっていた。

小説に出てくる犯人は終始、真っ黒な大男で表現されていた。フードをすっぽり被った大男が次々と登場人物を襲っていく。目まぐるしく展開する流れにアドレナリンが出たのか、買ったその日に読み終えてしまった。

読み終えた達成感に浸りながら、風呂に入りベットに潜り込んだ。父も母もすでに寝ており、静まり返った空間の中でまどろみながら目を閉じた。

ふと目を覚ます。初めに違和感を覚えたのは明かりだった。ベットに入った時には全ての照明が消え、真っ暗だった。しかし、今は廊下の照明がついている。父か母かどちらかがトイレにでも立って消し忘れたのかな?そう思った瞬間だった。

身体が動かない。

仰向けの状態で目は動くが身体が硬直している。金縛りだ、と思うと同時に部屋のドアの前に誰かが立っている気配がした。天井へ向けていた視線をドアへ移すとそこには真っ黒な大男が立っていた。先ほどまで読んでいた小説の犯人である。
慌てて視線を天井へ戻した。視界の片隅に大男が見える。金縛りで動けない私は、どうすることもできずに時間だけが過ぎていく。廊下の明かりを背にした大男は黒塗りされたように真っ黒だった。
小説の内容ばかり頭に浮かんでくる。どうしよう、どうしようと心臓がバクバク鳴り始めた。しかし大男はその場に立ったまま動かない。逆にそれが怖かった。目を閉じて必死に消えてくれ、お願いしますと懇願した。

気づくと朝だった。目を閉じてそのまま寝てしまったのか気を失ったのか分からない。金縛りは疲れているからなると聞いたことがあるが、こんな体験は2度とごめんだと思った。

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