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脳性麻痺の幹細胞移植

私の子供が脳性麻痺だとわかった時とてもタイミングが悪いなと思いました。なぜなら生まれてから数か月後に「自己臍帯血バンク」の事業が始まり、脳性麻痺児への自己幹細胞移植が成功したニュースが入ってきていたのです。あと1年遅ければ少しは対応が違ったかもしれないとその時思いました。

幹細胞移植が有効だとわかった時には私の臍帯血は寄付済みですぐに使うことができませんでした。子供が生まれた時自分の臍帯血を一番に脳性麻痺の子供に使うことができるような仕組みが日本にはないのです。そして臍帯血バンクはあれど、それを現実的に利用できるほどまだ研究が進んではいないようでリスクは高いと言われました。

その後私は臍帯血由来の幹細胞移植を諦め、同時にその時の脳外の先生から「母乳由来の幹細胞がある」と言われて長期授乳を始めました。その後歯髄由来の幹細胞移植のニュースをネットで見つけて、研究者に直接電話をしたところその先生は忙しかったらしくてお弟子さんと話をすることができました。すると「先生はその研究にはもうあまり興味がないみたいで、諦めてしまっている」と言われたんです。

まさかそんなことがあってたまるかと、しつこく食い下がり「ほかに研究してくれる人がいないんだから頑張ってほしい」とお願いをしました。「何か進展したら連絡する」と言われたものの全く連絡はなく、1年後にまた電話をしたら「ああ、あの時の!」と言われたものの、「全然研究は進んでません、ほかのことをしています」と言われました。

なんということでしょう…。

私はショックを受けました。当時6つの大学で歯髄由来の自己幹細胞移植の研究がされていましたがほかの4つの大学はなんだかやる気がない感じでした。一番やる気がありそうな大学ですらこの状態。

その大学には糖鎖研究で有名な別の先生がいたので一緒にやってくれよう!!!と切実に願いましたが「私たちは基礎研究をやっていて、臨床医ではないので病気のことを言われてもわからない」と言われるのです。臨床医は研究者ほど詳しく勉強していないから何もわからないと言います。この2つの間には大きな壁があります。

世の中には不死の病とされる病気がたくさんありましたがそのどれもが長年の研究によって「治療可能な病気」とされてきました。その中に脳性麻痺はありません。1000人に2~3人という確率は決して少ないことはないと思いますが、医者と争うとみてもらえる病院がなくなるので本当にちょっとしたことも言わないような親が多いです。

実際に研究室に連絡を取った時にも「そんなに需要があるのかな?!」というようなことすら言われました。

あるよ!!!めちゃくちゃあるよ!!!
少なくともうちにはあるから!!!

という熱意をガンガン伝えて電話を切りましたが伝わった気はしませんでした。「歯髄は沢山あるし1つの歯から3回は培養して使えるから急がなくても…」なんて言われたんですからね。

歯髄の幹細胞はできるだけ若いほうがいいんですよ!確かに大人の歯にも歯髄はあるけど乳歯を使うのは若いほうがいいからです。幹細胞移植は失敗して死ぬ人もいるのだから、そのリスクを減らすには条件の良い歯髄を使いたいですよ。

研究者や医者にその気になってもらわなければならない。それには患者とその家族が「もっと研究して欲しい」と声を大にして訴えなければならないのに、ほかの人たちは全然言っていないのだなと思いました。

「ほかの病気の人たちからは要望が良く来るけど脳性麻痺の人達からはあまり来ない」なんて言うんだもの。

当事者と家族の「困ってる」ということが、研究者に伝わらない限りは研究が進まずその知恵が医療まで降りてきません。

その時私は病気の人はもっと直接研究者とつながるべきだと感じました。

その先生に直接診てもらう話になってきたころ、ちょうどコロナがはやり始めていて「県外からの人は受け付けていません」などと言われ、診察を受けに行くことが難しくなってしまいました。それから数年が経過し、どうなったんかいなと思ってみてみると一応研究は進んでいるようでした。

私は生化学を勉強していろいろなことをしてきたけれど、最初に自己臍帯血移植ができていればこんなに苦労していなかったと思います。たまたま生んだ病院が違っただけで移植を受けられた人もいて、それを知っている看護師さんたちから直接成功した話を聞いたことがあります。

私の子供にも今でも必要だと思うし、これから脳性麻痺になってしまった人にもみんなに必要なことだと思います。

自己幹細胞移植をすべての人が普通に使えるようになれば脳性麻痺に苦しむ人が減るはずです。それには研究が必要です。先生たちにも頑張ってほしいけど患者さんたちにも声を上げて欲しいと思います。

たった一人の患者の熱意が世界を変えることだってある。
だからほかの患者さんたちも言って欲しい。

自分たちが困っているから助けて欲しいってこと。
脳性麻痺の根本治療が可能な世界になってほしいってことを。

そしてその治療に関する知識は必ず他の難治性の病気の治療にもつながります。脳性麻痺の子供の治療の技術は決して世の中の多くの人にとって無関係なことではないのです。

だから声を上げる勇気を持ってほしいと思います。

幹細胞移植が実現するように。















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