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アンドロゲン補充療法と物忘れ

私の子供は低緊張型脳性麻痺です。筋緊張が強いタイプであればいくつかの方法で治療が可能ですが低緊張型となると医者にはできることが何もありません。どこの病院にいこうが、「治療法はない」と言われる病気です。

低緊張とは何かというと、筋肉や骨や腱が柔らかくて力が入らず体がぬいぐるみのようにぐにゃぐにゃとして思うように体が動かせないということです。低緊張のレベルには個人差がありますが、当初私の子供は立って歩くことはおろかきちんと座ることもできませんでした。生まれたとき、脳のMRIを見た新生児科の担当医は「首が座るのがやっとかそれも難しいだろうと思った」と、言うほどでした。ベッドの上で一生を終えると言われたんです。

低緊張になるメカニズムを聞いてもそれをこたえられる医者は一人もいなかったので私は一人で勉強を始めました。

そしてアンドロゲン補充にたどり着き、それを実践しました。アンドロゲンというのは筋肉をつけるためのホルモンのことです。これらを体内で作ることができないので薬で足してやるのです。

子供に行う前に自分の身体を実験台として使いました。体の中でどのようにそれが働くのか理解したうえで使いたかった。私は結局それに成功し、今私の子供は立って歩くことができます。

それはよかった。
よかったけれども。
ただ1つ問題がありました。

アンドロゲン補充療法は使い方を間違えると、困ったことが起こります。

・テストステロンを補充したとき、IGFが増える
・アロマターゼ阻害薬を飲んだ時、テストステロンが増えてIGFが増える
・エストラジオールを阻害したとき、テストステロンが増えてIGFが増える

これによって起こることがあります。

それは「物忘れ」です。

・IGFのサプリメントを飲んだ時
・アロマターゼ阻害薬を飲んだ時

この2つで特に物忘れがひどかったです。

アンドロゲン補充というとテストステロンという男性ホルモンを足すことがメインになりますが、この時にテストステロンが早く代謝されてしまわないようにアロマターゼという酵素を阻害したり、ACTHの量が増えてテストステロンが相対的に増えるようにエストロゲンを減らすためにエストラジオール阻害薬を使います。

補助的にこれらを使ってテストステロンの値を維持しなければテストステロンは単体で補充するだけだと自己生産量が減り始めるので薬を使う意味がなくなってしまいます。テストステロンとエストラジオールを減らす薬は同時に使わなければ意味がない。

どの薬をどんな頻度でどのような使い方をすればよいかということは、誰もわからないことだったので私は自分の身体で人体実験をする以外方法がありませんでした。

度合いで言うと、

・IGFサプリ
・GHサプリ
・アロマターゼ阻害薬
・エストラジオール阻害薬
・テストステロン

この順番で物忘れがひどくなります。これは「筋肉がついたと実感した順番」でもあります。

結局は筋肉をつけるには「IGF」なんです。だからこの順序は「IGFの増加の度合い」を現わしています。GHやIGFのサプリが直接的にIGFを増やしてしまうのはこれで説明がつきます。

私は今後一切GHとIGFのサプリを使うつもりもないですし人にも絶対にすすめません。IGFを増やすのであればテストステロンが増えるようにすることで十分です。IGFを直接摂取する必要はないしそこまで急いだからといっていい結果はないです。穏やかに増やすほうが一番の近道です。急激に増やそうとすると重度の物忘れが起きるからです。

IGFが急激に増えたときは注意力が散漫になります。たとえばそれは「5分後にこれをやろう」と思ったことなんかです。「これが終わったらこっちのことをしよう」と思ったら間違いなく忘れているので、電子レンジで何かを温めていたら必ず入れたことを忘れてしまっていました。

これらのことで海馬や前頭葉に影響があったのだなとわかりますね。

となると「亜鉛」の補充をしなければなりません。海馬は亜鉛を貯蔵する場所でもあります。

私は亜鉛製剤を取ると確かに少しだけ物忘れが改善しましたが、酷い下痢になってしまって使い続けることができませんでした。これらのコントロールはとても難しいです。

ですから、アンドロゲン補充療法は驚くほどゆっくりとしたスピードで進めていかなければならいということがわかると思います。

大人の私ですらそうなのだから、子供の場合は本当にゆっくりゆっくりアンドロゲンを補充することが一番の近道。

私の子供も学校のお友達の名前をほとんど覚えられません。先生たちの名前も。



そしてアロマターゼやエストラジオールの阻害薬が物忘れを作ってしまうことはまた別の考え方が必要になります。これらの薬は脳性麻痺の子供の脳の中でガチガチに固まっている白質化した部分を溶かす作用があったので、私の子供には良い結果が待っていましたが、そういったことのない健康な脳の私が使った場合は「溶かしてはいけない部分を溶かされた」為に物忘れがひどくなりました。

ものを考える力は一切衰えず、むしろこれらの薬を使ったときの私の思考は恐ろしく活発でした。パアアアアっと常に冴えわたっているという感じで、1つのものを見たら10、20といろんな発想で新しいことを思いついたりしてアイデアが生まれ続けてくるんです。何かを思考する時、答えから発送してその間が次々につながりあって自分のもとにやってくるような感覚です。難しい本を読んでも「わからない」と思ったことは一度もなく、知らない公式・単語などを見てもなんの違和感もなくスッと自分の中に入ってくるようでした。何かを勉強するのであればこんなに素晴らしいことはありません。

ですが問題はその思考力の活発化に相反するように訪れる、「人の名前を忘れる」という弊害です。

まず100%の確率で私は人の名前が覚えられなくなっていました。昔知り合った人の名前は全部覚えています。新たに知り合った人の名前を一切覚えられなかった。というか、覚えたつもりになっていたも数時間ですべて忘れていた。何を喋ったかという内容は覚えてる。ただ「それが誰だったのか」ということが思い出せなくなります。

本を読んでも作者の名前だけ忘れます。名探偵コナンのアニメを見ている時ですら、レギュラー以外の登場人物の名前がわからなくなって推理を楽しめなくなってしまいました。昔から知っている人の名前は忘れないんです。新たに覚えた人の名前がわからない。

・アンドロゲン補充をし始めてから知り合った人の名前は一切覚えられない
・知り合った人と会話した内容は覚えている
・それが誰かわからない

これがもうかれこれ4年以上続いていて、私はいまだに名前がなかなか覚えられないです。最初の2年くらいは驚異的に忘れていて誰の名前も一切覚えられなかったんです。そして忘れていることにすら気づかない。

今は少しマシになってきたけれど良くない状況です。似た感じの人がいたら混ざります。「誰とこの話をしたのか」ということがこんがらがって混ざります。

だから凄く仲良くなっていた人と久しぶりに会ったときに、「誰?!何この人馴れ馴れしい!初対面なのに!」というようになって喧嘩になったことが何度もありました。覚えてないわけですから、馴れ馴れしい人は全員怖い。相手は何も悪くないのに。私はとにかく怖いんです。だってその頃の私は自分が名前を忘れているだなんて気づいてないんですから。

自分では本当に何も思い出せないんです。でも会話した内容は覚えているので完全に忘れてるわけではないんです。だからできる限りいつ誰と何を話したのかを記録するようにしていたんですが、最初のうちはどのくらい物忘れをしているのか気づかなかったので4年前ごろに知り合った人のことは何にもわからないです。

認知症の人の気持ちが私はわかります。
本当に何にも思い出せない。
これは困るけど、困っていることに自分で最初は気づかないんです。
忘れているから。
気づけないんです。

「人の名前」という概念そのものがすっぽりと抜け落ちる感覚。

覚えていないことに気づけない。
トラブルになるまでわからない。
これがどんなに自分と周囲を不幸にするか。

この時期に私は沢山いろんな人と出会い、貴重な体験をしましたがそれが誰であるのか覚えられず連絡を取りたい人がいても誰だったのか思い出せないんです。


これに対しては私の子どもがヒントを与えくれました。

それは焼きのりです。

うちの子は恐ろしい度合いで焼きのりを食べたがります。それを食べると酷い下痢になりますが、それでも食べたがります。なぜそうするのかずっとわからずにいましたが、私は真似をして同じレベルで焼きのりを食べてみました。

寿司羽根8枚を1回で食べきります。1か月に業務用の100枚入りの海苔を子供は1人で食べて足りないくらいです。食べすぎると下痢がひどくなって発作を起こすのであまり沢山は食べさせられません。与えるときはミキサーで粉砕して粉状にしておかゆに混ぜて食べさせると酷い下痢にはならないようです。

下痢になる原因が海洋性レクチンによるものなのか、それ以外のミネラルによるものかはわかりませんが亜鉛で下痢をすることを考えると何となくミネラルかなとも思います。下痢といっても本当に酷いレベルの下痢で何日もトイレから出れなくなるくらいのものです。様子を見ながら海苔を食べて、いかなければ。

ちなみにうちの子供が生海苔を食べると下痢で収まらず即嘔吐下痢発作呼吸停止コース。絶対ダメ。しっかり焼いて海洋性レクチンを壊さなければ。

亜鉛はいろいろなホルモンの生成と代謝に関わっていますが、特に重要なのがコルチゾールです。これを作る材料として使われます。コルチゾールを作るための亜鉛が足りなくなるとコルチゾールは枯渇します。そうすると血糖値があげられなくなったり抗炎症ホルモンや抗ストレスホルモンとしての働きができなくなるので体に不具合が現れます。

だから亜鉛は低緊張の子供には必ず必要なものですが、薬やサプリメントで足したものはちゃんと使われていない気がします。体内で自己生産した亜鉛でなければ、貯蔵されにくいような実感がある。だからこそ「グルタミン酸」を取ることが最も重要な気がするのです。

うちの子は昆布が大好きです。昆布だしのスープが大好き。これもものすごく納得がいくことです。IGFの時もそうでしたが、亜鉛を足すときもゆっくりと穏やかにすることが大事。

それにしても焼きのりに関しては食べすぎでしょ!というほどの量を食べます。私はそれほどのりが好きなわけではないのでかなりの苦行でしたが、驚くほど物忘れが改善したんです。焼きのりに含まれているミネラルはとても多いのでどれがどう作用したのかはわかりません。

でもこれを食べると新たに覚えた名前はあまり忘れないですんでいるようです。

ただ4年前くらいに知り合った人のことは今でも何にも覚えていない。私が怖がって拒絶してしまった人の中に、大切な人がいたのかもしれないと思うと悔やまれてなりません。

連絡を取りたくても取れなくて、ずっと後悔しています。


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