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低緊張の子供の正しい寝かせ方~二次障害の予防~

「低緊張の子供は仰向けに寝ると喉の筋肉が落ち込んできて呼吸ができなくなってしまうので、寝かせるときは横向きにすべき」

と、新生児科の医師に習ったのは無呼吸で夜中に息が止まって体が真紫になって救急に駆け込んだときでした。

しばらく家に帰ってからそのように横向きに寝かしつけていたのですが、今度は背骨が曲がってきているということを指摘され、原因は「いつも同じ方向を向いて寝ているから」と言われたのです。

確かにいつも同じほうを向いて寝ていました。子供は私のほうを必ず向いて寝るので、添い寝をするときに私が同じ場所に寝ていると自然と同じ方向を向くことに…。

仰向けで寝ていると喉の筋肉が柔らかすぎて気管をふさいでしまうので自然と子供は自分から横向きになっていました。そのほうが楽だったのでしょう。無呼吸にならないように横向きで寝ることは正しい判断でしたが、いつもそうしていることは間違っていたんです。

「じゃあ一体どうすればいいの?!どっち向きで寝かしつければいいのよ?」

病院や療育施設でそれを聞いても明確な答えを提示してくれる人はいませんでした。それで私は整体院に弟子入りしました。

そこは「病院で治らなかった人が集まる」と有名で、先生は「早く連れてくればいいのにうちに来るときはどうにもならなくなってからみんな来る!」とよく怒っています。私は生後1年半で連れて行ったので比較的早いほうでした。トイレや仏壇を掃除する代わりにいろいろなことを教わっていたので、私はとても古典的なスタイルの弟子でした。

「普通の子供は生後3か月の間の寝かせ方でその人の体の仕組みが決まるよ。だけど脳性麻痺の子供は体がグニャグニャだからもうしばらく時間がかかるかもね。それはその間のケアが必要だということだけど、今が少々ダメでも修正が効くということだからあまり心配しなくてもいい。きちんと立って歩けるかどうかはきちんと座れるかが大事だし、きちんと座れるかどうかはきちんと寝れるかが問題なんだ。人間は正しい寝方を覚えることができれば健康に生きることができるけどそれが案外難しいんだ。だから歩けない子供を産んだと勘違いをして焦って歩行訓練なんかさせて子供の足をダメにしてしまう親がたくさんいるけど、あなたはそうなってはいけないよ。ちゃんと寝かせる方法を教えてあげるからちゃんとそれをできるようになって。過酷なことであるけれど、それは治療なんだ。医者にはできない、薬も手術も必要ない、母親にしかできない治療なんだ。」

母親にしかできない過酷な治療とは。

「30分に1回、寝返りを打たせること」でした。
これは過酷!親は全然寝れない!

でもそれをしなかったら子供の体はどうなるかというと、「斜頸」「側弯」「片頭痛」「股関節脱臼」「尖足」「蟹股」「外股」「内股」「内反小趾」「外反母趾」「二重くるぶし」「足先のしびれ」「漏斗胸」「偏平足」「二の腕のたるみ」「小指側のしびれ」「ばね指」「主根症候群」といった症状が出るようになります。いわゆる脳性麻痺の二次障害と言われるものの根本原因は「新生児期の寝かせ方」にあるんです。

確かに私は病院で相談すると「脳性麻痺の二次障害は必ずある。大変だよ!痛いしリハビリにずっと通わないといけないし」と言われました。悪くしたくないので予防法を聞くと「そんなのわかるわけないじゃない!悪くなったら来て!手術をするから!」と言われました。

脳性麻痺の子供が生まれたらどうやって育てたらよいか病院では習うことができません。「何を食べさせたらいいか?」でも悩みましたが「どうやって寝かせたらいいか?」ということはもっと悩みました。


二次障害予防のための寝かせ方

右ばかりを向いて寝ている子供は背骨を後ろから見たときに【逆C型】になります。

【特徴】
  ➡右目が左目に比べて大きくなる
  ➡頭の右側が凹む
  ➡耳と頬骨の先端との間の距離が顔の右側のほうが左側よりも長い
  ➡背中から見て右側のほうに逆Cの形で骨が曲がる

【不具合の傾向】
  ➡右目の視力が落ちることが多く、左目の視力がいい人が多い
    乱視が出る場合は右目が酷くなりやすい
  ➡片頭痛が起きるときは右側に起こりやすい
  ➡耳鳴りが起きるときは左耳に起こりやすい
  ➡(年を取って)耳が聞こえなくなる時は右耳が先に聞こえにくくなる

これはどういうことかというと、

・頭を下にしていたほうの目が大きくなり、その方向へ背骨が曲がる
・片頭痛は下になったほうへ頭痛が出やすく、上になった側に頭痛がある場合は重度になりやすく目の奥が疼くほど痛い
・下になったほうへリンパ液が溜まるので耳が聞こえずらい場合がある
・耳鳴りは寝ているときに上になったほうに起こりやすい

この寝方をする子供は大きくなると将来このように背骨が曲がってくると言うのです。いわゆる側弯です。

寝かせた向きによっては正反対の症状が出ます。


左ばかりを向いて寝ている子どもは後ろから見たときに背骨が【C型】の形に変形しています。

【特徴】
  ➡左目が右目に比べて大きくなりる
  ➡頭の左側が凹む
  ➡耳と頬骨の先端との間の距離が顔の左側のほうが右側よりも長い
  ➡背中から見て左側のほうにCの形で骨が曲がる

【不具合の傾向】
  ➡左目の視力が落ちることが多く、右目の視力がいい人が多い
    乱視が出る場合は左目が酷くなりやすい
  ➡片頭痛が起きるときは左側に起こりやすい
  ➡耳鳴りが起きるときは右耳に起こりやすい
  ➡(年を取って)耳が聞こえなくなる時は左耳が先に聞こえにくくなる

側弯に関しては、背骨本体が曲がる人と背骨の一つ一つが曲がる人といるそうです。曲がってからでは遅いのでできるだけ早い段階でケアできれば治ります。大事なのは「側弯の前兆」にできるだけ早く気づいて寝かせ方を変えることが出来るかどうかです。小学校5年生くらいで病院に連れてくる人が多いけど側弯の前兆は2~3歳の時点でわかるそうです。

側弯の兆候はこの時すでに出ていました。背中を寝ている間に子供がひっかくのです。朝起きると毎回新しい傷が背中に出ていて血が出ていました。骨が痛いので無意識のうちにひっかいていたんです。実際に触るとうっすらと曲がっていました。

背中が痛いので私の手を持って背中をかくように四六時中促してくるのです。言葉がしゃべれないので身振り手振りで一生懸命に背中の痛みを訴えてきていました。

小児科で相談をすると「皮膚科を紹介しようか?クリーム処方してもらう?」と言われるくらいでこのことの意味を深く考えてくれる先生はおらず毎回「神経質なお母さん」と言われましたが、この背中の傷は大切なことを私に教えてくれていました。

このことに気づけたからこそ、立って歩くことが可能になったのだと思います。


いくつもの兆候

それ以外にも整体の先生は「側弯や斜頸の兆候」として次のことを挙げていました。

・視力に左右差があって欠けがある可能性を指摘されたことがある
・頭の形がいびつである
・夜中に背中を痛がる
・立位、歩行が安定しない
・低緊張が強い
・頭痛を訴える

頭痛やめまいが起こる方向もこのような寝る方向に関係しているので、頭痛を訴えてくるときに寝かす向きを変えてみたところ頭を押さえて痛がることが減りました。


「同じ方向を向いて寝かさない」

これが脳性麻痺の低緊張の子供のお世話の仕方の基礎の基礎、最も重要なことです。

寝かせるときの向きを一定にしないというのはとてもシンプルで簡単なように思えますが、知らずにいると子供は向きやすいほうしか向かなくなるのですぐに片側の頭が凹みます。これは決して病気の子供だからではなく、親のケアが行き届いていないことによる産物で将来の子供の発達を左右します。

こんな感じで。
  ⇩

一通りやってみて思ったのは「足の問題は座り方にある」「座り方に問題がある場合は手のつき方に問題がある」「手のつき方に問題がある場合は寝ているときの顔の向きに問題があるからだ」ということです。歩けないことや立てないことについて勉強していくと、ついには「寝ているとき」まで立ち返らなければならなかったのです。


寝姿の補正には抱き枕


私は子供と一緒に寝ていたのですが、毎回私の体に足をのっけてくるので寝苦しいのです。子供が寝ると別の布団で寝ようとしたのですがそのたびに子供はひどく怒って叫びました。脚を置かせてくれというのです。

そこで私は自分の枕を抱かせてやりました。少し落ち着いたのですが私の枕がなくなってしまったので、子供用の抱き枕を買ってやりました。少し柔らかかったので中の綿を半分抜いて硬い材質の詰め物をしてやりました。すると気に入って毎日このように抱いて眠るようになりました。

写真では上に載っていますが、基本的には横を向いて寝た時は片側の足を抱き枕の上に載せて抱き着くようにして寝かせます。

すると背骨はまっすぐになります。特に腕の位置が大事で、抱き枕を抱いていないときは腕の重みで自分の胸が苦しくなりますが抱いていると胸にかかる負荷が減るので呼吸が楽になります。肋骨への負荷が軽減されるので深い眠りにつけます。


ポジショニングの本はいくつか発売されていますが、自分の子供に合うかどうかはまた別の問題。それでも基礎はある程度理解できます。


しばらくして体が大きくなってからはU字の抱き枕をつかいはじめました。

理由は「寝返りをうってもどちら側にも枕があるから便利!」というだけでしたが、本来の向きとは逆の方向で使ってみると、足のむくみが取れてさらに便利でした。

新生児科に入院しているときはタオルを巻いて紐で縛った棒のような形のものを寝姿の補正に使っていました。帰宅してからも似たようなものを使っていたのですがある程度大きくなったら使わなくなっていました。

当時はたくさんの形の違うクッションで補正をしていたのですが、ちょっと動くと治してやらなければならず面倒だったのでいつの間にか忘れてしまっていました。U字の抱き枕はその点でも便利ですね。これは大人用の商品ですが小さい子供向けのものがあってもよいと思います。



本当は低緊張の子供は大人になるまでずっと寝姿の補正のためのクッションを必要としているのかもしれません。

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