見出し画像

なぜ今、子どもたちに“余白”が必要なのか?ラーンネット・あーる設立の背景を語る【炭谷俊樹×齊藤勇海】

はじめまして。ラーンネット・あーるnote編集部です。

ラーンネット・あーるは、2023年6月に神戸市灘区に開校したオルタナティブスクールです。“余白”のある時間を過ごす中で、自分の好きなことにじっくりと向き合う。そんな日常を大切にしています。

運営するのは、1996年から探究学習の実践を続けるラーンネット・グローバルスクール。小学校高学年から中学生向けの「ラーンネット・エッジ」、小学生向けの「フルスクール」、未就学向けの「バンビーナ」に加えて、4校目の開校となります。

すでに小学生向けのスクールがあるものの、なぜ新たなスクールを設立することになったのでしょうか。代表の炭谷俊樹さんと、スクールディレクター兼ナビゲータ(子どもの学びをサポートするスタッフ)の齊藤勇海さんが、ラーンネット・あーる誕生までのストーリーと大切にしている理念を語ります。

炭谷 俊樹(すみたに・としき)
ラーンネットグローバルスクール代表(1996-)。神戸情報大学院大学学長(2010-)。探究コネクト共同代表。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。著書に『第3の教育』(角川書店)『ゼロからはじめる社会起業』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

齊藤 勇海(さいとう・いさみ)
埼玉県の公立小学校教員(9年間)を経て、神戸の探究型オルタナティブスクール「ラーンネット・グローバルスクール」のナビゲータとなる。 2023年6月から開校した、「ラーンネット・あーる」の設立に関わり、現在は同校でスクールディレクター(校長)兼ナビゲータを務めている。
【Voicy】https://voicy.jp/channel/4076


小学生の不登校が急増。「なんとかしなければ」

炭谷:25年前にフルスクールを始めたとき、1年生の入学希望者は少なかったんだよね。公立に通うのが当たり前で、オルタナティブスクールという考えはなかったし。

1年生が多く入学するようになったのは、10年くらい前からかな。学校に行きづらくなってから来るというより、最初からうちを選んで来る子どもが増えた。さらに去年くらいから、編入希望者が急増。特に低学年が増えた。1年生の保護者からの問い合わせも多くなってね。

流れが変わったと思う。それは明らかにデータにも出ていて、最近文科省から発表された不登校の数は、特に小学校低学年で増えている。高学年の問い合わせだったらラーンネット・エッジも案内できてたんだけど、低学年はフルスクールが定員いっぱいで編入できない。

入学を待っている人がすごく増えてきて「これはなんとかしないといけない」と思って、去年ナビゲータ(以下、ナビ)のみんなに呼びかけたんだよね。そしたら、いさみさんが「新しいスクールをつくりたい」って言ってくれた。

齊藤:それが去年のことなので、まだ1年ちょっとしか経ってないんですよね。

炭谷:去年の年末から話し合いを始めて、実際にスクールをつくると決めてから開校するまでは、2ヶ月くらい。スクールの校舎としてちょうどいい場所があるという話も、そのタイミングでふっと入ってきた。こういうのって、よくあるんだよね(笑)

齊藤:そうですね。そのときの空気というか、“変わるとき”って感じるものがあるなと思ってて。僕自身、去年の春に教員を辞めてラーンネットに来たときも、いろんな条件が揃っていなかったけど、「とりあえず来てみる」という感じだったんです。

そのときの感じに少し似ているなと。学校をつくった経験はないし、経営だってしたことがない。それでも思いをベースにして動いてみると、上手くいくんじゃないか、みたいな。自分の熱の方に動かされたところはあるかもしれません。

炭谷:アフタースクールの子どもたちを見てくれていたのも大きかったかなと。いさみさんはそこで、「フルスクールに編入したいけど入れない」という声を直接聞いていたんだよね。

※ アフタースクール:STEAM教育を通して、テクノロジーを活用した創造力・表現力・論理的思考力・問題解決力を育む「ステモン・クラス」と、臨床美術の手法を活かしたアート教室「ダヴィンチ・クラス」。毎週土曜日に開校。齊藤さんは、ステモン・クラスを担当している。

齊藤:そこは間違いなくきっかけの一つではありますね。近くにいる方の思いには、突き動かされるものがありました。「子どもが学校に行きたくないと言っていて。それでもずっと家にいるわけにもいかない」と。困っている保護者はいっぱいいるんですよね。

開校初日から、子どもの表情がどんどん変わっていく

炭谷:ラーンネット・あーる開校の初日、僕はずっと子どもたちの様子を見てたんだよね。そしたら、子どもたちの表情がどんどん変わっていって。あまりしゃべらなかった子も、午後になったらわーっとしゃべり出す。子どもって本当にすぐに反応するんだよね。

齊藤:体験会でちょっとまだ表情が硬いなと思うような子も、入学してみると次第に柔らかくなりますし、伝えたい思いがあるから言葉も出てくるんですよね。来たときと帰るときで、全然違う。

保護者からは「子どもがラーンネット・あーるから帰ってきたあとは、すぐに寝る」と聞きます(笑)発散して、疲れ切っているようです。あとは「子どもの表情がこれまでと違うので心が軽くなった」という話もしてくれますね。やっぱり子どもの状態って親に影響するんです。逆もまた然りですけど。

よくすみさん(炭谷さん)が使う例えで言うと、空腹と満腹のバランスがちょうどいいのかなと思っていて。与えられすぎると、もういらないってなるじゃないですか。でも程よくお腹が空いていると、自分で満たそうとするんですよね。

炭谷:余白があればあるほど、子どもたちは自分のやりたいことをやり始める。そうすると、自分らしさが出てくるんだよね。

齊藤:子どもが自分の活動にたっぷり浸れる時間があることは、大人のゆとりにもつながっています。大人が「これやらなくちゃ」「あれをやらせなきゃ」と思っているより、精神的にも余白を持って子どもと関われるのは、すごくいい状態だと思っています。

マインドが変わった探究ナビ講座

炭谷:いさみさんは元々小学校の先生をやっていたから、きっと「教えること」がベースにあったと思うんだよね。それを180度切り替えられるのはすごいなと思う。そこには抵抗感とかはなかったの?

齊藤:実は切り替わったきっかけは、すみさんとの出会いなんですよね。2年前に受講した探究クリエイタープログラム(現在は「探究ナビ講座 実践編」に改称)のロープレの中で、子どもたちの問題を僕自身が解決しようとする関わり方をしたんです。そしたら、すみさんにガツンと言われて。そんなに強い口調だったわけではないのですが、僕にとっては「ガツン」だったんですよ。

これはやばいなと思ったのが、マインドが変わるきっかけだったと思います。多分あの日のことは死ぬまで忘れないですね。元々そういう関わり方はよくないと思っていたんですけど、実際には染み付いているものがあったんです。

炭谷:学校の先生だと、ナビゲートするより仕切ろうとする人がほとんどなんだよね。でも、僕からの指摘をいさみさんは素直に受け取ってくれたんだろうな。

齊藤:あの日、ホテルでめっちゃ落ち込んでました(笑)せっかく神戸まで来たので観光でもしようかなと思っていたんですけど、そんな気にもなれず。教員生活を振り返る時間にしました。今まで何やってたんだろう…みたいな。

炭谷:それは始めて知ったな(笑)いやでも、切り替えがすごい。なかなかいないですよね。普通は正当化しようとするんじゃないかな。「学校ではこの方が正しいに決まってるんだ」ってね。自分を守ろうとする。

齊藤:これはナビになってから感じることですが、多分ラーンネットは、変化していくことを楽しめる人じゃないとやっていけないなと思います。ナビ同士の関係性や子どもたちの姿から学んで、自分が変わっていける人。ナビはそうやって変化していく人を後押ししてくれる存在だと思っています。

炭谷:いさみさんにずっと一貫しているのは、自分で動いて自分で決めるところだと思う。「どうしたらいいですか?」とは一切聞いてこない。「こうしたいと思うんですけど、どうですか?」って、まずは自分の案を出してくるから、そこがすごいよね。周りの人が言うことを上手く吸収しながら自分のワールドをちゃんとつくっている感じ。

日常に“余白”があることの価値

齊藤:ラーンネットに来てから1年も立たずに新しいスクールの立ち上げをする中で、ナビとはいろんなやり取りをしました。学びは多かったですね。ナビは、ロジックよりも思いをベースに語る人たちだと思っていて、そこは僕に欠けているところだったなと思います。

炭谷:関西と関東のカルチャーの違いもあるかもね。関西の人って「本音で話せや」みたいなところがあるじゃない。でも、関東は理路整然と話すことが仕事だと思っていたり。

齊藤:そうそう。今はAIの話もよく耳にしますけど、自分の思いをベースにしたコミュニケーションは人間だからこそできることだなと思っています。それは、ラーンネットに来てからの1年間で特に感じました。自分の気持ちや思いは、ラーンネット・あーるの中でも大切にしたいと思っています。

炭谷:思い切ったところとしては、基礎学習をやらないところだよね。でも、意外と迷わず決めた。

齊藤:そうですね。迷わなかったですね。基礎学習は必要だという捉え方もありますし、それをやることが全てマイナスに働くことはないと思います。ただ、基礎学習があることでナビがいっぱいいっぱいになってしまって、本当に関わらなければいけないところで関われないことも起きているんじゃないかなと思って。

子どもたちの興味関心をベースにした活動をしながら余白をつくっておくと、その中で基礎学習ができるんじゃないかなと思っています。例えば、料理を作りたい子がいたら、一緒に材料の分量を計算したり包丁の使い方を考えたりする時間をナビと一緒に取ることができるんです。

それは少人数だからこそできることで、35人の子どもたちに1人でやろうとすると、例え時間があったとしても難しい。10人程度ならできる感覚は持っていたので、基礎学習の時間は取らなくていいと直感的に判断しました。

炭谷:保護者の中には、自分が無理やり基礎学習をやらされて嫌な思いをした記憶があるから、やらせないでほしいという方もいらっしゃる。皆さんそれぞれの考えはありますが、基礎学習をカリキュラムの中に入れないことが受け入れられるようになってきたんだなと。

齊藤:そうですね。大事にしていきたいのは、人間の普遍的なところですね。例えば、今ここにいる私たちが感じていることって、それぞれの中だけにあるものじゃないですか。自分の感情や倫理観、身体性と向き合う時間を大切にすることで自分の軸ができていく。それが将来的にも、その人らしさになって「この人と働きたい」「この人だからお願いしたい」という関係性につながっていくと思っています。

これからのラーンネット・あーるは週5日になる予定ですが、それに伴って新しく「やるべきこと」を増やしていきたくはないですね。子どもたちが自分自身に意識を向けられるような“余白”は、大切にし続けます。


2023年11月20日(月)より、2024年度の入学者を募集しています。詳細は、以下のリンク先よりご覧ください。


取材・文:建石尚子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?