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苦手。

T字路や十字路を渡るのが苦手です。
左折、右折してくる車やバイクに、ものすごく警戒してしまいます。
横断歩道恐怖症かもしれません。

たぶん、以前、こんなことがあったからに違いありません。

その日、僕は見透しの良い広いT字路の前で人を待っていました。
時間は平日昼過ぎ。
空はものすごく晴れて,どこまでも青かったことを覚えています。
渋滞もなく、車はスイスイと僕の前を通り過ぎていきます。
信号が青に変わり、向かいで待っていた銀行の制服姿の若い女性が財布を片手に道路を渡り始めました。
左から赤い軽自動車が右折しようとやってくるのが見えました。
彼女は確かに車に目をやりました。
車はスピードを出しているわけではありません。
こんな広い道で、後続車もいません。                 彼女は当然、自分が渡り終えるまで、車が一時停止するだろうと思ったのでしょう。
僕もそう思いました。
車は歩く人を目視したはず。
歩道者優先の原則です。
彼女は車を一瞥したあと、前を見ながらそのまま、歩いてゆきました。
しかし、車はスピードをゆるめず、女性をポンと跳ね上げました。
彼女の体は横向きに高く放り投げられ、黒いヒールが足から離れました。
女性とヒールは、クルクルと何度か回転し、車を超えて、後ろのアスファルトに落ちました。
軽自動車はブレーキを踏み、急停止、運転席から年配の女性が慌てて飛び出してきました。
運転していた女性は、なぜかはわかりませんが、まず跳ねられた女性のヒールを最初に回収しました。そして、再び、車に乗り込むと歩道側に車を寄せて止めました。                    
スピードが出ていなかったのが幸いしたのか、ぶつかった女性は何が起きたのかわからない表情でゆっくりと立ち上がり、そばにいた人に抱きかかえられ、ガードレールに寄りかかるように座り込みました。
まもなく、サイレンを鳴らして救急車が到着しました。
彼女は自分の足で乗り込み、運転していた女性とともに運ばれていきました。
事故を目撃した僕は茫然としました。
待ち合わせをしていた友人は、すべてが終わったころにやってきて、僕のただならぬ様子を心配しました。その後は食事をしましたが、何を食べたのか今だに思い出せずにいます。
以来、僕は横断歩道を渡る時、ものすごく緊張するようになってしまいました。
ドライバーから僕は見えているのだろうか?
トラウマはなくなりません。
僕はこれからも慎重に横断歩道を渡ります。
ずっと。ずっと。