リー代数のちょっとしたお気持ち

<リー代数の定義 その1>

ある群Gを行列の指数関数の形exp(tA)で与えられたとき、
行列Aの集合を群Gのリー代数L、あるいは、リー環Lと呼ぶ。
(ただし、tは実数)

表記としては、群Gを大文字、対応するリー代数Lを小文字で書くことが多い。
例えば、SO(n)に対してso(n)と書く。

なお、とある群の任意の元が必ず、行列の指数関数の形で表せるかというと、一般にはそう言えない。しかし、後で説明するように、リー代数は無限小変換を作り出せるという点で強力なので、研究がされてきた。

exp(tA)の形が、群の定義(積、単位元、逆元)を満たすことは、expの性質から容易にわかる。


<リー代数の幾何学的イメージ>

さて、リー代数の幾何学的意味を説明する。
exp(tA)の実数tがパラメタだと見なせば、x(t)=exp(tA)はtによる軌跡だと見なせる。この軌跡は、群Gの1-パラメタ部分群であるとも言える。
具体的なtの値を入れて考えてみよう。
t=0とすると、exp(tA)=exp(0)=E と単位行列になる。
つまり、どんなAであれ、軌跡 x(t)=exp(tA) は必ず原点(単位元)を通過する。ただし、通過の仕方はAによって様々である。
x(t)=exp(tA) の t による微分が、軌跡曲線の接ベクトルであると見なすと、
dx(t)/dt=Ax(t) である。Aによって、方向が様々であることがわかる。
また、単位元を通過するときの方向は、t=0として、dx(0)/dt=Ax(0)=Aである。
これは、「リー代数の元Aは、軌跡曲線x(t)の単位元を通過するときの方向(接ベクトル)である」ということができる。
こうしてみると、Gの単位元近傍の元であれば、少なくとも、リー代数Lの元Aを連続的に変化させることで表すことができそうな気がする。

実は、特殊直交群SO(n)やユニタリ群U(n)の任意の元は、必ず行列の指数関数として表せることが知られている。
U(n)は、対角化を使って容易に示せる。
また、U(n)に対するリー代数が反エルミートであることも容易に示せる。


<無限小線形変換としてのリー代数>

行列の指数関数が、線形変換としてベクトル空間Vに作用することを考える。
パラメタtの絶対値が無限小のとき |t|≪1、
exp(tA)≅E+tA+(tA)^2+・・・
なので、
v'-v=exp(tA)v-v=・・・≅tAv
すなわち、「リー代数Lは群Gの単位元近傍の局所構造を決定する」のだ。

補足:exp(tA)を線形変換として作用させたときの、変化の仕方は、tAによって決まるということ。


リー代数Lの元Aは「x(t)の原点における接ベクトルだ」と前述したが、リー代数Lの元Aは、本当にベクトルとしての性質を持っている。

<リー代数の性質>

(ⅰ) aは実数、A∊L なら aA∊L ☜ 定義より明らか
(ⅱ) A,B∊L なら A+B∊L ☜ expのテイラー展開で示せる
(ⅲ) A,B∊L なら [A,B]∊L ☜  expのテイラー展開で示せる。まぁまぁ面白い。

リー代数は交換子積 [A,B] について閉じているという特徴をもった(性質ⅲ)行列の成す実ベクトル空間(性質ⅰ,ⅱ)であることが言える。

たぶん、この性質の方を、<リー代数の定義 その2> としてもよい。
間違っていたら、ご指摘ください。


さて、リー代数Lは実ベクトル空間だとわかったので、任意のLの元Aは、行列である基底ベクトルの線形結合で表せるはずである。

$${A=\sum_1^{dim{L}}α_i X_i }$$

α_iは上記の基底のもとでは、Aの成分だから全て実数である。
リー代数は、無限小変換を決定する(生み出す)のだったから、基底ベクトルは生成子とよばれる。

リー代数は交換子積について閉じているのだった。したがって、これも基底ベクトルで展開できる。

$${[X_i ,X_j ]=\sum_1^{dim{L}}f_{ijk} X_k }$$

展開係数は、$${X_i ,X_j }$$と$${X_k    { for  any  k}}$$ の関係性、すなわち、リー代数の構造を定めているので、構造定数とよばれている。

$${[X_i,X_j]=-[X_j,X_i]}$$ だから、$${f_{ijk}=-f_{jik}}$$ と構造定数には反対称性がある。


群 SO(3) の リー代数の元Aは、3次元回転の生成子Jを基底として展開できる。
イメージできない人は、オイラー角と検索してみてください。
この生成子は、次のような交換関係にあります。

$${[J_i ,J_j ]=-\sum_1^3ε_{ijk} J_k }$$

生成子同士の内積は、$${2δ_{ij}}$$となり、互いに直交していることがわかります。前述の軌跡のイメージでは、原点(t=0)において、ちゃんと接ベクトルが直交していることに相当します。
ですから、展開係数(Aの成分)を連続的に変化させれば、3枚の直交する羽が回転して、単位元近傍を覆えそうな気がします。扇風機のプロペラの様。

次に、SU(2) の リー代数の元は、パウリ行列を生成子Sとして展開できます。
この生成子には、次のような交換関係があります。

 $${[S_i ,S_j ]=-\sum_1^3ε_{ijk} S_k }$$

また、内積は$${\frac12δ_{ij}}$$と、互いに直交しています。

以上より、リー代数 so(3) と su(2) はどちらも同じ交換関係をもっていることがわかります。

リー代数の構造は全く同じですが、元の次元が3×3なのか2×2なのかといった違いがあります。
表現の次元は、交換子の次元で決まるので、J_iによってsu(2)を展開すれば、so(3)と同じく3次元表現にすることができます。☜合ってる?


お気づきかもしれませんが、so(3)の生成子J_iの(j,k)成分は、ε_ijkに等しいです。

$${(J_i)_{jk}=ε_{ijk}}$$ 

実はこのことは、一般に言えて、構造定数を使って、リー代数の表現を与えることができます。

$${(L_i)_{jk}=-f_{ijk}}$$ 

のように、構造定数からリー代数の表現を与えることを、随伴表現といいます。

このように表現されたリー代数の元同士の交換子積を計算してみると、まさに、リー代数の交換関係を満たしていることがちゃんと確かめられる。
ただし、直接、交換子積に代入するのではなくて、ヤコビの恒等式から導くことを参考した本ではしていた。最後に参考にした本を書く。

so(3)の生成子J_iの(j,k)成分は、ε_ijkであった。そして、ε_ijkはsu(2)の構造定数でもあるから、so(3)の3次元表現はsu(2)の随伴行列であると言うこともできる。


最後に、リー代数の元Aの群Gの元exp(tB)による相似変換が、構造定数のセット(N次元実ベクトル)の線形変換として捉えられることを言っておく。

$${A'=e^{tB} A e^{-tB}}$$ と $${α'=e^{tℓ}α}$$ が等価なのだ。

右式の変換行列を見ておく。 

$${ℓ_{ij}=-\sum_1^Nβ_{k} (L_k)_{ji} =\sum_1^Nβ_{k} f_{kji} }$$

すなわち、実は、随伴表現とは、表現のベクトル空間としてリー代数をもつ表現なのである。「ある群の随伴表現とは、対応するリー代数上の表現である」ということだ。(なお、この表現の次元はリー代数の次元に等しい。)
群の表現のリストをつくるためには、リー代数の色々な表現が構成されればよいということなのだから、リー代数が研究されてきたわけだ。

ここまでのことは、「梁成吉, キーポイント 行列と変換群, 岩波書店, 1996」の 最終章 ポイント10 を参考にして、まとめた。
おそらく、初学者にとって最もわかりやすく書かれている。


<リー代数の応用>
角運動量 su(2)
・・・



to be continued…












この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?