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実は回りくどいリーダーシップ論としての「セルフマスタリー」 - 学習する組織#5

ディシプリンは4つだったのか?

「システム思考」(#1)を活用して各々の「メンタルモデル」(#2)を描き出し、統合することで自分ではない全体としてのシステムを理解する(「チーム学習」(#3))。その結果見えてくる有りたい姿のそのために取るべきアクションがチームに共有されている状態が「共有ビジョン」(#4)。ここまでくれば最強組織としての学習する組織の出来上がり。めでたし、めでたし。

じゃあ、学習する組織を創り出すディシプリンは4つで良かったってこと?というところまでが前回のお話。で、「いや、5つ目のディシプリン『セルフマスタリー』も欠かせないのです」というのが、今日のお話。

桃太郎とオニ太郎のシステムに戻りたい(学習する組織#1参照)。桃太郎の物語世界のシステムを一つ上から眺めてみれば、取るべきアクションは明確に思える。そしてそのアクションはわかりやすく、誰もがハッピーになれる道である以上、やらない手はない。どんどんやればいい。一度システムを観たら、誰しもそう思うだろう。

もう一度桃から生まれてみよう

でも、今度は一旦その「鳥の目」は忘れて、「桃太郎」本人の目で村を眺めて観てほしい。傷を負った老婆。家を焼かれた家族。お腹をすかせた少年。母を失った乳飲み子。あなた自身も当然他人事ではない。将来を誓いあった相手が攫われて、安否すら不明確。そんな状況を想像する。どんな気持ちだろうか。さあ、問題を解決するためにオニと協力して畑を耕そう!という希望に溢れているだろうか??

少なくとも私には全く自信がない。我を忘れて荒れるに違いない。大声で叫ぶに違いない。枯れるまで泣くに違いない。そして、復習を誓うに違いない。

理性と感情はこうまでズレる。システム全体を俯瞰する立場と当事者とでは全く違う。

100歩譲ろう。桃太郎は、もしかしたら冷静に鳥の目を失わずにいるかもしれない。でも、「これからオニとダイアログしにいく」なんて抜かしたら、桃太郎は英雄どころか大きく撓んだ感情のはけ口として袋叩きに遭うかも知れない。育ててくれたおじいさんは言うかも知れない。「お前をそんな腰抜けに育てた覚えはない!」

システムは強力だ。少しくらいのゆらぎは物ともしない。すぐに修正してしまう。桃太郎の胸を掠めた新しいシステムなんて、簡単に葬り去ってしまう。桃太郎は刀ときびだんごを手渡され、村の希望を一身に背負って、旅立たなければならない。

マスター・モモタロウ

でも。もしも。どれだけ村人に罵られようと、どれだけおじいさんとおばあさんに泣かれようと、どれだけ犬・猿・雉に説得されようと、決して流されない桃太郎がいたらどうだろう。きびだんごも渡されず仲間も得られず、ただ一人空腹のまま丸腰で鬼ヶ島にたどり着き、棍棒で武装していきり立つオニの集団に囲まれながらも毅然としてダイアログを提案する桃太郎が現れたらどうだろう。人とオニの暴力の歴史は、彼によってついに終止符を打たれるかも知れない。

「システム思考」「メンタルモデル」「チーム学習」「共有ビジョン」。この4つのディシプリンを順を追ってこなしていけば、最強組織を創ることができる。多分それはそのとおりだ。ただし、それが簡単なことだとは思わないほうがいい。間違いなくその道は茨の道だ。システムの中で生きていればそれなりに生きていけるのに、なぜわざわざRed Pillを飲むのか?システムを「世界そのもの」と思っている人からすれば、それは狂気だ。

でも、誰かがRed Pillを飲まなければならない。そうしなければシステムは変わらない。その覚悟を持つ人、それが「セルフマスタリー」を修めた人だ。

「セルフマスタリー」を持つ人が覚悟を持って取り組まなければ、他の4つのディシプリンは起動しない。「学習する組織」の技術的な中核は「システム思考」だけれど、「学習する組織」を実現するための最重要ディシプリンは「セルフマスタリー」だ。

そう考えると、「学習する組織」のストーリーは、回りくどい「リーダーシップ論」だとも思えてくる。そしていっそのこと「リーダーシップ論としての『学習する組織』」へと振り切るとしたら、そのリーダーシップは「サーヴァント・リーダーシップ」であり「ビジョナリー・リーダーシップ」であり「オーセンティック・リーダーシップ」だろう。特に「オーセンティシティ」は、この困難を引き受けていくためにはなくてはならないものだろう。

ここまでで、学習する組織を構成する5つのディシプリンのお話は一区切り。次回からは別のテーマに入りたい。この流れでリーダーシップに行こうか、とも思ったけれど、リーダーシップは結構長くなりそうなのでもう少し寝かして置きたい気もしている。次回キーボードに手をおいたときに指が何を語るかに任せようと思う。


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